第75話 霞の如し

 全武装型戦術神器オールラウンドタクティカルウェポンであるシャルルは、僕が使い慣れたハルバードから連射式クロスボウに武装変化した。更に僕の頭の中に直接、左の柱に走る・・指示が出る。


 長い白髪に白髭、金の刺繍を施したローブを纏うマスターレイス。ヤツも僕と同じ空間魔法を使えるなら、空間把握魔法で行動は筒抜けだ。敢えて走る意味はシャルルにしか分からない。


 柱の影に隠れる前に10発のボルトをマスターレイスに打ち込む。


 マスターレイスも僕の動きを見て、柱に隠れた直後に僕の背後を狙って空間転移してくる事は分かっている。


 柱に着くに合わせてシャルルはショートソードに变化。空間転移してきたマスターレイスを狙って斬りつける。更にその背後からは、先程放った10本のボルトが、シャルルの神力により有り得ない軌道で弧を描き、マスターレイスの背中に突き刺さる。


 マスターレイスの亡者の叫喚が玄室に響く。かなりの手応えは感じたが、止めには至らない。シャルルがブレスレットに姿を変え、すぐさま僕も空間転移でその場を離れる。


 シャルルの指示で入り口と祭壇の中間に転移した。見ればマスターレイスは近接範囲魔法のプラズマ放電を発動させていた。


 シャルルが奇妙な形の剣に变化する。放電の終わりを狙って、その剣を付き出す。10m程度離れた位置から、蛇の様に伸びる蛇腹剣が、マスターレイスの胸に突き刺さる。


 100%の力を出し切れていないとはいえ、シャルル数千の粉砕者の攻撃が四度も当たったんだ、そろそろヒットポイントも限界だろう。


「それではマスター、そろそろ止めと参りましょう」

「そうだね。シャルルのお陰で勝てそうだよ」

「言ったではないですか。こんな輩は霞みに過ぎないと」

「ホント、シャルルは凄いよ」

「マスターもだいぶレベルが上がって参りましたよ。あとは優柔不断と、甲斐性なしと、朴念仁と、鈍感と、さらには幼女趣味の変態野郎を直すだけですね」

「………ありがとう」


 上げて落とすシャルルさん。ニヌルタ様もこんな感じで扱われているのだろうか?


「武器が喋っておる……。インテリジェンスウェポンとは、初めて見るわい…。シャルルとは、戦神ニヌルタの神器シャルル数千の粉砕者なのか……」


 マスターレイスのお爺さんが震える手をゆっくりと上げて、シワシワの指でシャルルを指差す。


「下等な変質亡者に名乗る名などありません」


 きっぱりと名乗りを断るシャルルだが、インテリジェンスウェポンで、武装变化して、超級のマスターレイスを瀕死に追い込み(既に死んでいるけど)、僕が思いっきりシャルルって言っている現状で、シャルルがシャルルでは無い事を否定する材料はどこにも無かった。


「ま、真にシャルルか……。神器を目にする日が来ようとは………、長生きはするもんじゃ……」


 いや、キサマは既に死んでいる、だぞ!


 マスターレイスは戦意を失ったのか、玄室を満たしていた濃厚な邪気が薄れていく。


「お主は何者じゃ?神器シャルル数千の粉砕者を持ち、儂と同じ空間魔法を使いこなす少年よ」

「え、えっと……」 


 元来レイスとは、生前の心残りの為に成仏できなかった幽霊だ。ゴーストやファントムと違う点は、生前の記憶と、ある程度の理性を持っている点だろう。


 このマスターレイスのお爺さんは、この玄室の石板に某かの思いを持って、ガーディアンモンスターとして、この玄室を守護していた。


 しかし、その思い邪気が急激に晴れていく。シャルルとの出合いは、お爺さんの石板への未練を無くすには十分だったようだ。


 僕がどう返答するか悩んでいる間に、シャルルが先に口を開いた。


「はあ〜。マスターとの戦闘で、何故負けたのかも分からないとは、大うつけ者ですね」

「ほほう、この儂が大うつけ者か」


 お爺さんの顔が亡者とは思えない柔和な微笑みを湛える。


「つまりはシャルルの力のみで儂が敗れた訳では無いという事じゃな」


 亡者のお爺さんは「ふむふむ」と長い顎髭を撫でながら考え始めた。


「儂にダメージを与えたのは間違い無くシャルルの威力じゃろう。では儂の攻撃が当たらんかったのは、シャルルの戦闘頭脳コンバットブレインかどうかという事じゃな」


 そしてまた「ふむふむ」と顎髭を撫でる。


「ふむ、儂とて生前は雷帝のジーク様と呼ばれては女子おなごたちとキャッキャウフフした身じゃ。まだ筆下ろしも済んでおらん小僧に敗れる理由か………」


 今、僕の筆下ろしとか関係あります?確かにまだ筆下ろしてませんけど!って雷帝のジーク?あれ?このお爺さん……。


「儂の攻撃はことごとくを読まれていた……。それが小僧の力……。まるで知っていたかの様に……。空間魔法を使い、未来を知る……。まさか、小僧…時空魔術師か!?」

「は、はい」

「うぉぉぉぉぉ!儂でさえその頂きに届かんかった時空魔術師と伝説の神器シャルル!儂が敵うわけがないわ!」


ガハハハハハと高らかに笑う亡者のお爺さん。


「どうやら終わったようだな」


 隠し通路の向こうで待っていた皆さんが、いつの間にやら玄室へとやってきた。


「ル、ルイン様!」

「ルイン君!」

 

 僕の顔を見て、僕の方へと駆け出そうとした、レミーナ様とカトレア様だったけど、「待ちなさい!」とエレナ様が二人を制した。


「まだあそこにマスターレイスがいます!」


 玄室にいる亡者のお爺さんを、睨み付けるエレナ様。そして皇帝陛下は……顎を外して大口を開けていた。


「じ……爺ぃぃぃぃぃッ!なに城の地下で亡霊やってんだァゴラァ!!!」


 ああ、やっぱりガスバルト帝国の先々代の皇帝にして、大魔法使いと呼ばれた、雷帝ジークハルト様でしたか。


「ほっほう、ランス坊か。大きくなったな……」

「爺ぃが死んでどんだけ経ってると思って…ん?」


 皇帝陛下との会話で皆さんの注目が集まっていた亡霊のジークハルト様。その視線は皇帝陛下を越えて、その後ろでクッキーをポリパリと食べている黒髪ロングの幼女を見て固まっていた。


「き、奇跡じゃ!アビスメティスちゃんがおる!?」


 そういえば、ジークハルト様はアビスメティス様推しだった。


「アビスメティスちゅわぁぁぁぁぁん!!!」


 ぴゅ〜〜〜とアビスメティス様に向かって、奇怪な笑みを浮かべて突進するジークハルト様。


「ウザい」


 幼女アビスメティス様に抱きつこうとした亡者変態は、神のデコピンで吹き飛ばされた。


 ヒットポイントをだいぶ削っていたから、これで死んだかな?


 変態死すべし!


 めでたし、めでたし。

 

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