第35話 じゃあアンタ達をくっ付けさせるわ

はっきりとした自覚は多分無い。

だけど鈴木が俺に言ってから.....気が付いた事がある。

それは俺の感情が段々と森本に向いている。

そんな事に、だ。

俺は.....そばに居た森本が好きなのか?


考えながら俺達はそのまま旅行当日になってから。

鈴木の代わりの森本が現れてから。

そのままバスとかに乗ってから一緒に向かった。

そして旅館に辿り着く。

あっという間だったな.....色々と考えていたから。


「長門。.....いや。藤也」


「やめろお前。いきなりだな!」


「だって藤也は藤也だしね」


「.....恥ずかしいって。名前で呼ぶなって。俺は森本って呼ぶぞ」


「えー。そんな。折角なんだからユナって呼んでよ」


この馬鹿は何を言っているの?

そんなの恥ずかしいよね?

いきなりだしね。


俺は考えながら首を振ってからそのまま荷物を持つ。

森本の分も。

そして俺達は旅館に入る。


「いやいやお兄ちゃん。そろそろ素直になったら?」


どっから聞いたのか知らないが。

聖羅がありもしない事の噂を聞きつけ俺にニヤニヤする。

俺は盛大に溜息を吐きながら額を弾く。

全くな、と思いながら。

俺がユナに感情が本当に向いているとでも?


考えながら旅館の中で挨拶をする親を見る。

親は俺達に、じゃあ行こうか、と言ってくる。

そうしていると、あれ.....、と声がした。

振り返ると.....そこに何故か山部が。

俺は目を丸くする。


「何やってんだお前は」


「この旅館はお爺ちゃん夫婦がやっているんだけど。何か文句でも」


「.....何という奇遇なんだ.....」


「.....」


え?ちょっと待って。

お客さんなの?アンタ、と言ってくる山部。

俺は頷きながら、そうだが何か文句でもあるか、と言う。


だとするなら私は経営者としてアンタに接するわ、と山部は言ってくる。

そらまあ.....有難いこった。

余計な気を使わなくて良いからな、と俺は言う


「山部さん」


「.....!」


山部はその声にビクッとする。

それからユナに萎縮した。

俺はその姿を見ながらユナを見る。

ユナは、あ。違うよ。怒ってないよ、と言う。

山部はそのまま顔を上げる。


「.....ただ.....そのお願いがある」


「.....何の」


「長門.....じゃない。藤也に優しく接してあげて」


「は?私は.....」


そこまで話してから山部は押し黙る。

それから俺を見てくる。

そして、森本さんが言っているから。アンタと仲良くする、と話した。

俺は、そうか、とだけ返事をした。


「私はアンタを許した訳じゃ無いし.....それに許せないかも知れないけど」


「.....俺はお前を半分ぐらい許しているけどな」


「え?何でよ」


「つまりおあいこって事だ。俺とお前の恨みは同じだろ」


「.....意味分からない。何で私がやった事を許せるの」


何時迄も恨む事じゃない。

ユナが許しているんだから、と俺はユナを見る。

そんなユナは頷きながら柔和になる。

山部は困惑しながら、そう、とだけ返事をした。


「.....だからね?私達.....優しくなりたいな」


「意味分からない。.....でも貴方が言うなら」


「.....」


正直全てが終わった訳じゃないが。

俺は良かった、と思いながらその姿を見ていた。

それじゃ先に行った両親と聖羅を追わなくては、と思ったのだが。

その前に山部がこう言ってきた。

ねえ。アンタって付き合っているの。森本さんと、と。


「んな訳あるか。そんな感じに見えるか?」


「名前で呼び合っているのに?あり得なくない?」


「.....あー.....まあそうだな」


「私は付き合っていると認識しているけど」


「ふざけんなお前」


ユナの野郎は何を言っているんだ。

すると、ほらー、と山部が言ってくる。

俺は2人を見ながら、面倒クセェ、と額に手を添える

そうしていると、まあ別に良いけど、と山部が言ってきた。

それから、昔と今とでは話が別だから、と。


「.....過去は過去だし。私は応援する。アンタ森本さんを好きなら」


「そんな事言われても俺はユナが好きとかじゃないし」


「は?」


は?、で威圧するな。

俺は苦笑しながらユナを見る。

ユナは、大丈夫。私は好きにさせてみせるし、と山部に向いた。

山部は目を丸くしながら、そう、と返事をする。


「具体的に何処が好きになったの。森本さん」


「え?全部だよ。全部好き。昔から」


「.....お前な。良い加減にしろ。公開処刑してんのか俺を」


「え?だって好きだし」


「.....」


コイツ鈍感!

俺は考えながら額に手を添える。

そうしていると山部が何かを考え込む様に顎に手を添える。


それからポンッと手を叩く。

じゃあこの宿泊期間でアンタ達をくっ付けさせる、と言ってきた。

何言ってんの?


「私に出来る精一杯の過ちの訂正だから」


「.....いやお前。話聞いてる?俺ってユナに確実に好きな天秤が向いている訳じゃないよ?あのね」


「.....は?アンタマジに言ってるの?こんなに好いてくれている女子が居るのに?シャキッとしなさいよ。シャキッと」


怒りの目を向けてくる山部。

馬鹿かコイツは。

俺は額に手を添えながら、おい。ユナ。お前も何か.....、と言ったが。

ユナは真っ赤になって俯いていた。


何だこの反応。

その姿に俺も赤面する。

これはマジに困ったもんだな.....、と思いながら。

何ちゅう反応だよ。

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