第10話:取材準備(裏)-2
前回までのあらすじ。
私の計画がバレたっぽい、久坂部に。(倒置法)
以上、以下本文。
「いらっしゃいませー、2名様ですか?」
店員さんの声掛けに対して、私も明るい表情を浮かべる。お好きな席にどうぞ―という声を背に受けながら私は奥の窓際の席に、久坂部さんはその対面に座る。私はメニューをペラペラとめくりながら異様な警戒心を見せる彼女に尋ねる。
「なにか頼む?」
「要らない、家で晩御飯食べるつもりだし。」
そっけなく一言で済ます久坂部さん。私そんなに警戒されることしたかしら。
「ちょっと、そんな硬くならないでよ。フランクフランク。」
「正直教室でのASMRがいまだに私の闘争本能をマックスにしてる。」
「いやASMRって…」
普通に生きてて中々聞かない例えが出てきた。
「まあ、いいわ。じゃあドリンクバーだけ頼もうかしら。」
そしてドリンクバーだけを注文し、私はオレンジジュース、久坂部さんはメロンソーダを注いできた。
「……(チュー)」
「……(ちゅー)」
連れてきたは良いものの、何を話せばいいのかが分からない…。
こんな風にファミレスの机を囲んでいるが、所詮私たちはほとんど初対面の様なもの。正直こんな形でなければ普通に話したりもできたのだろうが、状況が状況なためにお互い出方をうかがっている。
そんな気まずい沈黙がしばらく続いたのち、先に口を開いたのは久坂部さんだった。
「あのさ、ジンジンの事嫌いなの?」
「……どうして?」
「だって、あんなことしてジンジンのデート失敗させようとしたんでしょ?」
「間違ってないけど、間違ってるわね。」
「どういう、こと…?」
「話せば長くなるんだけど、聞きたい?」
少しの沈黙の後、久坂部さんは決意したような強い瞳でしかとこちらを見つめる。
「うん、話して。」
彼女の覚悟に引き込まれるように私も一つ深呼吸をする。そしてつらつらと何故こんなことをしたのか話始めた。
~~~中略~~~
「—————と、言うわけで私はこんな形で神野君のデートを失敗させる事にしたのよ。」
これで分かった?と話が終わり久坂部さんの方を向くと、彼女は半眼でこちらを見ていた。
「ああ、やっと終わった?ちょっと新しい飲み物注いでくるね。」
久坂部さんはそのまま席を立つ。私の話そんなに退屈だったのだろうか?話を聞き終割るまで待ち、その後すぐにドリンクバーに行くとは失礼なのか丁寧なのかよよく分からない。少し待っていると彼女は再びメロンソーダをグラスのギリギリまで注ぎやってきた。表面張力の恩恵に完全に依存しているような状況だ。そーっとグラス
を机に置き、彼女も座る。
「でー、話は大体わかった。ジンジンの事が気になっていた月元ちゃんはあいつがデートに行くっていうのが許せなくて、なんとしてでも止めようと思った。だけど自分がデートなんてするな、なんてこと言っても駄目だろうからデートを失敗させるという方法をとって相手の子を幻滅させようと思った…ってことであってる?」
「端的にまとめるとそうなるわね、だけど一部違う」
「違うって…どこが?」
自分のまとめに自信があったのか、少し不満そうな顔をする久坂部さん。
「私は別に神野君が好きなわけではないの。」
「え、そうなの?今の流れ的に、ラノベでよくあるクラス一の美少女が陰キャ男子に恋してた漢字の奴だと思ってた。」
「確かにそういう展開はラノベでよく見るけど…でも、違うわ。私が好きなのはこの世でただ一人…!」
「ゴ、ゴクリッチ…」
私は大きなためを作り、そのお方の名前を発表する!
「日向、仁先生その人よ!」
「…………はあ、」
「何よその『いや、それはジンジンっていうのと何が違うの?』みたいな目と声は」
「うん、まったくもってその通りだよ。月元ちゃんが全部説明してくれたから私は今何言おうか分かんなくなってるよ。っていうか、何で日向先生の正体知ってるの?」
「ん?そんなのファンとして当たり前の事じゃない。」
「サラッと怖いこと言うなぁ、これがヴァーチャル世代か…。」
何か諦めたようなトーンで語る久坂部さん。
「で?作家としての神野夕、まあここでは日向仁か…、が好きっていうのと、神野夕が好きっていうので何か変わってくるの?」
「変わってくるに決まってるじゃない。1期と2期の制作会社が違うアニメの作画くらい違うわよ。」
「その微妙に分かるような分からない例えやめて。で、どう違うの?」
「とある作家は、自分が童貞であるためにその欲求不満さをバネに作品を書き続け、ついに自分が女性を知ってしまった時、自分のイメージとのギャップに落胆して、以後作品が書けなくなってしまったんだって。」
童貞という言葉を聞いて少しビクッとする久坂部さん、高校生にしては純情ね、この子…
「ああ、確かにそんな話聞いたことある。知るという事はすなわち現実を知る事、自分の理想を手離すことに他ならない……。って、もしかして月元ちゃん…」
「どうやら気づいたようね。…そう、彼は女の子を知らない。だからこそあんな銀翼みたいな神作が書けるの!だからもし万一、万に一つでも彼に彼女でもできようものなら…はぁ、はぁ。」
「ちょ、ちょっと何で過呼吸みたいになってるの!?」
私の背中をさすりながら聞いてくる久坂部さん。私は2,3回深く深呼吸をし、彼女を制す。席に戻るも、いまだに心配そうな目でこちらを見ている。
「ひょっとして、何か持病とか?」
「ごめんなさい、ちょっと日向先生の新作が無くなるという状況があまりにしんどすぎて、過呼吸になってしまったわ。」
「なにそれ…心配して損した。」
さっきまでの心配そうな目は一転、冷めた目つきになっていた。
咳払いをして話を切り替える。
「だから!私は何としてでもこのデートを失敗させなくちゃいけないの!」
「そっか……あれ?でもそれ意味なくない?」
「え?どうして?」
あのデートプラン通りやればどんな子相手だとしても流石に幻滅されるでしょ…
そう思っていたら久坂部さんは衝撃の事実を伝えてくる。
「今回のデートなんだけど、実は訳アリなのよ…」
「なにそれ、詳しく。」
「実はね————」
~~5分後~~
「と、いうわけなんだよね…って、どうしたの月元ちゃん。」
「う、う…」
「う?」
「うらやま、しい…!」
「へ?」
「私もデートにかこつけて日向先生と取材したい…!なぜ私じゃなくてあの女なのよ…!」
「そ、そこまでかな?」
「そこまでよ!」
思わず身を乗り出す私に対してビクッとする久坂部さん。おっといけない、つい熱が入ってしまった。
「でも、問題はそこじゃないよ。これは別にデートじゃないからジンジンがどんなデートプラン持って行っても早瀬さんが修正かけて終わりだよ。…って、話聞いてる?」
「かくなる上は、かくなる上は……」
「うん?どうするつもり?」
「かくなる上はっ!」
「ひっ」
「フェーズ3に移行するわよ。あなたも一緒に来てくれるわよね、久坂部さん。」
「あ、あ、…」
「来てくれるわよね、く・さ・か・べさん?」
「は、はいい…」
そうして私たちはフェーズ3(デート現場の尾行)を決行するとこになったのであった。
「そういや、月元ちゃん学校の時となんか口調違くない?」
「ああ、神野君はカワイイ口調の方が好みかと思って。」
「それ最早好きなんじゃないの…」
「なんか言った?」
「ううん!何でもない!」
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