第38話 黄金と漆黒
都内の廃工場が僕たちのアジトだった。
オトモダチが増えた大所帯。一種のギルドやパーティのように機能していた。
僕たちは『屍者の軍団』と呼ばれ、闇の世界でも名が通ってきていた。闇に紛れる死臭を漂わせた屍者の軍団に出会った者は、その列に加えられると、恐れられていた。ゆえに、誰も僕たちのアジトに近づこうとする人なんていなかった。
そこに
ファーの付いた黒のロングコートをはためかせ、赤黒い長髪と左目に黒い眼帯。
闇のように深い、漆黒の目が、獲物を見るようにこちらを見据えていた。
「貴様が、
「うん、ボクがクオンだよ」
「そうか、単刀直入に言う。俺のところに来い」
唖然とする提案だった。今まで、僕たちを受け入れようと言う人間などいなかったからだ。
言葉を失っていると、龍騎は続けて口を開いた。
「苦悩を抱き、救われたいと思っているものを俺が見つけてくる。奴等は俺にとって、一度死んでもらった方が都合がいい。どうだ? win-winだろう」
龍騎は、僕たち双子を快く受け入れてくれた。
それから僕は【
龍騎はたくさんのオトモダチ候補を紹介してくれた。
それまでは、手当たり次第だったこともあって、報復を受けることも少なくなかったけれど、烏龍が後ろ盾についてからは、そういったこともなくなった。
龍騎は、僕の構想に共感し、褒めてくれた。
そして、協力を厭わないと言ってくれた。
『
そんなある日。
龍騎の執務室に呼び出された。黒を基調としたモダンなデザインの室内。
奥のデスクに座る龍騎が僕を待ち構えていた。
「久遠、頼みがある」
「なんだい?」
「高尾山にA級ダンジョンが出現した。かつてないほどの巨大なダンジョンだ。そこに300人ハンターが派遣されている。貴様のスキルと相性がいい」
「へぇ〜、そんなにたくさん……全員オトモダチにできそうだねぇ〜」
「俺も可能だと思っている。そして、そのほとんどが【
「
「ああ、そこで頼みなのだが……俺の兄であり、
意外な提案に僕は思わず、龍騎を凝視する。
龍騎の黒い眼は、初めて出会った頃よりも、深い闇を映しているように感じた。
「……いいのかい?」
「ああ……問題ない」
■■■
高尾山A級ダンジョン、第45階層のボスフロア。
「トワ、駄目じゃないか……」
「クオン、あなたがこれ以上傷つくところなんて見てられないわ」
足がぐちゃぐちゃとなり、失血によって意識が朦朧とする久遠に、永遠は抱き寄った。
久遠の鮮血のように真っ赤だった目が、徐々に黒く淀み、光を失っている。
久遠に対して、とどめを刺そうとした凪に向けて放たれた即死スキル。
永遠が、凪に対して即死スキルを放った。
それは、
虎徹も、即死スキルが解除されたことで、<
「一条くん!」
「お前様!!」
神崎とアクアが、俺の元に駆け寄ってきた。
頭が痛い。何も考えたくない。でも、もう――
「俺は大丈夫です。それに、もう決着のようですから」
俺は振り返りながらそう言った。その視線の先には――
金色のヴェールが解かれ、阿修羅の如く憤怒の形相で立つ虎徹が、黄泉川姉弟を睨みつけていた。
「オイタが過ぎたようだな。少年少女よ……覚悟は、出来ているだろうな?」
虎徹は、地獄の底に響き渡るような威厳のある低く太い声で、冷酷に死を告げる。
身の丈もある白銀の大剣を両手に持ち、天に向けて掲げる。
その大剣に、金色に光る風を収束していく。その様は、天へと誘う階段のように神々しく輝いていた。
「ああ……あんなにたくさんいたオトモダチも、み〜んな、やられちゃったんだねぇ。ごめんネ……。龍騎。約束は、果たせそうにない……かも」
壁にもたれかかって、うなだれていた久遠が、最後の力を振り絞るように起き上がり、永遠を抱き寄せた。そして、右手を前へと掲げ、人差し指と中指で銃口を型取る。
すると、動かなくなった屍や大気中から真っ白な生気が浮かび上がり、久遠の指の先に集まっていった。
白く輝く生気の塊は、渦を巻いて収束し、徐々にどす黒い邪悪な大玉へと変貌する。それはまるで、ブラックホールのように、地獄へと誘う漆黒の闇となった。
――スキル発動、<
――スキル発動、<
虎徹と久遠。両者から放たれる渾身の一撃は、戦場の真ん中で激突した。
衝突した黄金と漆黒の風が、地を裂くほどの勢いの嵐となって、戦場を駆け巡った。
「俺たちは多くの仲間を失った。失いすぎた。せめてこの黄金の風が、英霊の弔いに、なるように……」
黄金の光が、漆黒の闇を飲み込み、黄泉川姉弟を包んだ――
ドゴォォォォォオオオン!!!!
黄泉川姉弟のいた壁に大きな穴が空いた。
穴からはダンジョンの外が垣間見え、美しい夕焼けが覗き込んだ。
紅に黄金を混ぜたような強烈な色彩が、戦場に横たわる亡骸だけでなく、生き残った者、その全てを照らした。
――黄泉川姉弟は、跡形もなく消え去った。
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