第83話 重力制御がダメな件

「「「ブラックホール?」」」


 皆さんが首を傾げている事から、ブラックホールは知らないようだ。


「アビスメティス様、古代魔法で超重力圧縮魔法はありましたか?」

「うむ、重力魔術師の必殺魔法じゃな」

「その時のリミッターは?」

「魔術師の魔力切れじゃな」


 僕はコクリと頷くと皆さんの方を見る。


「カトレア様が開発した無限加速術式は、大気中のマナを吸収して加速させる半永久魔力供給術式です」


「オイ!なんだそりゃ!そんな術式が広まれば革命どころの騒ぎじゃねえぞ!」


 ヤバい術式に大きな声を上げる皇帝陛下。

 天才カトレア様がE = mc2を成立させる為に作り出した、無限ループ魔力供給型のエネルギー変換術式が無限加速術式だ。


「大丈夫だと思いますよ。かなり高度で複雑な術式です。構築理論は天才のカトレア様でないと理解出来ません。シャルルでさえ、その術式を見て唸っていましたから」

「………カトレア嬢か。やっぱ帝国に欲しいな。どうだ、うちのせがれ共を何人でもやっから嫁いで来ないか」


 陛下からの逆ハー♡の申し出を、両手を広げて無理無理と、手と首を振りお断りするカトレア様。


「話を戻しますが、重力魔法の重力磁場、超重力圧縮、その行き着く先がブラックホールです」


「そうそう!ブラックホールってのは何なんだよ!」

「黙っとれ、クソガキ!未知の知識じゃ、静かに聴いておれ!」


 皇帝陛下をクソガキ扱いする熊のぬいぐるみ。睨み合う二人だが、アビスメティス様の『黙らなかったら殺す』オーラで静かになった。


「重力はある一線を超えると、重力崩壊を起こし、ブラックホール化します。

 ビー玉程度の大きさのブラックホールでも、その磁場に入った全てのモノを飲み込み、飲み込まれた物質を糧に肥大化して行きます。

 いずれは星を飲み込み、近隣の星や太陽さえも飲み込んでしまいます」


 皆さんが息を呑んで僕の話を聞いている。


「分かったわ、ルイン君。無限加速させてしまうと、ブラックホール化して、星をも飲み込んでしまうという事ですね」

「はい。前世の記憶では『星を喰らうスターイーター』と呼ばれる星系破壊魔法の記述もあります」


 空想冒険活劇のお話だけど、ブラックホールが出来てしまった場合はあり得る話だ。


「……恐るべきはマクドゥルフの記憶じゃな」


 マクドゥルフとは僕の持つ古い血の家系らしく、異世界転生者を意味している。


 

「グラビティドライブにリミッターを付けておかんといかんな」


 アビスメティス様がリミッターを設定してくれた。大神カナンテラスもこの星あっての神様だし、アビスメティス様、ファシミナ様、リフィテル様もその枠から出ない。星が壊れる様な魔法は禁呪確定だからね。


 えっ? カトレア様Tueeeeが勿体ない?

 何を言っているんだ前世の記憶!?

 星が無くなったら意味ないでしょッ!!



「カトレア様、重力操作系の魔道具は何かアイディアはありますか?」

「え、えと、ん〜、よく分かっていなくて……」


「重量増加とかなら、それほど難易度は高くないと思いますが?」


「「「駄目ですッ!!!」」」

「えっ!?」


 何故か女の子全員からの駄目だし。


「ルイン君、女の子に増える太るは禁句ですよ」

「でも武器の重量をコントロール出来るメリットは大きいですよねエレナ様」


「頭では理解しているのですが、体重が増えるのはちょっと……」


 ……女の子は難しい。別に体重が増えるわけではないんだけどね。


「では軽量系ですね。反重力磁場や慣性制御とかですかね」


「またわけ分かんねえ言葉が出てきたぞ」

「反重力磁場とは面白そうじゃい」

「慣性制御ってどういう事ですか?」


 アビスメティス様に抱かれている片目眼帯の熊のぬいぐるみジークハルト様とカトレア様は僕の言葉に興味津々なようだ。


「僕の仮説ですが、グラビティドライブは空間の歪みによって発生する重力子グラビトンと呼ばれる素粒子を操る魔法だと思います」

「素粒子?」

重力子グラビトン?」


「はい。モノが存在していれば必ず空間は歪んでいます。そこで発生している重力子は物質の質量に比例しています。そして小さい質量は大きい質量に引っ張られます。


 だから僕たちは星に引っ張られていて、これを万有引力と言うらしいです。


 もちろん僕たちも、このテーブルも存在している以上は空間を歪めています。そして僕たちも微弱ながら引き付ける力を持っています」


「だから私はルイン様に惹きつけられているんですね!」

「え!?いえ、そういう意味では」


 レミーナ様の勘違いが凄い。


「いえ、ルイン様の心の力に強く惹かれています」


 僕の顔に血が上がっていく。真っ直ぐな瞳でレミーナ様に見つめられると恥ずかしさで死んでしまいそうだよ。


「「………………」」


「ゴホンッ、ルイン君!」

「あっ、すみません」


 レミーナ様の瞳には魅了チャームの力でも備わっているのかな?見つめられると心臓がドキドキして、身動きできなくなる。


「難易度は高いですが、反重力磁場が出来たら凄いですね」

「反重力磁場ですか?」

「はい。重力の逆転回路ですね」

「あっ!マイナス加速って事ですね。でもそんなこと出来るのですか?」


「いえ、少し違います。重力子の持つ流れを反転させるのですが、ここでスーパーストリング理論を説明すると長くなるので、カトレア様には後で説明しますね」


「わ、儂にも聞かせてくれ〜」

「うむ、妾も聞かせて貰おう」

「お、オレはパスで!」

「ボクは聞きたいな」


 脳筋天使のリフィテル様は興味ないようですね。


「ルイン、細かい理屈はいいから、その反重力ってのは何が出来るんだ!?」

「物理系の攻撃や魔法を全て跳ね返します」


「「「えっ!!??」」」


「物理攻撃は当然として、マナから魔法へ置換した魔力は粒子へと変わります。超重力は光の粒子さえも捻じ曲げるエネルギーを持っています。逆転現象の反重力もしかり。つまり物質は反重力に全て弾かれることになります」


「ルイン君、その場合は術者も弾かれてしまいませんか?」

「はい。ですから反重力術式を作るだけでは駄目ですね。最低でも反重力に指向性を持たせ、術者も弾かれないように次元アンカーも組みこなければなりません」

「か、簡単には作れそうにないですね」

「ですね。でもカトレア様ならいつかは作れると思いますよ」


「なんだ、直ぐには出来ねえのか」

「慣性制御なら直ぐに出来るかと」


「ルイン君、慣性制御ってなんですか?」


 僕は簡単に慣性の法則や等加速度運動について説明をした。この辺の物理学はこの世界でも、勉強している人であれば一般知識と言っていい。

 もちろんカトレア様は知っている。


「では重力操作による慣性制御で何が出来るかというと、反動の力をコントロールすることが出来ます」

「ん〜〜、よく分かんねえぞ」


「陛下は剣でモノを斬った時に、斬り終わりをピタリと止められますか?」

「斬るモノにもよるが、まぁ無理だわな」


「慣性制御はそれを可能にします。流石にピタリとまではいかないと思いますが、かなり効果有ると思います」

「そりゃ、凄えな」

「この辺りもカトレア様に説明しておきます」

「はい、楽しみです!」



◆◆◆

(作者より)

帝国編が終わりそうで、終わらなくてすみません。

自分もここらはサクッと終わらせるつもりが、これ系の話が好きなので1話使ってしまいました。


 



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