第4話:重大な問題
前回までのハイライト
幼馴染とデートの形で取材を行うこととなった。
以上!・・・・・以上って言ったら以上です!
♦♦♦♦
ここは県立竹之山東高校2-E組。ここでは総勢45名の少年少女たちが、勉学や部活、委員会などにいそしんでいる。皆将来への希望と、先の見えない不安が混ざったような顔をしながら、それぞれの青春を謳歌しているのだろう。しかしそんな光に満ちたクラスに似つかわしくない暗い顔をする少年がいた…。
「はぁ……」
クラスで一人暗い顔をしている男こと俺、神野夕は一人大きなため息をついていた。
「どうしたのジンジン?ため息なんかついて、似合わないぞ?」
「ジンジン言うな灯。」
俺をジンジンと呼ぶのはクラスメートの
「いや、ちょっと新作の件でいろいろあってな…」
「おお、新作!ひょっとして”銀翼”の続編!?」
「いや、今回はラブコメだ。」
「らぶ、こめ?」
きょとんとした顔をする灯。そのリアクションはねぇだろお前、おばあちゃんかよ。
「え?ジンジンまだ性懲りもなくラブコメ書いてるの?」
「性懲りもなくとか言うな。」
傷つくだろうが。
「俺はめげずに頑張ってるの!昨日も、ズタボロに、言われながら…。」
「はいはい、泣いたフリしない。」
俺は背筋を戻す。
「で、その新作がどうかしたの?またボツ食らったのか?」
「ああ、まあボツではあったんだが、今回はそれの何倍も面倒なことに巻き込まれててな…。」
「へえ、面倒ごとって、どんな?」
いや、いくら相手が灯だといえ流石にこの話をするのはまずいんじゃないのか?相手はあの早瀬妃花だぞ?スクープになったら迷惑かけるぞ?
「いや、まあ何でもない。忘れてくれ。」
上ネタの予感を感じ取ったのかニヤッとする久坂部。
「何々?気になるじゃん。水臭いぞ~この灯さんに隠し事か?」
「いや、正直お前ならばらさないとは思うんだけど、万が一ってのがあるしな。」
これには灯は少し照れた様な顔をする。
「え~?ひょっとして、私結構信用されちゃってる感じ?いや~照れるな~。まあ良いよ?そんな大ごとなら今回ばっかりは私も見逃してあげても…」
「だってお前、俺意外にばらすような友達いないだろ。」
「前言撤回、絶対吐かす、どんなグレーな手を使おうとも絶対吐かす。」
やべ、正直に言いすぎた。灯が見たことないくらいにどす黒いオーラが出ていた。
「いるもん!私友達いるもん!」
んなト〇ロみたいないい方しなくても…
「ごめんごめん、そんな怒るなって。」
俺は軽く謝るも、彼女の怒りは収まらないようだった。
「いや許さないね。なんとしてでも吐いてもらう。そうでもしないと私の怒りは収まらないよ。」
「本音は?」
「日向仁の新作情報のリークとか最高かよ。」
「欲まみれじゃねぇか。」
「そりゃそうでしょ!一ファンとして、新作情報なんて気になるに決まってるじゃん!」
そうなのだ、こいつも会話の端々からわかるかもしれないが実は日向仁のファンである。俺の本は灯のおかげで完結後も未だに久坂部書店で全巻平積みされている。
「でもこの話は流石になぁ…」
そんな俺の様子を見るに見かねたのか久坂部が声をかけてくる。
「そこまで渋るようならこっちにも最後の切り札、抜いちゃおっかなー。」
「さ、最後の切り札ってなんだよ…」
ふふんと言う声が聞こえてきそうな得意げな笑みを浮かべる。
「あんたの新作、うちの本棚においてあげない。」
「ちょっ、お前!それは反則だろ…」
「どう?観念した?」
しばらく悩んだ末、俺は久坂部に打ち明けることにした。
「絶対誰にも言うなよ?」
「モチのロン、約束するする!」
「…実はな、」
~~5分後~~
俺は実は早瀬が俺の古参ファンの『パスタ丸』である事や、俺の新作ラブコメ執筆の協力者になったこと。その一環で彼女と取材に行かなければならなくなったことを一通り話した。
「ほえー、ラブコメの新担当がまさかの幼馴染。そんなラノベみたいなことあるんだね。」
「それについては激しく同意する。」
「でもいいじゃん。早瀬氏かわいいよ?」
「問題はそこじゃなくて取材だよ取材。マジでどうしたもんなのか…。」
「はあ、折角美少女とデート出来るってのに、ぜいたくな悩みだねぇ。」
やれやれといった風な灯。
「いや、俺だって相手が他の子だったら喜んで参加したぞ?例えば…」
俺は思わず教室のある方を向いてしまう。
「今、誰の顔想像した?」
ギクッ
「い、いやぁ?別に誰も」
「月元円ね。」
ギクギクッ
「まあ、『オタクにも優しい清純派ヒロインとして有名な彼女が自分のファンかつ相方だったらな』~とかクラスメートのオタク君が考えちゃっても仕方ないね?」
ギックゥ!
「き、貴様なぜそれを…」
「私がジンジンと何年の付き合いだと思ってるのよ。」
ゆうておまえ3年くらいの付き合いだろ。いや?3年なら長い方か。
ここで月元についての説明をしていこうと思うが、早瀬妃花が『オタクに厳しい美少女』だとすれば彼女、月元円は『オタクにやさしい美少女』実はすごいお嬢様だと噂されているがそれに裏打ちされた清純そうな雰囲気と言葉遣い。そしてどんな相手にも挨拶をしてくれる!見た目もよく、気取らず、性格もよい!まさに3拍子揃った美少女である。
「こらこら、どーせキモいこと考えてるんだろうけど、セクハラはよしなさい?警察呼ばれるよ?」
「何で見つめてるだけでセクハラ呼ばわりされなきゃならねぇんだよ!おかしいだろ!」
俺にだって美少女を見る権利くらいはある!
そんな事を言いながら、ぼーっと月元の方を見ていると、視線に気づいたのか彼女はこっちを向き、微笑んでくる。うわっ、可愛い…。
「あ、今こっち見てニコってしてくれた!なあ、見たか?」
「あの子はジャニ〇ズかなんかかよ。ジンジン今ライブとかでうちわ振ってる人と同じ目してたよ…。」
なんだか微妙な評価を受けた。
「いや、でも今は完全に俺の方見てた…」
「はいはい、例えそうだとしても、今の君を見たら絶対失望するよ。」
ぐっ、確かに正論…
「あー、俺も美少女とデートしたいなー。」
「どこまでも欲望に忠実だね…。」
そこまで言って灯はふと何か気づいたのような顔をする。
「あ、そういえば今更なんだけど…。」
「うん?どうした?」
「ジンジンってなんでそんなに早瀬ちゃんと出かけるの嫌なの?」
なんだ、何かと思ったらそんなことか。
「そりゃあそうだろ。他の男子からモテモテの早瀬が、俺なんかと週末出掛けたなんて万一知られたらあいつの株が下がっちまうからな。」
「そんな言い方…」
「おーい、神野。ちょっとプリント運ぶの手伝ってくれるか?」
「分かりました先生。今向かいます!———すまん、灯。続きは後でいいか?」
「……いや。別に大したこと言おうとしてたわけじゃないし、なんでもないよ!」
灯が何かを言おうとしていたが、教師に呼ばれ、最後までは聞き取れなかった。
♦♦♦♦
そして時は経ち下校時間、俺は灯と一緒に帰路についていた。
「まったく…あの数学教師め…」
「ははっ!ジンジンがっつり怒られてたね~。」
「お前も寝てたくせに何でバレてねぇんだよ。」
「ふっふっふっ、まだまだ鍛錬が足りない証拠だねぇ。」
「お前は何者なんだよ。」
そんな会話をしていると、いつの間にか灯の実家、久坂部書店に着いた。
「どうする?今日はウチ、寄っていく?」
「いや、今日はいいかな。別に欲しい新刊とかもないし。」
「オッケー、じゃあまた学校でねー。」
「おう、またなー。」
そしてなんやかんやあって俺も自宅マンションへと到着した。
「遅い!待ちくたびれたわよ。」
そこには幼馴染、早瀬妃花がドアの前で立っていた。鞄を持ったままの所を見るに、授業後そのまま来たのだろう。
いや、問題はそこじゃない。なんで早瀬がうちに?ていうか早瀬が我が家に来るのなんて何年ぶりだよ?
「お前…何しに来たんだよ?」
俺がギリギリしぼりだした質問に対する早瀬の回答は、至極もっともなものだった。
「何って…取材の打ち合わせに決まってるじゃない。」
平穏な時間は、しばらく訪れそうになかった。
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