第60話 僕は何か間違っていたのかもしれないな

この世界は金と権力さえあればどうにかなると思っているクソッタレな山田に対し。

俺は今の現状でその全てを破壊する事にした。

コイツだって人の子だ。

つまり.....まだ変わるチャンスはある。

俺は思いながら廊下を歩く。


「羽田。お前は何の役割なんだ」


「俺は当然ながら旅館のお勤めさ。.....俺が主役じゃ無いんだからな」


「そうか.....」


「やるからには完璧にやりたいからな。俺は」


羽田は言いながらユナ達を見る。

ユナ達は驚いた感じで周りを見渡していた。

次に山田を見てから俺を見てくる羽田。

しかし君も思い切った事をするね、と言ってきた。


「俺は山田に変わってもらいたいんだ。心からな。だから俺は山田を呼んだんだ」


「.....僕がそんな簡単に変わると思っているのかい?君は」


「変われるさ」


「.....自信を持っているんだね。そうかい」


苦笑いを浮かべながら山田は、ところで僕はどうしたら良いんだい、と言ってくる。

その言葉に、お前は手伝ってくれ。色々と、と告げる。

山田は、やれやれ。総理大臣の孫を何だと思っているのか、と言いながらも協力する様な体勢をとった。

嫌に素直だよな.....素直な時は。


「じゃあ山田君。君は調理室と.....座布団を運んでくれ」


「あ。それだったら私も.....」


「お前がやったら意味無いだろ。ユナ」


「.....えぇ.....でも私は.....」


良いから。

お前はお客さんなんだから。

と言い聞かせながら俺は客室代わりの来客室にユナを押し込める。

そして俺は手を叩いた。

すると山田が俺に向いてくる。


「1つ良いかな」


「.....何だ」


「.....君達はどうして.....こんな事をしている?」


「.....簡単だ。仲間が大切だからだ。恋人が.....大切だから、だ」


「.....意味が分からないな。何故.....」


そこまで言ってから山田は顔を背ける。

俺はその姿に、お前だって知っているだろ。親に何かしたい気持ちは、と答える。

それから山田を見る。

山田は、そんな気持ちもあったね。確かに。でも8年前に捨てたよ、と吐き捨てる。


「君達は頭がおかしいんじゃないか」


「.....お前の方が頭がおかしい。.....などと言って争っても仕方が無い。.....仕事するぞ山田」


「.....君達は.....本当に変だ。そして僕も大概に変だな。全く」


そんな呟きを聞きながら仕事を始める。

お客様の夕食とか用意する為に俺も協力するのだ。

そして俺達は動き出した。

それから調理室に向かってみる。



「ふう.....」


一連の2時間ぐらいの仕事を終えてから大きなリビングの椅子に腰掛けていると。

山部がヒラヒラさせながら3本の飲み物を持って来た。

丁度、山田と歩いて来ながら、だ。

俺は?を浮かべる。

そして見ていると山部がニコッとした。


「お疲れぇい!」


「.....何だよ。山部」


「とにかく成功しそうじゃない?これ」


「.....そうだな」


するとジュース缶を開けるとか見ていた山田がこう呟いた。

確かにこういうのも良いかもしれないな、と。

それから椅子に腰掛ける。

親父は現役の議員なんだ。.....だからこそ忙しくて捨てられていた僕にも何か分からない気持ちもあったかもしれない。.....だけど君達を見ていて何か違うと思ったよ、と言ってくる。


「.....山田.....」


「僕は何を間違えていたんだろうね。何処でこの歩く2本足を踏み外したかは分からない。だけどこれが僕は正義と思っているからね」


「お前って遠野と仲良く出来そうだな」


「.....遠野?それは誰だい?」


「.....引っ越した男子生徒だ。.....お前みたいな性格なんだ」


「.....そうか。それは是非とも仲良くしたいね」


山田は苦笑しながらジュースを飲む。

それからほうっと息を吐いた。

そうしていると、お疲れ様、と声がした。

声のした方角を見るとそこには中島、八女、羽田が立っている。

よく見たら佐藤も居た。


「何だよ.....」


「君に感謝しかない。長門」


「.....感謝される謂れは無いぞ」


でもそれでも感謝したいし。受け取りなさい、と言ってくる中島。

俺はその姿を見ながら山部を見てクスクスと笑った。

すると山田が、君達は仲が良いんだな、と言ってくる。

その言葉に俺は、そういう訳じゃ無いけどな、と答える。


「.....絆ってやつかな」


「そうだっぺ!」


「そうね」


山田は見開く。

それから、そうか、と笑みを浮かべる。

そしてジュースの缶を揺らす。

そうしてからコトッとジュースの缶を置いた。

そしてこう言う。


「今決めたけど。僕は生徒会長選挙の立候補を断念しようと思う」


「.....え?」


「.....え.....」


「まだやるべき事は山積している様だ。僕が.....これで勝っても意味が無いだろう」


「.....山田.....」


それから山田は羽田を見据える。

そして、僕は何か間違っていた。君達を見て。そして森本さんの家族を見て。そして皆さんに触れ合って。.....これがお金じゃ買えない価値かと気がついたよ、と言いながら山田は羽田を見る。


「僕はふさわしく無いって事だ。.....羽田くん。君なら.....さっきも話したけどやれると思う。生徒会長を。先程は偉そうな態度を取ってすまなかった」


「.....山田くん.....」


「.....僕は生徒会長が頂点と思っていた。.....だけどそれは違うんだな、と気が付いたよ」


「そんな立候補を断念させるとかそんなつもりはさらさら無かったんだが.....本当に良いのか。山田」


「.....ああ。スッキリしたよ」


その代わりと言っちゃ何だけど。

この計画を最後まで応援させてくれ、と山田は言ってくる。

俺達は顔を見合わせてから、ああ、と返事をした。

それから、手伝ってくれ、と手を差し出す。


「.....有難う」


「.....此方こそ」


そして生徒会長の立候補を取り下げる事になった山田は俺達を是非とも手伝いたいと申し出た。

その言葉に俺達は喜んで歓迎し。

そして手伝いを開始した。

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