第3話 ASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)
これも疑い。正式な診断はない。幼い頃、僕はひたすら同じことを繰り返したり、他人と目を合わせない子だった。
検査の結果は「一応、大丈夫でしょう」とのこと。「一応」が母としても気になるらしく、以来ずっと様子を窺いつつ育ててきたそうだが、まぁ、確かに自閉症の傾向はあるのかもしれない。
ただ、これはスペクトラムだ。長い線を引いてみよう。半分くらいのところに点を打って、「ここからこっちが病気」「ここからこっちが健常」というような話じゃない。段階的な、グラデーションのようなものなのだ。
つまり人間はみな、多かれ少なかれ自閉症や注意欠陥多動性障害などの傾向を持っており、それが顕著だったりある局面において目立ってしまう人が発達障害などと呼ばれてしまうのだ。
多分、だが。僕もある側面から見ればこの自閉症的傾向が出るのだろう。実際僕は社会的やり取りやコミュニケーションに結構な努力を必要とする。ただおはようございます、こんにちは、というだけでも「よっしゃやったる」くらいの覚悟がいる。条件反射で「どもー」なんてことはできない。相手が意思疎通を図れる生き物ならそれなりに緊張する。
僕の場合、自分が「ASDっぽいなぁ」と思うところは「自分ルールがうるさい」点だと思う。決まった形状の服しか着たくない、とか。決まった製品しか使いたくない、とか。まぁ、僕が芸術家なら「こだわり」になるのだろうが僕は芸術家でもないし、僕の周りの人からすれば「やたら頑固なマイルール」ということになるのだろう。大人になるにつれてこの傾向は穏やかになっていったが、高校の頃は「モノトーンの服しか着ない」なんてこともあった。そんなもんならかわいいが、二歳の頃は「お母さんが入れた牛乳しか飲まない」「お母さんの手からじゃないとご飯を食べない」という子だった。これをかわいいと思える人は育児の何たるかが分かっていないと思う。
大きなコミュニティで人と接するのも苦手だ。パーティなんかあろうものなら壁と同化する。
もっともこの特徴は僕の中でも軽微だったので、大きく困ることはなかった。むしろ僕よりも自閉症の傾向が強い子と、仲良くなれるという特典の方が大きかった。同じ妙なこだわりを持つ者同士、何となく通じ合えるというか。
小学校の頃、公文式をやっていた。公文式はできさえすれば何学年先の勉強でも可能で、僕のある友達は六年生で中二の内容を勉強していた。僕も中一の内容を勉強していたので、たまにその友達と話すのだが、彼はどうも自閉の傾向があった。目が合わない。しゃべらない。
でもこと、数学の話になると。
雄弁になる。色々なことを話す。僕はその話を楽しいと思った。だからよく聞いていた。話を聞いてもらえると嬉しいのだろう。彼はある日、僕に話しかけてきた。その場にはたまたま彼のお母さんがいて、彼のお母さんからすれば「息子が人に話しかけるなんて!」という事態だったらしい。おうちに呼ばれてお茶をごちそうになった。その間も僕と彼は数学の話をしていた。まぁ、数学と言っても中学生の内容なので、代数がどうとか関数がどうとかいう内容だったが。
つまり、僕はASD的には結構グレーというか、片足とは言わなくても爪先くらいは超えている、そんな人間なのである。
もっともこの特徴は今までの障害と違ってメリットの方が多い。だからあんまり苦労に感じたことはない。コミュニケーションが面倒くさいとか、自分儀式があってそれを侵害されたくないとか、そういうのはあるが工夫と努力でどうにかなる。どうにかなるレベルでしかないのだ。だからそんなに、難しくない。
コミュニケーションは、「相手の語尾や言ったことを繰り返す」ということをやってみよう。何だか相手は話を聞いてくれているような気分になってくれる。会話なんてのはキャッチボールで、いい球を投げ返す必要はない。取れる球を返せばいいのだ。「うんうん」とか「語尾の繰り返し」は「相手にとって取りやすい球」である。やってみるといい。
自分儀式は、ある種のルーティンみたいなものだと割り切っている。「これをやるとうまくいくんだ」というノリでやっている。ノリでいい。こだわりだと思うと何だかマイナスになるが、ノリでやっているのだ、と思えばひょんなことからこだわりが消えたりする。「これをしないと無理!」と考えるのではなく、「これをすると物事がうまくいく気がする」というスタンスで。
もちろんこれらは僕なりのメソッドで、人によって解決方法は違うと思う。一応共有はしておくけど、これらが無理そうだったら変に実践しようとしないで。ただのヒントや、方針の決定なんかに使ってほしい。
僕にはASDのリスクがある。
でも僕は、強く生きたいと思う。
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