第74話 バタフライエフェクト!?

 牢屋の壁に隠された通路。そこから流れ出る凶悪な邪気。


「皆さん、ここから先は僕一人で行きます」

「えっ、ルイン様!?」

「ルイン、どういう事だよ!」

「ただならね雰囲気を感じますが」

「やベエなこりゃ。何だってこんな化け物が城の地下にいるんだ」


 戦闘経験が豊富なエレナ様と、常勝の皇帝陛下は、この邪気の大きさに気付く。


「かなり高位なマスターレイスです!」

「ああ、ここが俺の城じゃなければ放置したくなるレベルだな」


「でしたら、やはり全員で行くべきではないでしょうか」

「あたしもそう思うよ」


 レミーナ様の言うことに賛同を示すリビアンさん。しかし、皇帝陛下とエレナ様は僕の顔を伺うだけだ。僕は二人に頷き返す。


「レミーナ様、僕一人で行って来ます。予想よりも驚異的な相手のようです。僕一人なら逃げるのも楽ですから」

「それがいいな」

「でもルイン様一人では……」

「レミーナ、ルイン君なら大丈夫だよ」

「エレナさん……」


 レミーナ様は納得出来ていないようだけど、皆さんを危険にさらす訳にはいかない。


「それでは行って来ます」

「ル、ルイン様!無茶だけはしないでください」

「はい」


 そう言って僕は、暗い隠し通路へと入って言った。


□□□


「ライト」


 生活魔法の『明かり』の魔法を唱える。僕を時空魔法だけのモブキャラと思わないで貰いたい。生まれ故郷の町では天童と呼ばれていたのは伊達じゃない。一通りの生活魔法は勿論のこと、多少の火魔法ぐらいなら使えるのだよ。ま、この先にいるマスターレイスに効くとは全く思ってもいないけど。


 空間把握魔法で感じるプレッシャーが、奥に進むにつれて強くなる。


「シャルル、よろしく頼むよ」


 右手首にブレスレットに姿を変えたシャルルに話しかける。


「そんなに緊張するほどですか?リフィテル様や、アビスメティス様に比べれば塵のような霞みですよ?」

「………その二人と比べたら、どんな魔物も塵みたいなモノだよ」


 この重苦しい空気が霞みと言えるほどに、シャルルは戦神ニヌルタ様と多くの戦場を渡り歩いていたのだろう。


「いえ、マスターは粗大ゴミ程度には成長してますよ」

「クッ、やっぱりまだゴミレベルなんだね」


 比べる相手が悪いよね。塵も粗大ゴミも分類するならゴミですからね。


 通路を抜けた先には、天井はさほど高くはないが、お城の地下とは思えない、矢鱈と広い玄室があった。


 薄青く壁が発光しているので、部屋全体が見渡せる。左右に並ぶ数本の石柱、その先には祭壇があり、そこには青白く光る石棺がある。そして吐き気がする程のプレッシャー。勿論、そのプレッシャーは奥の石棺からだ。


 僕が玄室に踏み入れると、石棺の蓋が、青白い霊気を放ちながらゆっくりと開く。出るか、化け物レベルのマスターレイス!


「シャルル!」

「イエス、マスター」


 シャルルはだいぶ使いなれたハルバードとなって僕の右手に顕現した。


「来ます!」

「うん」


 シャルルの戦歴からしたら大したことのない相手でも、僕とのシャルルにしたら強敵である事は間違いない。


 僕とシャルルの同調シンクロ率は42%で、僕はシャルルの実力の半分も使いこなせていない。シャルル曰く、人族としてはかなり頑張っているとのことだ。


「亜空間シールド!」


 青白い霊気の中から一筋の雷光が放たれ、僕に襲いかかる。それを知っていた・・・・・僕は亜空間シールドで秒速10万kmの稲妻を異空間に吸収させる。


「時空視使っていなかったらヤバかった!」

「では次は如何しますか?」

「そりゃ、勿論…」


 青白い霊気の中に稲妻の放電が爆ぜる。その中に浮かぶ黒い影から二条の雷光が、再び僕を襲うが空を貫く。予想通りの魔法発動に合わせて、空間転移でマスターレイスの背後を取った。


「ウラァッ!」


 ハルバードシャルルを大きく払い、刃渡り1mのブレードでマスターレイスを切り裂くが、高レベルであるマスターレイスを切断するには至らず、僕が入ってきた入り口の方へと吹っ飛ぶだけだ。


「空間障壁」


 空間障壁の不可視の壁をマスターレイスとの間に作る。これで少しは様子見ができる。僕の後ろにある石棺の中に、お目当ての石板が有るんだけど、これを持って空間転移で逃げた場合、怒りのマスターレイスがお城で大暴れなんて事になれば、超激ヤバい。


 まずはヤツの確認だ。さっきのシャルルの一撃は同調シンクロ率42%とはいえ、討伐レベル60、災害レベルS級の地竜でさえ、両断できる威力だった。


 詰まりはそれを上回る脅威レベル、アンデット系ならSS級の吸血鬼ヴァンパイア、SSS級のの吸血鬼君主ヴァンパイアロードや不死の王リッチィクラスに匹敵する可能性がある。 


 吹き飛んだマスターレイスが幽体的な動きで、フワッと立ち上がる。


 長い白髪と白い髭が特徴的な老人の亡霊。金の刺繍を施した黒いローブを見ても、野良な魔法使いではない事がわかる。


「はい?」


 僕の時空視が見たのは、驚きの未来。


「テレポート!」


 僕の魔法障壁に気がついた・・・・・マスターレイスは、空間転移・・・・で僕の背後に現れ、至近距離からの空間切断魔法・・・・・・・で僕の体を薙ぐ。それを間一髪で空間転移で回避した。


 僕が空間転移で入り口あたりに瞬間移動した事により、お互いの位置取りは相対した時と同じくなった。


「こいつ、空間魔法まで使うのかよ!」


 ゲームのマスターレイスは雷魔法特化のビカビカ系モンスターだった。しかしここに現れたのは、確かに雷魔法を使うが、それに加えて空間魔法まで使ってきた。


 前世の記憶にバタフライエフェクトという言葉がある。遠くで羽ばたいた蝶の風の揺らぎが、遠くの地で竜巻を起こす。小さな変化で何が起こるか分からないと意味らしい。


 僕がレミーナ様たちを助けた事で、ゲームとは違う流れになっている。もちろん僕がそうしているんだけど、ここでマスターレイスのレベルがバカ上がりして、しかも空間魔法まで使ってくるのは意味が分からないです。


「シャルル、やれると思う?」

「はい。私がいれば、あのようなクソアンデッドはモノの数ではありません。ぶっちボコボコです」

「ハハハ、頼もしいよ」

「戦術と武器選定は私に、マスターは時空視と体感加速に集中して下さい」

「了解した」


 百戦錬磨の戦神ニヌルタ様の戦術担当タクティクスブレインであるシャルル。脳筋番長と呼ばれる(僕は言ってませんよ!)ニヌルタ様を勝ち続けさせているのはシャルルあっての話とリフィテル様は言っていた。


 そのシャルルが超上位モンスターをぶっちボコボコと言っているのだから、僕がそれを疑う余地はない!


「やるよ、シャルル!」

「イエス、マスター」





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