第73話 ガーディアンモンスター
「ガハハハ、そりゃ災難だったな」
お城に戻ってきた僕たちは、お城の広い客間で昼食をとっていた。予定なら街で食べる筈だったけど、今は帝都の彼方此方で使徒様、聖女様フィーバーで、それを肴に呑兵衛たちがお祭り騒ぎらしい。
「ルイン様は、なぜ冒険者ギルドに足を運んだのですか?」
「ラウラ、そりゃ男子たるもの、冒険者には憧れるものだ。なあ、ルイン」
「いえ、僕は金策の為、倒した魔物を買いとって貰おうと思いまして」
「なんだ、ルインは金持ってねえのか?」
「いえ、出立の際に公爵様から頂いていますが、途中でファシミナ様が加わったので……」
チラリと美味しそうにお菓子を食べている天使様たち。朝からずっと食べ続けているのだろうか?
「あ~、分かるわぁ」
皇帝陛下も天使様たちを見てため息をついた。
「じゃあ結局、ギルドじゃ売れずに帰ってきたんだな」
「はい」
「よし。お前の魔物は城で買い取る。代金は巨人を倒した謝礼と併せて受け取ってくれ」
「ありがとうございます!でもお菓子の現物支給でも大丈夫ですよ」
「……この城に菓子は無い。コイツら全部食っちまいやがった」
「じゃ、じゃあ今食べているのは……」
「焼きたてのクッキーだ。作ったそばから無くなっていくんだ。全くどんな胃袋してんだよ」
「……底は無いそうです」
「……………マジか」
流石の皇帝様も深淵の胃袋には顎を外して驚いていた。
「皇帝陛下、不躾ながら謝礼の件ですが、僕たちにはお金よりも欲しいモノがあります」
「前に言っていた石板か?それなら謝礼以前にくれてやるぞ。俺もREDの仲間なんだから協力は惜しまないぞ」
話の分かる皇帝陛下で良かった。ゲーム展開の
「それじゃあ、早速行ってみるか」
「陛下も行かれるんですか?」
「ああ。多分そいつは曾祖父さんが城ん中に隠したガラクタシリーズだ」
「なんですか、ガラクタシリーズって?」
「曾祖父さんは世界中を旅しては、ダンジョンなんかでお宝やアイテムを手に入れてたんだが、その中のガラクタを城の中に色々と隠してあるんだ」
「何故そんな事を?」
「皇室は子供が多いからな。曾祖父さんはガキ達の宝探しごっこを作ってたんだわ」
そこで壁際に控えていたフレアさんがポンと手を打ち、皆さんの視線が集まる。
「本日、お城のお片付けをお手伝いした際に、不思議な物を幾つか見つけました。お話を伺いまして合点がいきました」
「ほう。ガラクタだったろう」
「いえ、使用目的は不明ですが、幾つかは些か危険な雰囲気がある物もございました。お城のメイドの方々は取り扱いにお困りのようでしたので、私がお預かりしております。
私であれば陛下に直接お渡し出来る機会も有りましたので」
「どれ、見せてみろ」
「宜しいのですか?」
「かまわねえ。そこに置いてくれ」
「承知致しました」
フレアさんはテーブルの端あたりに、ポシェットタイプのマジックバッグから、何に使うか意味不明の物を並べる。小さなトーテムポールや、岩石みたいな物、木彫りの熊?、招き猫?、そして最後の物がテーブルに置かれた瞬間、和やかな雰囲気だった昼食会場に戦慄が走った。
皇帝陛下の顔がみるみる青ざめていく中、青い業火を身に纏うラウレンティア様がいた。
「陛下のご了解は得ておりますので」
キランと妖しく光るフレアさんの瞳。この人、確信犯だよ!
テーブルの上に置かれた小さい女の子向けの苺の下着。『らうら』と名前入りだから、持ち主はラウレンティア様なのだろう。しかし………。
「お父様。少し宜しいでしょうか?」
クソ虫を睨むような目で陛下を見るラウレンティア様。
「あ、あれは昔の……」
陛下の言い訳は更なる業火を呼び込む。
「ほぉう。昔からと?」
『てめえ、何処まで腐ってんだゴラァ』的な怖い視線のラウレンティア様。陛下が僕を見て、視線がヘルプミーと言ってるが、僕はそっと目を反らした。
大陸最強の一角であるガルバルト帝国、常勝の皇帝ランスハルト・グラン・ヴィルヘルムは、ここに人生二度目の大敗を喫するのであった。
□□□
両頬を赤く腫らした陛下を交えて、僕たちはお城の地下牢に向かっていた。メンバーは僕、レミーナ様、エレナ様、カトレア様、リビアンさん、ノーラさん、メーテルさん、ソラさん、ミラさん、フレアさんに、珍しくアビスメティス様、リフィテル様、ファシミナ様の三天使様もご同行、更に皇帝陛下とラウレンティア様の計15人だ。
「ガーディアンモンスター?」
「はい。お城の地下には石板を守るガーディアンモンスターがいる筈です」
「おいおい、マジかよ。そんなのが城内にいるなんて初耳だぞ」
皇帝陛下もガーディアンモンスターの存在を知らなかったようだ。ゲームでは場内の戦闘ってこともあり、ゴースト系モンスターだ。理由として推測するに、生物系モンスターは食料問題で長くいられない。巨大モンスターもお城の地下では無理を設定だ。
ならばアンデッド系かゴーレム系になる。今回はアンデッド系モンスターだけど、ゲーム的には中盤だからリッチィみたいな最強系アンデッドではない。
「僕の情報が正しければ、マスターレイスがいる筈です」
「そいつは強敵だな」
レイスは元々が高位の魔術師や暗黒僧侶が思念体となったゴースト系モンスターだ。基本的に生前のレベルを継承する。マスターと呼ばれるレイスは生前のレベルが50を超えている事を意味している。
「はい。最低でも討伐レベル50、特A級以上確定の強力な魔物ですね」
「ルイン君、デュラハンより格上という事ですね」
「はい。そうなります」
僕の言葉にノーラさん達は息を飲む。デュラハンとの激闘が脳裏をよぎったのだろう。
「今の僕たちであれば討伐は可能だと思います。問題は」
「戦略級魔法か」
「はい」
戦略級魔法とは広域破壊魔法だ。帝都のど真ん中でそんな魔法を使われたら、帝都は消失してしまう。
「対策はあるんだろな、ルイン」
「発動前に空間障壁で封じ込める予定です」
タイミングさえ見誤まらなければ押さえ込める。
「まあ、戦略級魔法は詠唱も長いから、その隙を与えなければ大丈夫か。但しルイン、俺が引けと言ったら撤退だ。無理押しして、万が一でも帝都を危険にさらす訳には行かねえからな」
「はい、心得ています」
成る程、陛下が同行した理由はそれか。勿論、僕たちも無理を通すつもりはない。駄目なら他の策を考える。とはいえ、マスターレイスの特長ぐらいは知っておきたい。ゲームでは雷属性が強かった。ゲーム通りであれば、雷属性の戦略級魔法は室内では使用出来ない筈だ。
薄暗い地下牢への階段を降りた先に、幾つかの牢屋がある。
「誰もいないんですか?」
僕の空間把握魔法には人の気配がない。
「ああ、城の牢屋はめったに使わないからな」
犯罪者の殆どが軍刑務所に連行される。お城の牢屋は主に城内での謀反犯などの緊急時や、貴族の監禁ぐらいにしか使われない。勿論これは王家のお城の話で、要害の地にあるお城や砦は話は別だ。
「それで、石板が隠されている牢屋は分かるのか?」
「一番奥の牢屋です」
使われていない牢屋の鍵は空いていて、狭い牢屋に僕は一人で入った。
「ルイン様、大丈夫ですか?」
「はい。ここには隠し通路があるだけですので大丈夫ですよ。石板はその通路の奥の部屋にあります」
牢屋の中の幾つかのブロックを前世の記憶にある順番にしたがい動かしていく。狭い牢屋の壁が動き、奥への通路が開かれた。
「えっ!?」
空間把握魔法で奥にいるマスターレイスの気配が分かるが………。
「化け物か!?」
その気配はドラゴンゾンビでさえ比にならないプレッシャーを感じた。
「皆さん、ここから先は僕一人で行きます」
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