第78話 女の子達の特訓 1

(エレナ)

 私たちは、広い草原が何処までも続く不思議な場所に来ていました。草原を吹き抜ける風はなく、空は青、赤、緑といった美しくも不思議な色合いをしています。


 その草原にファシミナ様は、美しく輝く刃渡り1m程度の神秘的な片刃の剣を持って立っていました。


「ファシミナ様、その剣は?」

「ん、これ?これは霊剣フツノミタマだよ。切れ味抜群だから、斬られても痛さを感じないから安心していいよ!」


 安心とか言われましても困りますね。ルイン君から、リフィテル様との特訓した時のお話は聞いていたので、覚悟はしていましたが……。


 私が、美しいその霊剣に魅入っていると、ファシミナ様が剣舞を舞います。流れるようなファシミナ様の剣舞は、清流のように美しく清らかな流れで、見ている私たちは感嘆するばかりです。


「それじゃぁ、行っくよ〜」


 ファシミナ様が一歩踏み出した瞬間にフッと姿を見失いました。手足が飛び散り、胴体が半分に斬られている。……確かに痛みを感じる前に、私は死亡しました。



(レミーナ)

 これで私は何度死んだのでしょうか。鉄壁の防御魔法だと信じていた、プロテクションフィールドも、ファシミナ様の持つ霊剣フツノミタマの前では、紙のようにあっさりと斬られてしまいます。


「フォトンバレット!」


 フワフワと漂う様に放たれた、小さな無数の光弾。ファシミナ様は当たってもさして痛くもないであろう私の魔法を、丁寧に躱しながら接近して来ます。私の放つタイミング、射速、方向、それらの組み合わせが誤りである事を示すかのように。


 そして何度もやられて気がついた事があります。それはほんの僅かな違い、時間にしたら瞬きの時間ですが、プロテクションフィールドは発動直後の一瞬だけ、ファシミナ様の攻撃を弾いたのです。


 たまたまの1回だけでした。でも、このタイミングを覚えられれば、クラウディーヌ様のシャイニングスマッシャーを防げるかもしれません。


 全ての光弾を躱したファシミナ様が私に向かって来ます!ギリギリまで待ってプロテクションフィールドを……


「キャアアアアアアア」


 また私はファシミナ様に一刀両断されました……。



(リビアン)

 くッソぉ、また死んだぁ。でも、ただ死んでいるだけじゃない。ファシミナ様に斬られる瞬間だけ、時が止まったかのような感覚があるんだ。

 そして、その瞬間ってヤツは、集中力がマックスになっている瞬間だ。何度も死ぬ事で集中力が高まる感覚が少しだけど分かってきた。

 集中、集中、集中ぅぅぅぅ!!!


 次こそは少しでも抗ってやる!



(ノーラ)

 凄まじいの一言に尽きる。王国での訓練、いや、魔物討伐戦でも、これ程の死闘をした事はない。死闘と言っても私たちが一方的に殺られているだけの、殲滅戦に近い戦闘だ。


 ファシミナ様は遊んでいる程度のお力なのだろうが、天使様と人との力の差がこれ程までにあったのかと、身を持って知る事となった。


「ノーラ、気がついたか?」


 隣で戦うメーテルが絶望的なこの地獄で笑い顔を見せる。


「ああ。リビアンも気がついたようだな」

「はい」


 メーテルもリビアンも死を繰り返す事により、集中力の高まりを感じている。集中力の高まりは『バトルハイ』と呼ばれるゾーンに入るスイッチだ。


 ゾーンに入れば感覚が研ぎ澄まされ、自分の理想的な動きが出来るだけでなく、相手の動きや思考さえも分かる時がある。


 この地獄の特訓で『バトルハイ』のスイッチを手に入れられれば、レベルアップ以上の成果を得られる。


「気合い入れるよ!」

「「オウッ!!!」」



(フレア)

 偶然に作ったチームが、私、カトレア様、ラウレンティア様、ソラさん、ミラさんの5人でした。私とラウレンティア様が前衛でファシミナ様を牽制して、カトレア様たちが、魔法を放ちます。


 ファシミナ様の前では、私たちの剣も、カトレア様たちの魔法も無に等しい力です。そして繰り返される、死という最大の恐怖。


 ファシミナ様の聖寵により、死と生還を繰り返す私たちの精神が崩壊することなく持ち堪えています。


 そして意外だったのが、カトレア様でした。いくつもの戦場に赴いた経験を持つ、ソラさん、ミラさんでさえも蒼白な顔で立っている状況で、カトレア様の目は輝いていた、いえ、イってしまった目と言うべきでしょうか。


 幾つもの自作魔道具を使い、ファシミナ様に斬り殺されては、笑いながらチューニングを繰り返す姿は、まさにマッドサイエンティスト。我が主である腐女子先生ことパトリシア様を彷彿させます。


 ファシミナ様がこちらに来ますね。


「ソラさん、ミラさん、援護の魔法をお願いします」

「「はい!」」


(ラウレンティア)

 知っていた、聞いていた、レミーナ様に至ってはこの目で見ていた。それでも皆さんの戦闘力は驚異的です!


 ファシミナ様の攻撃は全てが神速の一撃。私には躱すことは愚か、視界の隅にも留まらない。しかしエレナ様は、その一撃を躱し、レミーナ様は光魔法で僅かな時を作り、ノーラさん達も3人のコンビネーションで全滅することなく、共に戦っている、フレアさんも初撃は躱せる程の集中力を高めている。


 そして驚愕すべきはカトレア様です。お父様を以ってして『ヤバいのはカトレア嬢だな』と言わしめた天才錬成術師のカトレア様。


 エレナ様もレミーナ様もその実力は折り紙付きです。しかしそれは個の力です。しかしカトレア様が作る魔道具は誰でも使う事が出来ます。軍、いえ、国としての国力をも左右しかねない力を持っているのはカトレア様なのです。


 そして、そのカトレア様はマジックバッグから魔道具を取り出してはファシミナ様に使い、改良してはまた使いを繰り返しています。


「出来ましたぁぁぁぁぁ!」


 そのカトレア様が妖しく光る瞳を輝かせて叫び声を上げました。


□□□

作者より


カクコン7の中間選考を突破でしました!

最終選考は流石に厳しいですが、残れた事がとても嬉しいです!


いつも応援頂きありがとうございます(^^)



 

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