第81話 ご褒美

 陛下から褒章を貰ったあとは、広い応接室で皆さんが帰ってくるのを、陛下と一緒に待っていた。その間には、以前にも話した僕たちの状況を、より根掘り葉掘り聞かれた。


 そして、フワフワと漂う熊のぬいぐるみ。


「アビスメティスちゃんは、まだ帰って来んのかの〜」

「だあってろ、クソ爺い!」


 ガーディアンモンスターとして、お城の地下の玄室で、亡霊となって石板を守護していた、大魔法使いにして先々代皇帝のジークハルト様。


 石板を僕に託した後に消えるかと思いきや、成仏せずにフラフラと漂っていた。


 陛下が「爺ぃ!さっさと成仏しやがれ!」との勅命に、「アビスメティスちゃんに会えたんじゃ!成仏なんか出来るわけなかろうが!」「ンだとぉ、変態爺ぃ!」となって陛下が抜刀するも、「儂に楯突くとは百年早いわ!」とのジークハルト様の電撃の一撃のもと、呆気なく倒れていた。


 そして、「久方の外界じゃわ」と言って、フラフラと何処かに彷徨っていったジークハルト様が、熊のぬいぐるみに憑依して戻って来たのは、つい先程の事だ。


◇◇◇


「………ラウラか? 見間違えたぞ」

「そんなに痩せ細りましまか?」


 地獄の特訓から帰ってきた皆さんは、特訓の悲惨さが見て分かる程に、げっそりとした顔をしていた。うん、分かるよ。


「いや、そうじゃねえ。強くなったなって事だ」


 確かに皆さんから感じる雰囲気は穏やかではない。かなりの修行を積んだようだ。


「今までの青臭ささが消えている。修羅場を潜った戦士の目だ。エレナ嬢やリビアンにはまだ及ばないだろうが、よく鍛えられた顔つきになったな」

「あ、ありがとうございます。お父様!」


「ルイン様、私たちは力を付けました。次は必ずご一緒に戦わせてください」


 レミーナ様の瞳に強い力を感じる。あの地獄の特訓をしてきた彼女たちを否定する事など出来るわけがない。


「はい。次はみんなで石板を手に入れましょう」

「はい」


 レミーナ様の満面の笑み。それを見た時に、僕の瞳の奥が熱くなってきた。


 それ程に、あの地獄の特訓を受け、共に僕と戦い、共に未来を勝ち取る思いに、自然と涙が溢れる。そして僕は無意識にレミーナ様を抱き締めていた。


「ルイン様……」

「ありがとうございます…レミーナ様…」


 レミーナ様も僕の背中に手を回して、抱きしめてくれた。レミーナ様の暖かさが伝わってくる……。


「レミーナ様…」


 僕を見つめるレミーナ様の瞼が閉じた。えっ!? あれ? もしかして?


『イエス、マスター。レミーナ様に恥を掻かせるわけにはいきません。ブチュっと行きましょう!』


 右腕のブレスレットに変化しているシャルルが、僕を仄めかす。この会話は僕の心に語りかけているから、レミーナ様や他の人には聞こえない。


 ……そうだよね。頑張ったんだもんね。僕も瞳を閉じて、レミーナ様の唇に唇を重ねた。


「「………………」」



「レミーナ!」

「レミーナ様!」

「レミーナ様ぁぁぁ」

「…………」


 皆さんの声で、ハッとしてレミーナ様の唇から離れた。あうっ。エレナ様、カトレア様、リビアンさんの目が何だか怖い。


「が、頑張ったのはレミーナだけではありませんよ」

「あたしだって、もの凄く頑張ったよ、ルイン!」

「私もです!!!」


 力強く言うカトレア様を、皆さんがジト目で見ているのはなぜだろう?


「ルイン様、ここにいる全員がルイン様もご存知のあの特訓を乗り越えて参りました。ご褒美は皆さんにもしたほうがよろしいかと」

「えっ、ご褒美!?」


 フレアさん、いったい何を? ご褒美ってキス!? えっ、えっ


 見れば皆さんが何故か期待の目で僕を見ているよ。


「ルイン様……」


 頬を赤く染めたレミーナ様。僕の背中に回していた手を解くと、僕の手をとりエレナ様のもとにエスコートされた。


「ルイン様、私達全員が頑張りました。皆さんにも……その………」


 ゴクリと唾を飲み込みエレナ様を見れば、赤い顔で瞳を閉じている。


『マスター、行くしかありませんよ。ここで撤退などありえません』

「う、うん」


 シャルルに背中を押されながら、エレナ様の細い肩にそっと手を乗せる。ビクッと百戦錬磨の猛将であるエレナ様が、小さく震えた。


 エレナ様の小さな唇に、そっと唇を重ねる。僅かな時間で柔らかかったエレナ様の唇から離れると、『次、行きますよ』とシャルルに言われて、カトレア様、リビアンさんとキスをした。ふぅ~、めちゃめちゃ緊張したぁ。


『マスター、まだ終わってませんよ?』

「はい?」


 カトレア様の隣にいるノーラさんやメーテルさん、ソラさんにミラさんもが、朱色の頬に期待の目で僕を見ていた。


 そうだよね。みんな頑張ったんだもんね。僕は皆さんに微笑みを返して、ノーラさん、メーテルさん、ソラさん、ミラさんともくちづけをした。


 ふぅ~と息を吐いた瞬間の事だった。フレアさんの抱擁、そして甘い香りのキス………舌ぁぁぁぁぁ!?


 フレアさんの柔らかい舌が僕の舌と絡み合う。な、何これ!? 気持ちいい。


『マスター、これが本当のキスというものです』


 これがキス!?


 僕の胸に押し付けられている、フレアさんの豊満な胸の気持ちよさが合わさり、心の中の何かと僕のあれが舞い上がっていく。気持ちよかぁぁぁ。


「ルイン様ぁぁぁ、離れなさいぃぃぃ!」

「フレアぁぁぁ、な、何をしているのですかぁぁぁ!!!」


 僕をレミーナ様が、フレアさんをエレナ様が引っ張り、僕とフレアさんは引き剥がされた。


「いえ他意はございません。ルイン様には、大人の特訓も必要かと思いまして」


 い、今のが……、大人の特訓……。あれが……大人のキス……。高まる何かが心の中でドクドクと波打つ。


「だ、だからといって、この様な場所で」

「分かりましたエレナ様。この様な場所以外という事でしたら、ルイン様とは改めて個人レッスンと致します(ペロリ)」


 妖しく輝くフレアさんの瞳に、紅潮した僕の心は吸い込まれそうになる。


「こ、個人レッスン!?」

「だ、駄目です、フレア!」

「では皆さんと順番では如何ですか(キラン)」


 フレアさんの悪魔の呟きで、皆さんが固まっている。


「ふむ、ならば妾が一番手でよいな」

「「「えっっっ!!!???」」」


 アビスメティス様の一言で、皆さんが我に帰り、僕の個人レッスンは無くなってしまった。


『ちっ』


 おい、前世の記憶ぅ!何を舌打ちしてんだゴルァ!!


「なんだ、ラウラは仲間外れか、お兄ちゃん」


 前世の記憶にツッコミを入れていた僕に、皇帝陛下からツッコミがはいった。


「え、ラウラさんは……」


 ラウラさんを見れば、ラウラさんも突然の接吻タイムにアワアワしていて、両手を広げてノーサンキューをしている。普通はそうですよね。


「る、ルイン様、お兄ちゃんってどういう事ですか!?」


 陛下のお兄ちゃん発言に、レミーナ様が僕の袖を引っ張り、勢いよく聞いてきた。


 ですよね〜。



◇◇◇

(作者より)

 今回は投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。

 衝動書きの花咲は、他の先生方々のラブコメ小説に感化されて、『ラブコメ書きてぇ』って衝動にかられて、約4万字のラブコメを書いてました。


 もしご興味あれば、⇓も宜しくお願いします。

『初恋を引きずる俺が美人姉姉のラキ姉ぇとクリ姉ぇの応援で新しい恋に踏み出す物語〜【副題】極太赤縁眼鏡を掛けた地味系女の子の恋日記』


https://kakuyomu.jp/works/16816927862078288376


 「何を書いてんじゃあ、このど阿呆ぉ!」とのお怒りの言葉は、胸の中に収めて頂ければ幸いです。







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