第57話  最強決定祭⑦

「「――うおおぉぉぉおおおおお!!!」」


 雄叫びを上げ、ぶつかる。

 そして聞こえてくるのは、武器と武器がぶつかることで発生する、甲高く、硬質な音のみ。


 瞬き1回する間にも、幾つもの攻防が繰り広げられている。

 突き、薙ぎ、斬り、防ぎ、水晶が現れ、消え…………――――




 ――『晶弾』を2発発射するも、一閃のもとに斬り伏せられる。

 返す刃でカウンターが放たれるが、『晶盾』で防ぐ。


「ライン、そろそろその盾も耐久度が落ちてきたんじゃないか?」

「その常識が通じるのは、一般魔術師だけだ。 オレにその常識は通用しないんだよ!!」


 攻撃を受ける度、『晶盾』の魔力量が減少するため、魔力を注ぎ、耐久度を回復している。


「通りで……」

「そして、オレの切り札を見せてやろうか?」

「ぜひとも」


 ここでの切り札は、『晶棘』を指す。

 別に、必殺技というわけではないんだが。……あれ、体育祭で使ったっけ……? ま、いっか。


 ターバのカウンターを防ぎ、『晶棘』を足元から生成する。


「ちっ! これか!」

「そうだ」


 宙に浮いている状態のターバ。これは受けるしかないよなぁ?

 ……いや、間に合わないか。


「うっっ!!」


 そして、そのまま吹っ飛んでった。だが、受け身は取っている。

 だが、先ほどと同じく畳みかける。


 先ほどと同じく、両者の中間地点で刃が交わる。テレパシーでもあるのかと疑いたくなる。


 だが、先ほどと違う・・・・・・ことが起きる。


 異変は、少し後に起こる――






 ターバにこれまでと同じように、畳みかけようとし、走り出した。

 ターバも同時に走り出した。


 どうせ、これまでと同じように、「どちらかが飛ばされ、またぶつかる」のだろうと思っていた。そして……


 ――自分が最終的に勝利する、と。





 

 ――だが、今回は別の結末を、別のシナリオを辿って迎えることとなる。 


 2人がぶつかったその瞬間、ラインが・・・・闘技場の壁まで吹き飛んだ。


 闘技場は、上から見ると、半径30メートルの円形だ。

 中央を座標(0,0)とし、2人のぶつかった位置を、(20,-10)とするなら、ラインの激突した壁は、(-20,10)。

 つまり、ラインは60メートルも吹っ飛んだのだ。


「……おい、何が起きた?」

「飛んでったの…………ライン・ルルクスだよな? 水晶の……」

「生きてるのか?」


 観客は騒然としていた。


『観客の皆さん、落ち着いてください! ライン選手は生きております。魔力探知で確認されています』






 ――何が起きた……??


 確か、ターバが棍の攻撃範囲に入ったから、攻撃しようとして…………そうだ。

 悪寒を感じて、咄嗟に『晶装』で全身鎧フルプレートアーマーを生成したんだ……。


 ……『晶盾』がない。繋がりも消えている。破壊されたか……。

 この鎧も、耐久度ぎりぎりだな……。


 ――ゾクッ!!!


 おい…………嘘……だろ? この反応……。


 信じたくなかった。あまりにも絶望的で、最悪のタイミングだった。


 それがもたらすのは、「敗北宣言」。そう……ターバ・カイシ。彼は、


 「――覚醒……!!」


 覚醒したのだ。






 ラインと、今にも再び攻防が再び始まろうとしたとき、体の奥底からナニカが溢れ出した。

 でも、それはとても体に馴染んだ。瞬時に、こう理解した。


 ――制限が解除されたんだ、と。


 自分でも気味が悪いと思う。

 突如溢れ出した力の塊に、まるで怯えることがないんだから。

 むしろ、「普通」と感じている。


 だが、俺も馬鹿じゃない。自分が覚醒したってことぐらい……わかる。


 


 ターバの顔には、右額から右頬にかけ、痣が出現していた。

 右額でぐるっと回り、緩やかな曲線を描きながら落ちている。


 誰の目にも明らかだった。ターバが覚醒したという事実は。

 





「ライン!」

「安心しろ。生きてる。水晶の硬さなめんな」

「よかった……。さて、どうする?」

「答えは言わなくてもわかんだろ?」

「結果も、言わなくてもわかる」


 って思うじゃん?

 ま、実際そうなんだけど。ただ、降参するのは格好悪いからしない。 


 それだけだ。

 オレにできるのは、生き残ること。


「よし、続きといこうかぁあ!」

『おおっとぉ! ライン選手、まだ立ち上がるようです! よく見ると、なんと! 無傷!! ですが、相手は覚醒者! どこまで戦えるのでしょう!?』

「いいのか?」

「――ああ」


 その一言で、ターバが迫って来た。瞬きする時間だけで、目の前に迫っていた。だが……


 ──知っている。

 だから、防御の構えをしていたんだ。狙うのは、カウンター。

 せめて、一矢報いたかった。それだけで、十分だった。


「――じゃあな」


 プログラミングは、何も変形トランスフォームだけじゃない。

 決められた時間、決められた場所で生成させることができる。



 ──言わば、時限発動式魔力操作プログラミングだ。



 無数の『晶弾』がターバの背後に生成され、一斉に発射される。

 殺傷能力はある。

 こうでもしないとダメージが入らない。


 それに、覚醒者はゴキブリ並みにしぶといらしい。大丈夫だろう。

 ただでさえ丈夫なターバだ。しぶとさはゴキブリ以上だろう。


「くっ!」


 ちっ! 気付かれたか。


 ターバは足を止め、後方に体を傾け、地面すれすれの高さで後ろ向きに跳んだ。

 もちろん、『晶弾』はこちらを向いている。


 ――だが、想定の範囲内だ。


 『晶弾』の指導権を獲得し、方向転換させる。

 この中を無傷で突破することはほぼ不可能だ。


 確かに、一つ一つは簡単に破壊できる。

 だからこそ、数の暴力を利用している。




 なんだ? 剣に魔力を集めている……?

 突然の不可解な行動。漫画じゃ、こういうのにやられるんだ。

 もちろん、やられるのは悪役。……オレ?


「おお!!」


 そして、ターバが剣を振るった。その軌跡に『晶弾』があるわけではない。一体何を……?






『……者、ターバ・カ…シせ……!! ライ………手は、回……術師が手………行っておりま…。命の心配は……………。繰り………ます、命の心…………りません』


 朧げなオレの脳内に、そんな音が流れていた。

 目の前は、薄っすらとしか見えない。視界が……薄黒く塗られているようだ。 


 夢……?

 違う、現実だ。何が起きた?

 なぜこうなった? 


 そうだ……――――


 




「――!!!」


 目が覚めた。

 え~~っと……そうだそうだ。あの時――






「おお!!」


 ターバが剣を振り下ろす――正確には、双剣を斜めに振り下ろした――と、クロスされた剣筋が飛んできた・・・・・。  


 『飛ぶ斬撃』だ。

 前世の男子で憧れない人はいない、あれ。

 まさかここでお目にかかれるとは………なんて言ってる場合じゃない。


 速い。やべ──


 ――ドオォォオオン!!!!


 そして、オレは意識を失った。






「あ、目が覚めましたか」


 ベッドの脇には、チョビ髭の30手前ぐらいの人が丸椅子に座っていた。で、白衣を着ている。

 

 誰だってわかる。医者だ。

 回復術師か、薬学師かは知らんが。


「オレは、どれくらい眠って? 体は? 最後はどうなって?」

「眠っていた時間は1時間弱。無傷。君の防御魔法は間に合ったが、勢いは消せず、闘技場の壁にぶつかり、意識を失う。以上」


 ……終了。

 普通そこは、「落ち着いて」じゃないの? 全部返された……。


「あれを受けて、無傷、か……」

「水晶の全身鎧を身に着けていたよ。意識を失ったせいで、すぐに消えてたけど」

「間に合ってなかったら、死んでたんですかね?」

「いや、生きてたよ」


 あれ、意外としょぼい攻撃だったってことか?


「気付いていないのかい?」

「? 何にです?」

「君も──」


 その後、この人の口から発せられた言葉は、耳を疑うようなものだった。


 あのときのターバは、力加減が完璧ではなかった。

 あの攻撃は、オレの魔法が水晶だったこと、反射で防御できたことといった条件が組み合わさることで防げた。


 つまり、常人なら死んでもおかしくなかった。


 にも関わらず、オレは無傷。  

 気絶の原因は、打ち所が悪かったから。


 つまり、導きたされる結論は──


「──覚醒したんだよ」

「覚醒……オレも…………」


 まじかよ。


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