第70話 帝国のおっさん パートスリー

(帝国のおっさん)

 ルインか。ホント面白いやつだ。曾祖父さんの上をいく時空魔術師で、あのアビスメティスと仲がいいとかもどうかしている。

 そしてルインとカトレア嬢が作った、セントレア王国の新兵器とやら。見てからのお楽しみとかで、ネタバレしていないが全くもって楽しみだ。


 城内の闘技場は少し狭いが、観戦席もあるので、高みの見物としては上等だろう。


「あなた、何が始まるのですか?」


 ラウラにも声をかけたら、珍しく妻のハルフリーダもついてきた。血生臭いのは好かんとかで、いつもなら闘技場には来ないのだが、あいつらには興味があるみたいだ。


「俺も何が起きるか分からん。レミーナ嬢が教えてくれないんでな」


 観戦席には、ルインとエレナ嬢以外の面子が座っている。闘技場には、ルインが、俺が貸したハルバードを片手に中央でエレナ嬢が来るのを待っていた。どうやらシャルルは使わないらしい。


「知らない方が楽しいと思いますよ」

「しかしよ~、エレナ嬢つったらそっちじゃ有名な戦姫だろ。しかもルインは魔法使わねぇって、大丈夫なのかい?」


 手合わせ前のテントで、エレナ嬢がルインに魔法を使わないよう頼んでいた。ルインは序でに神器のシャルルも使わないって言っていたが大丈夫なのか?


 確かにルインが時空魔法使って、シャルルをぶん回していたら、流石にエレナ嬢の勝ち筋が無いのは分かる。しかし、逆に魔法が使えなかったら魔術師のルインが厳しかねえか?


「そ、それは……」

「大丈夫ですよ、姫様。ルインの今朝の勇ましい顔は伊達じゃないと思いますよ」

「リビアンが言うなら、きっとそうね。今朝のルイン様はカッコ良かったわ~」


 ああ、何となくは分かっていた。


 こんだけの美女軍団に男が一人だ。ルインてめえ、ガキのクセにハーレム作ってんじゃねえぞ、ゴラァッ!!!


 おっ!エレナ嬢が入ってきたな。エレナ嬢も先ほど貸したハルバードを手に持っている。つまり新兵器ってのは武器じゃない。いったい何だ?


 二人が闘技場の中央に立ち、お互いのハルバードの刃先を合わせた。そして、そのまま数合打ちあわせる。


「リビアンつったな。ルインは魔術師だろ。何で笑いながらエレナ嬢と打ち合えるんだ?」

「なんか、昨夜は一晩中、リフィテル様と特訓していたようです」

「はっ?リフィテル様って……。マジか?」


 天使と修行した奴なんざ、伝説の剣聖シュタインウェイぐらいだ。大天使カーミライトに神技を授かり暗黒竜を倒した伝説の英雄。その剣聖が使った剣が、帝国の宝剣ネァイリングって訳だが、


「上級天使に鍛えて貰って、神器まで授かるなんて、羨ましいかぎりだな。俺も肖りたいぜ」

「でもルインは千回以上は死ぬ思いをしたって言ってましたよ」


「ボクがいたから、リフィテルも結構容赦なかったよね。首は飛ぶわ、手足は飛ぶわで」

「オレなんか、お姉様に比べたら可愛いと思うぞ」

「ほぉう、妾よりも可愛いと?」

「ち、違いますお姉様!お姉様が凄いって事です!!!」

「うん。ボクもルインが木っ端微塵になった時はダメかと思ったよ」


 陽気な声で穏やかではない事を喋る上級天使達……。


「………やっぱ、肖りたくねえわ」


 しかし、上級天使とそんだけやれば、ルインの修練値と経験値はバカ上がりだ。


「ちなみにルインのレベルって幾つなんだ?」

「ルインのレベルですか?68だったっけ?」

「リビアン、それは前の話です。あの後に地龍やドラゴンゾンビも倒してますし、昨日の巨人やリフィテル様との特訓を考慮したら……」

「あ~、もう分かった。アイツは人間超えてんな」


 俺の知る限り、レベル80を超えた奴は大魔法使いの曾祖父さんジークハルト、聖女クラウディーヌ、そして大賢者ディールバルト、剣王ランスロートだけだ。


 歴史上超えたヤツは何人かはいるだろうが、ここ最近ではそんな化け物は耳にしていない。強いて挙げるならば、エルフクイーンのヴァロンティーヌと北の魔王ガイゼグロウバッハか。人間じゃないけどな。


 ルインのレベルはここら辺に匹敵していると見ていいだろう。


「お父様……。ルインさんも、エレナさんも……、凄いです……」


 ラウラが息を飲んで、二人の手合わせに見いっている。二人の打ち合う技術、スピード、膂力、どれを取ってもハイレベルな攻防だ。予想以上にエレナ嬢もかなりの腕前だ。ラウラの腕前も16の女子にしちゃあ、かなりの腕前だが、あそこにいる二人は次元が違う。


「リビアン、ちなみにエレナ嬢のレベルは幾つだ?」

「エレナ様は、たしか54、5だったかと」

「ほう!うちのヴァルデンとドッコイじゃねえか!」


 あの年で、帝国うちの大将と同レベルとか普通あり得んな。


「そいつはスゲーな!序でにお前さんは幾つだ?」

「あ、あたしですか!?え、えっと40だったかな???」

「おう、凄え、凄え!ラウラ、お前、完全に負けてるぞ」


 ラウラのレベルは21だ。けっして悪くはないが、同年代のコイツらと比べたら見劣りする。


 レミーナ嬢は昨日の奇跡を見れば十分だし、時空魔術師のルインと新兵器を作ったっていうカトレア譲も並々ならぬ才能の持ち主である事は間違いない。


 ………コイツらには何かあるのか?


 そうこうしていたら闘技場の手合わせに動きがあった。お互いが近接でのハルバードによる多彩な技で、見事な応酬を繰り広げていたが、お互い軽くバックステップして距離を取る。


「何ィ!?」


 ルインは、右手に持っていたハルバードが消えて、クロスボウを握っていた。後方に着地と同時にボルトを放つ。このタイミングで撃たれたらエレナ嬢も厳し…いッ!?


「どっから盾が出てきた!」


 エレナ嬢の左手には何故かカイトシールドが握られている。飛んでくる矢を盾で受けつつ、前方に駆けて出る。


「お父様、盾が消えました!」


 エレナ嬢は持っていた筈のカイトシールドが消えて、両手でハルバードを握り、ルインとの距離を詰める。ルインもクロスボウが消え、ハルバードに持ち替えてエレナ嬢へと駆ける。


 ルインが左手にハルバードを持ち替え、大きく突き出す。エレナ嬢は体を開いて躱すが、その時にはハルバードは消えて、ルインがスライディングしながらショートソードで、低い姿勢から斬りかかる。


 エレナ嬢は咄嗟にハルバードを地面に突き刺し、跳躍して空中に回避した。


「悪手だな」


 ルインの左腕の銀色のブレスレットがキラっと少し輝き、クロスボウが握られる。空中に飛んだエレナ嬢には躱すすべがない。放たれたボルトがエレナ嬢の背中に当たった。鏃が無いボルトだから刺さりはしなかったが、勝負はついた。


「あれか?」

「気が付きましたか?」


 隣のレミーナ嬢が笑みを溢したから正解だな。セントレア王国の新兵器。正体は銀色のブレスレットだ。空間魔法による武装換装かよ。凄えこと考えたな。



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