第31話 それでも先輩の事が好きです

山部遥。

俺はこの女を友人と思っていた。

しかし実際は友人とかではなく.....まあ俺が悪いのかもしれないけど。


全ての破滅を導いた女だ。

そのトリガーとなった女と言える.....いや違うか。

まず第一に俺の前で付き合ったと言った女だ。


「山部。俺は成長した。人の世界を俺の世界を俺自身で壊す事はもうしない。俺の存在は.....あってはならないものになりつつある」


「.....そうなの?でもアンタは駄目。この先もずっとアンタの周りは不幸になっていくわ。アンタのせいで」


「確かに俺はリア充のグループを統括出来なかった。そんな資格は無かった。それどころか内部から綻びさせえて崩壊に導いた。.....だけど俺は.....」


「アンタのせいで私は恋人と別れる事になった訳なんだけど.....その事を忘れたら困るしそれにアンタのせいで佐藤くんも付き合っていた人と別れてみんな不幸になったんだけど」


そうだな。

今でも忘れない。

佐藤翼(さとうつばさ)。


俺の親友だった男子である。

リア充で偉そうに見栄を張っていた時。

俺は全てがこの地位なら手に入ると思っていた。

本当に当時は傲慢だったと思う。

その傲慢さが仇になった。


コイツが付き合った時に嫉妬したのだ。

そして佐藤が付き合って。

またこれも友人だった田中郷(たなかごう)が付き合った時。


俺は気が付いた。

自分が目の前しか見てなくて。

そしてそれに呆れたみんなが恋人を作っていて。

自分の存在価値が下がっている事に。


それで俺はみんなに、元の関係に、と猛アピールしたのだが。

みんな俺を避ける様になってしまい。

最終的には追い込まれた俺が、噂をしていたかもしれない、というだけの佐藤とかを次々に追い込まれた情けない男が殴った事により全てに綻びが生まれた。

あんな暴力男の友人?あんな暴力男の彼氏?、的な感じで。

全てが壊れていったのだ。


そうだな。

それを考えると俺が悪いな。

全てにおいて、だ。


だんだん.....目の前が真っ暗になっていく。

馬鹿野郎だな俺も大概。

また俺は.....傲慢だったのかもしれない。


「そんな事は無いです」


いきなりそんな声がした。

俺は顔を上げるとそこに鈴木が俺の前に立ち塞がり。

それからジッと山部を見ている鈴木が。

!?、と思いながら鈴木を見る。

すると山部が口を開いた。


「そんな目の前しか見ない男に付き合うの?貴方も大変ね」


「.....そんな事は無いです。今の先輩は.....目の前を見ますが.....それでも優しくみんなを見てくれています!だから貴方が昔の事はともかく。今の.....先輩をとやかく言う権利はありません!!!!!」


「それは騙されているよ。貴方が」


「そんな事は無いです。先輩は.....罪を償う為に必死にやってきています!」


「.....そう。それならそれでも良いけど」


言いながら山部は通学鞄を持ち替えた。

それから俺を見てくる。

アンタのやった事は全て精算出来ないよ、と言ってくる。


俺は唇を噛みながら俯く。

そして、そうだな、と言う。

それから山部は去って行った。


「.....先輩」


「何だ。何か聞きたいか」


「何があったんですか。先輩ってリーダーだったんですか。リア充だったんですか」


「そうだな。相当昔にな。ガキの妄想だ」


「.....そうですか」


言いながら俺の手を掴んでから立ち上がらせる鈴木。

そして俺の両頬を掴んで真っ直ぐに見てきた。

昔がどうであれ私は貴方が好きです。だから私は今の先輩がやっている事が正解と思っています。だから先輩。私達に何かあったら頼って下さい、と言ってくる。

いやいやお前。

羽田とかに頼れってか?


「先輩。貴方のやった事はきっと今でも傷付いている人は沢山居ます。だけどそれでも。私は貴方は反省しているものと思っています」


「.....どっからそんな根拠が生まれるのか。お前の頭は.....」


「ハッピーですか?.....私は先輩の事が好きなのでよく見ているだけです。先輩を」


「.....呆れたもんだな。全く」


そうか。

俺は罪の償いは出来ないけど。

だけど罪を浄化しようとはしているんだな。

考えながら俺は鈴木を見る。

そして涙を少しだけ拭う。


「.....帰るか?」


「はい。今日は帰りましょう。私達の家に」


「だな。うん」


それから俺達は帰ってから聖羅に話した。

聖羅は心配していたが俺達は首を振ってから安心させてから。

そのまま俺は自室に篭ってから.....少しだけ考えた。

そして。



『.....そうか。君はやはりリア充だった過去があるんだな』


「お前な。変わらず電話してくるの止めてくれ。俺は友人じゃない」


『そんな事言うな。少なくとも君の事は知り合い以上と思っているからな』


「そら結構だが」


そんな会話を何回目か分からないがトイレで羽田とする。

羽田は電話先から、君は本当に良い人だからな、とも言ってくる。

俺は首を振ってからカレンダーなどを見る。

そして話す。


「俺はお前が思っている様なリーダーじゃないけど。お前の気持ちはなんとなく分かるぐらいにはなってきた」


『解析したのか?俺達を』


「.....解析しなくても分かるだろ自然に」


『それもそうだな。これだけ長い付き合いだとな』


「そういうこった」


『それで山部には何を言われたんだ』


羽田はそう聞いてくる。

俺は、まあお前のせいで全てがおじゃんになったよ、とかだ、と説明した。

すると羽田は、そうか。おじゃん、か。君の言っている通りにおじゃんになったのなら確かに罪は償わなくてはならないだろうけど。でも今の君は必死にやっている。今の事までとやかく言われる問題では無いと思うがな、と言ってくる。

鈴木と同じじゃねーか。


「羽田。それはもう言われた」


『優子にか?お似合いだぞ』


「揶揄うなよ」


『ハッハッハ。.....まあ冗談はさておき。君は必死にやってくれている。過去の事は精算出来なくても今君は精算していると思うから。だから君らしく生きてくれ』


「.....」


じゃあな、と羽田は電話を切る。

そして俺は、ああ、と返事をして天井を見上げた。

殴った日と同じ天井だが。


だけど気持ちはまた別物な感じがした。

焦るな俺よ。

そう考えつつ俺はスマホをポケットに仕舞ってトイレを後にする。

そして前を見据えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る