第5話:突然の来訪

 前回までのあらすじ!


 クラスメートの《久坂部灯|くさかべともり》になんやかんやあって早瀬とコンビを組んでラブコメを書くことを知られた!


 取材とかどうしようかなーとか思いながら家に帰ったらドアの前に早瀬がいた。

 ナンデ!ハヤセナンデ!


 ・・・以上!以下、第5話!



「ふ~ん、一人暮らしし始めたって聞いたけど、部屋の雰囲気とかは変わってないのねー。あ、これ”銀翼”の最終巻のサイン本じゃん!一冊頂戴!」

 サイン本を手にしてなんとも図々しいお願いをしてくる早瀬。

「ダメに決まってんだろ。」

「え~ケチ臭いな~。いいじゃん一冊くらい」

「ダメだって、サイン本それしかないんだから!」

「うん、確かこれ100冊くらいしか無いんだよね。あたしも持ってないし。」

「確信犯かよ!」

「あ!こっちはジェイク様のポスターだー!」

「先に言っとくがあげないからな。」

「チッ」

「え?今舌打ちした!?」

「チッ、してないわよ。」

「今明らかにしただろ!俺に聞かせるようにしただろ!」

 これには無視を決め込み俺の本棚をじっくり眺める早瀬。


 ていうか…

「何でお前自然にウチにいるんだよ!」

「うん?」



 ~~さかのぼる事5分くらい前~~


「何って…取材の打ち合わせに決まってるじゃない。」

「え…?」

「ほら、鍵。」

 未だに俺は処理が追い付いていない。

「だーかーらー。鍵開けて!」

「お、おう。」

 状況整理ができていないまま早瀬に言われるがまま部屋の鍵を開ける。

「お邪魔しまーす。」

「いや、お前家に来るの初めてだろ…」

 数年というブランクを感じさせないフランクさで(IQ200)彼女はわが家に入っていった。


 ~~~~


「で、数年ぶりに家に来た思ったら何だ?サイン本ねだりに来たのか?」


「んなわけないでしょ。さっきも言った通り打合せよ、打合せ。」

 そういいながら俺のワークチェアにどっかり座る早瀬。

「ほら、座って。打合せ始めましょ?」

 仕方なく俺は地べたに座る。

「じゃあ、一応新作ラブコメについて考えていきたいと思うんだけど…」

 そこで言葉が止まる。


「…この高低差じゃ話しづらい、不便ね。」

「誰のせいだ!」

 やっぱりこいつはなんも変わっちゃいない、昔から何一つ。

 で、結局二人でダイニングテーブルに座った。


「まあでも、取材がどうとかの前に大まかなプロット考えなくちゃね。」

「俺としてはお前に読ませたあの作品をベースにしたいんだが。」

「うーん、それでもいいんだけどねー、ちょっと弱い気がするのよね。」

「ふん、ラブコメも読まないような奴に何が分かるんだか。」

 ほんと、編集者気取りならやめてほしいもんだよ…


「……読みました。」

「へ?」

「鞄」

「え、何々?」

「いいから、鞄とって。」

 頭に?を浮かべながら早瀬の鞄を取る、って、これ…

「重っ、中に何入ってんだよ…。」

 早瀬の鞄は見た目からは想像もつかないほどの重さだった。

「開けてみて。」

 鞄を開けると中にぎっしりと詰め込まれていたのは、


「———ラノベ?」

 しかも、ラブコメばっかり。

「そう、アンタに昨日あんなこと言われたから、帰りに本屋さんで売れてるラノベ買って、とりあえず一通り読んで来たわ。」

「いや、にしてもこの量は…いったい何時間かけたんだよ。今日授業もあっただろ…」

 それに対しては早瀬は何てことないかのように答える。

「?授業中も読んでたけど?」

「お前…危ないぞ?オタクだと思われたらどうすんだよ!」

 それを聞き彼女は複雑そうな顔をする。


 ふとあのカフェでの会話が頭をよぎる。


(「————あと、早瀬ちゃんのオタク嫌いってのも、嘘でしょ?」

 「……答えなきゃダメですか?それ。」)

 俺も思わず押し黙る、しかし俺が彼女にオタクと思われるリスクを背負わせたのもまた事実だ。


「…いや、早瀬、ありがとうな。」

 苦みと笑みが混ざったような表情をする早瀬。

「何よ急に、辛気臭い。」

「いや、なんでもない。そんでその大量のラノベの成果は?」


 それを聞き、早瀬はぱぁっと嬉しそうな顔をする

「そうなのよ!いや~正直ラブコメって自分には合わないなって思ってたんだけど、食わず嫌いだったわね!特にこれ!主人公がかっこよすぎるし、ヒロインの子も個性的でめっちゃ可愛いしでホント最高だった。帰りに全巻買っていくつもり!」

 と、ここまで息継ぎなしで言い切る早瀬。

「ああ、『モノ恋』か———」


『モノクロームの恋模様』、通称『モノ恋』。今中高生の間で大人気の恋愛ラノベ。

 主人公の碓氷昂うすいこうが過去のトラウマにより世界が白黒にしか見えないようになってしまった少女、八雲瑞果やくもみずかに恋をし、彼女の世界に彩をもたらそうとするストーリー。主人公のひたむきさやヒロインの健気さに心打たれる人が続出し、今最も熱いラブコメ作品ともいえるかもしれない。尚、作者は高校生との噂もあり、普段ラブコメを読まない俺の一押しの作品だ。


「あー、私も瑞果ちゃんみたいな彼女欲しいなぁ。」

「そこは”昂君みたいな彼氏欲しいな~”じゃないのかよ。」


 彼女はむっとした表情でこちらを見て、ため息をつきながら俺の原稿とモノ恋を眺める。

「やっぱ高校生作家は違うな~」

「俺も一応銀翼の作者なんですが…」

 お前俺の作品のファンなんだよね?パスタ丸さんなんだよね?

「あ、そういやそうだった。」

「そうだったってなんだよ…。」

 なんだか話が一向に進んでいない気がする。


「で、モノ恋の話はいいから、早くその改善点ってのを教えてくれ。」


「例えば、アンタの作品のキャラ設定!まずヒロイン!」

「おう、なんか問題あるか?割と大衆受けしやすいキャラにしたつもりだが…」

「そこ!そこなんだよ!」

 びしぃっと指をさしてくる早瀬。お前なんだ、前原さんに弟子入りでもしたのか?


「あんたのヒロインはなんていうか、個性がない!」

「…こ、個性か。」

「そう!あんたのヒロインはなんかごちゃまぜなのよ、どっかで読んだようなヒロインの詰め合わせ!このヒロイン推せる!みたいな感じがないのよね…」

 ぐぬぬ、中々厳しいことを言う…。


「まあそこはあんたが推せるヒロインってもののイメージが明確にできてないんだろうね。」

 正論過ぎて何も返せない…

「後は何度も言っている通りデートシーンね…まあそこに関しては…」

「そこに関しては?」

「今週末で解決するからいいとして…」

「へえ、今週何かあるのか?」

 早瀬はきょとんとした顔をする


「アンタ今週末空いてるでしょ?取材、日曜に行くわよ。」

「おう、分かった日曜だなーって、日曜!?」


「うん、日曜。プランはあんたに任せるから、ラノベのデートシーンだと思って、エスコートしてよ。」


 とんでもないことを言いだす早瀬。

「え?正気?」

「もち、正気。」

「SANチェックしなくていい?」

「いらない、やばいと思って急にボケ始めるな。」

 何でそこまでお見通しなんだ…!


「そういう事で、じゃあ話の続きするわよ。」

「……」


 その後、早瀬と何を話したかは全く記憶にない。







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