本屋や通りの閉鎖とフードバンク
パソコンやスマホを使っての授業が増え、16歳になった翔は疲労を感じていた。本屋や通りが閉鎖され、フードバンクの前には長蛇の列ができている。パンとジュースを受け取ったベティが翔に向かって手を振りながら入って来た。
「お母さん、元気か?」「父さんがコロナにかかって死んで、やせちゃった」泣き出したベティにフェイスタオルを渡し抱きしめる。フードバンク内に水原直子がいるのに気づき、満面の笑みを浮かべる翔。
「翔。この人を知ってるの?」と聞くベティに、「ああ。俺が8歳の時に行ってた銀座の小学校で国語を教えてた水原直子先生。
『イギリスに行く』って言った後、俺と一緒にロンドン行きの飛行機の前まで来てくれたんだ。集団行動が苦手でさ。図書室にいることが多かったから」と話す。
「私も相談したい」翔はベティと手をつなぎ、フードバンク内へと向かった。
「水原先生!」「翔くん‼」直子は翔とベティを椅子に座らせ、「相談に来たの?」と聞く。
「はい。ベティ」翔が肩に手を置くと、「母の元気がなくなり、通りを歩き回るようになったんです」と小声で言った。
直子はビニール袋に入ったトマトと桃、名刺をベティに渡し、「翔。ベティ
を安心させてあげて」と肩をポンとたたいた。「はい。ありがとうございます」
駅へ向かうと、ベティの母が階段下にうずくまっていた。駅員に毛布をかけられても微動だにしない。「母さん。帰ろう」ベティが声をかけても泣くばかりで、駅員や電車を待つ客たちも困り果てている。
ほおに刺青を入れた33歳の男性エリックが舌打ちし、ベティの母に殴りかかろうとする。翔は男性駅員二人と一緒にエリックを取り押さえ、落ち着かせた。
「ありがとう」駅員が翔に感謝状を手渡し、エリックの幼少期について話し始めた。
「エリックは4歳の時に母親が亡くなり、19歳まで父親の弟に殴られながら育てられた。猫をなでている時は落ち着いているが、人は嫌っている。
おじは逮捕された後にコロナにかかり、食べ物と飲み物のにおいが分からなく
なった。
刑務所を出た後、犬猫の保護施設で猫の世話をするスタッフとして働くことになっている」駅員が笑みを見せると、エリックはジュースの缶を分別箱に入れ、無言で立ち上がり電車に乗り込んだ。
「翔。ありがとう」クラーク家の1階で、湯気の立つレモネードを飲みながら頭を下げるベティと母。「見つかってよかった。ベティを泣かせないであげてください」「ええ。ごめんなさい」娘の髪をなで、ブルーベリーケーキを机の上に置く。
「フードバンク内の寄付品です。水原直子さんがあなたを案じていました」トマトと桃をビニール袋から出し渡すと、「ありがとう。ミネストローネを作るわ」と嬉しそうな笑みを見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます