第42話 魔眼
ボスフロアの奥へと進むと、やはり隠された部屋が存在した。
真っ白な石を削ってできたような円形の空間。壁と天井の境目はなく球体を半分にしたようだ。
部屋の中央には一際厳重に置かれた、たった1つのアイテム。アーティファクト、神が作ったと語られる強大なアイテム。かつて異世界では、アーティファクトを巡って戦争まで起きたと言われる。国家でさえ天秤にかけられる究極のアイテム。
以前獲得した『叡智の書』は、万物の理が全て記載されているという。
まだまだ使いこなせていないけれど。
アーティファクトに近づくと、円柱の球体にたっぷりと液体が入っており、その中に玉が2つほど浮いている。その球体が、何かわからず、まじまじと凝視した。ふわふわと浮いたり回ったりしている球体と、|目(・)|が(・)|合(・)|っ(・)|た(・)。
「ひっ! 目!?」
そのアーティファクトは、何色に形容するのが難しいほどに手の混んだ色彩で、強いて言うならば虹のように複雑に輝く、極彩色の眼球だった。
「主、こちらは『透視の魔眼』になります」
ベルが片方の手を胸に当て、少しお辞儀しながら説明した。執事みたいな奴だ。
魔眼……眼球というものは本来、外からの情報を受動的に得る機能に過ぎない。一方で、魔眼は自身の外に働きかける能動的な機能に変えたもの。 視界に入った対象物に対して、問答無用で効果を発揮させる代物。
「『透視』というのは?」
「この『透視の魔眼』は、視ようと思うもの全てを見通せる。と、言われております」
なんだかざっくりだな……。『叡智の書』もそうだったけれど、使い方というものが曖昧。もっとわかりやすいと使いやすいのだけれど。逆に言えば、無制限にどうとでも使えるというものか。活かすも殺すも俺次第ということだ。
「あの……これ、俺がいただいてもいいんですかね? 神崎さんも目覚ましい活躍でしたし、アクアだって……」
「大丈夫だ。活躍という意味だと、君のスキルがなければ、ここまで早くダンジョンを攻略できなかった。
「妾も異論ないのぉ。さぁさぁ、お前様よ! 早く使ってみるのじゃ!」
「あ、ありがとうございます」
『透視の魔眼』、ありがたく頂戴しよう。
ふと思ったのだけれど、確認すべきは現所有者であるヴーデゴウルのような気がしないでもないが、まぁいいか。
俺は、円柱の容器を手に取って、<格納>した。それを見たベルが「ほう」と関心する。
目を閉じ深呼吸する。
――スキル発動、<透視の魔眼>
目を開くと普段どおりの視界だった。
「?」
「おぉ〜! お前様の目が両方とも虹色に輝いておるの! どうじゃ? どうじゃ?」
アクアに急かされるも視界に写るのはいつも通りの光景だ。
『視ようとしないと見えない』ってことなのか。ふと、虎徹たちの方向に目をやって意識的に視ようとする。と、|見(・)|え(・)|る(・)。壁をすり抜けて、虎徹がソワソワと落ち着きなくしている姿が確認できた。ただ、望遠鏡のようにあたかも近くに拡大されているというわけではなく、距離はそのままだ。
なるほど。俺のスキルと相性が良さそうなものだと……そう考えながら下を視る。
「おお!!?!」
「どうしたんじゃ????」
「50階層全てを視認できるぞ。これならどんなダンジョンに入ったとしても、入った瞬間に地図を完成させられるかもしれない!」
「なんと!!」
とてつもなく、既存スキルとの相性が良いな。
思ったこと全てを見通せるというのは、本当に可能性が無限大なんだな。
俺は、ふと神崎を見る。見方を変えれば何でも視えるはずだ。
例えば、魔力に意識を集中すると、神崎の体が魔力の流れに移り変わった。傷に意識を集中すると、神崎の体の傷が灯るように光って確認できた。
「なるほど……そういうことか……ふむふむ」
「あ、あああ、あの、一条くん?」
「であれば、あんなことや……こんなことも……」
「いいい一条くん!!!!」
「え?」
ふと普段の視界に戻ると、いまにも湯気が噴き出すのではないかと言わんばかりに、耳やおでこまで真っ赤っかにした神崎が居た。
「……そんなに、凝視されると、私とて恥ずかしいのだが……」
そう言った神崎は手で胸を隠しながら、もじもじしている。
「……え? ええええ!! ごごご誤解です!」
あまりにもまじまじと神崎を見つめすぎて、裸を透視されたと勘違いしている神崎。
誤解だ! いや、誤解されても仕方がないくらい凝視してしまったのは事実だ。でも、実際のところ、そんなことしていない! まだ!!
「へ、へへ変なところは透視していないですよ!!」
「ほほぉ〜〜〜う。お前様よ。早速えっちな使い方をするなんて、隅に置けないのぉ……」
「アクアさん!?!! 変な言い方やめてもらえますか!!」
「我が主。私で良ければいつでもお相手させていただきます」
「おい! ベル! お前は変なフラグを立てるのだけは、本当にやめろ!!」
至って真面目に『透視の魔眼』の能力を分析していたのに……こんな仕打ちはあんまりだ。
しかし、そんなことはつゆ知らず、粟色の目を潤ませながら、赤面している神崎が、こちらをじとっと見つめている。
「――――〜〜〜〜〜すみませんでしたぁ!!!!」
土下座した。
無罪だ、冤罪だ。そう思いながらも。だけれど、涙ぐむ神崎に、俺が出来ることは、ただただ謝ることしかない。誠心誠意、謝るしかないのだった。
■■■
ひと悶着あって、誤解が晴れたのかどうかは怪しいが、俺達は虎徹の待つところまで戻り、ダンジョン攻略完了の報告をする。
「虎徹さん、戻りました」
「おお、心配していたぞ。その調子だと攻略できたようだな。さすがだ!」
先程までソワソワしていた虎徹が、ほっと安堵し、俺の後ろを見る。視線の先には笑顔で俺の後を付いて来るベルが居た。
「増えてないか?」
「あ〜……、ええ。絶対服従させました」
「絶対服従!?!?!!!」
これでもかと言わんばかりに驚愕している虎徹に対して、なんだか申し訳なくなってくる。後でちゃんと説明しよう。
その後、亡くなった英霊たちの弔いや後始末を行い、ボスフロアの奥にある転移ポートから外へと帰還する。帰り道、虎徹から話し掛けられた。
「今回の一件で、君への周りからの評価は、うなぎのぼりだろうな。世間も賑わいそうだ」
笑顔で、そう話す虎徹。
一方、俺はというと、マスコミに対するとトラウマがフラッシュバックした。それに俺が生きていることがわかったら、すぐにでも烏龍が仕掛けてきそうだ。
「その件なのですが、マスコミや世間には、俺のことは非公表に出来ないですかね……」
虎徹は、どうして? といったような顔をしたが、すぐに察したようだ。
「ああ……なるほど。わかった。君の意思を尊重しよう」
こうして、高尾山A級ダンジョンの攻略は果たされ、帰路につくのであった。
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