第71話 冒険者ギルド
昨夜の巨人襲来にも関わらずに、華やかに賑わうガスバルト帝国の帝都グラン・オウジュ。お城周辺以外は大きな被害が無かったからか、通りにはたくさんの人が出ている。
エレナ様との手合わせの後、皇帝陛下からは「晩飯までに城ん中を片付けておくから、それまで帝都観光でもしててくれ」と言われていたので、僕たちは帝都観光に来ていた。
ちなみに、エレナ様との手合わせの後に、皇帝陛下とも手合わせをする羽目になった。一回だけって話だったけど、結局十回ぐらいやる羽目になった。
最後は気絶していたけど、大丈夫だろうか?もちろん僕の身の安全だ。『皇帝ぼこぼこにしちゃった罪』とかあったらヤバい。だって「俺が死なない程度に全力でやってくれ」って言うんだもん。怪我の方は、レミーナ様が治癒してくれたので、執務には影響ない筈だ。
「ここのお店が可愛いくてよく来ます」
ラウレンティア様が紹介してくれたお店は、大きな通りに面していているものの、通りには若い人が多い事から、若者向けの商店街通りにある小さなお店だった。雰囲気的にアクセサリーショップかな。
こんな小さいお店に大所帯の僕たちが、入っていいのだろうか?
街に繰り出したのは天使様ご三人とフレアさんを除く十人と、ラウレンティア様と護衛の女騎士さんが五人だ。フレアさんはお城の片付けを手伝うとかで、瞳を怪しげに輝かせ、嬉々としてお城に向かっていった。
今日は全員が私服姿で、レミーナ様、エレナ様、カトレア様、ラウレンティア様は薄い生地のブラウスやワンピースなどの涼しげな夏の装いで、色華やかでとても素敵な洋服を着ている。
ノーラさん、メーテルさん、リビアンさん、ミラさん、ソラさん、それと五人の女騎士さん達は、素敵である事は間違いないが、夏にしては少し厚い生地の長袖姿。彼女たちは護衛がお仕事だから仕方ないが、やはり華やかである。
こんな美女軍団が通りを歩けば、目立って目立って仕方ない。当然ながらラウレンティア様はみんなが知っていて、注目を集めていた。
中には皇帝陛下の新しい美女軍団とか抜かす輩もいて、言った輩は美女軍団から軽蔑の眼差しを向けられ死んでいた。
「さあ、入りましょう。中は意外に広いので大丈夫ですよ」
ラウレンティア様に促されて、僕たちはお洒落感漂うお店に入る。
「………ランジェリーショップか」
ラウレンティア様御用達のお店は女性専門下着のお店だった……。
「あたし、下着の枚数が足りなかったんです。紹介頂きありがとうございます、ラウレンティア様」
と、一番喜んでいたのはリビアンさんだった。……ちみかァ!ちみが僕をここに
リビアンさん以外の女の子達も、カラフルな下着を手にして喜んでいた。レミーナ様が白い下着を、エレナ様は水色の下着を、カトレア様が……赤ッ!せ、清楚可憐なカトレア様が、赤だと!?ガハッ!!!
い、いかん、ここは魔空間だ!僕の理性があるうちに撤退を進言します!転進、転進だァァァ!
「レ、レミーナ様」
「はい!ルイン様は此方と此方、どちらがお好みですか?」
レースが可愛い白い下着と水色ストライプの下着を並べ、僕に見せた。
め、目がぁぁぁぁぁぁ!!!
女性物の下着など見たことが無かった僕には、空に輝く太陽よりも輝いて見えた。
えっ!?水色ストライプが鉄板?だ、黙れ前世の記憶!僕に何を言わせるつもりだ!
「ど、どちらもお似合いだと思いますよ。そ、それでですね、僕はお店の外で待ってますッ!」
僕はそう告げると脱兎の如くお店の外へ逃げ出した。
◇◇◇
女の子の買い物は長い。なにやら店員さんとも意気投合しているみたいで、一向に出てくる気配はない。
そんな訳で、僕は通りの対面にある気になる建物へと足を運ぶ事にした。通信機もあるから、はぐれる事はないだろう。
その建物は周りの建物に比べたら大きな建物だ。看板には『冒険者ギルド ブルーナ通り支部』と書かれている。
少しだけ躊躇して、ギルドの扉を開ける。ギルドの中には何人もの冒険者がいて、ほとんどが僕よりも年上のようで萎縮してしまう。
変に絡まれないように注意しながら、受付を目指す。受付カウンターは五ケ所あるけど、どこもそれなりに人が並んでいる。
それでも一番手前が空いていたので、手前の列に並んだんだけど、僕の後ろに並んだ人が、ごっつい体躯にモヒカン頭の戦士風のヤンキーお兄さんだった。
「ッだよ!」
「い、いえ」
視線が合ってしまった為に睨まれてしまった。怖い。小さく肩を丸めて並んでいると、僕の順番になった。受付には中年のおじさんがいる。
あれ?受付って女性じゃないんだ。他の受付カウンターを見れば、どこも綺麗なお姉さんだった……。
「初めて見る顔だな。冒険者志望か?」
「あ、いえ、冒険者じゃないんですけど、魔物の買い取りって出来ますか?」
僕が冒険者ギルドを気にかけたのは、以前に倒した魔物を売りたかったからだ。王国では悪目立ちをしたくなかったから、冒険者ギルドや買い取りをしてくれるお店には持っていかなかった。
しかし今は帝国だし、なによりお金が欲しい。僕のお財布に世界の安寧がかかっているのだ!今は帝城のお菓子殲滅作戦のおかげで世界は平和だが、明日はどうなるかは、まさに
「坊主、魔物を倒した人の紹介状か入手した経緯が分かる物はあるか?」
しまった!魔物はお金に困った素人や子供が無闇に倒しに行かないように、入手証明が必要だったんだ。商人の息子としてお恥ずかしい失態だ。
「ぼ、僕が倒しました」
「はあ?お前がか?だったら冒険者登録するんだな」
「オイ、ガキ!ゴブリンの2、3匹持って来たって端金にしかならねえんだ。諦めて帰れや!」
後ろのモヒカンが大きな声で騒ぐものだから、他の列の人たちからの視線も集まってしまった。
「いえ、オークやオーガも有りますよ」
「はあ?お前みたいなガキにオークやオーガを倒せる筈ねえだろ!そもそも、その死骸は何処にあんだよ!」
さて、どう説明するか。異空間収納から取り出すのは論外として、マジックバッグなら有りかな?しかし、王室にも一個しか無かったっていうし、公爵様は持ってもいなかった。
「何つかえてんだ!」「揉め事なら他でやれ!」「くそガキ死ね!」
ヤバい。皆さんに迷惑をかけてるっていうか殺されそうだ。
「え、えっと、ここに有ります」
僕は腰のウエストポーチを軽く叩く。
「僕は商人の息子でして、父からマジックバッグを借りています」
「「「マジックバッグぅぅぅ!?」」」
隣のカウンターの受付嬢含め全員が僕のウエストポーチを凝視している。
「ヨーシ、分かったぁ!テメエと決闘だ!」
何が分かったら決闘になるのだろうか?
「僕には全然分からないんですけど?」
「はァ?だから、いいとこのお坊ちゃんはバカだってんだよ。
テメエがマジックバッグを持っているのはこの場の全員が知っている。つまりギルドを出た瞬間から、テメエは命を狙われた挙げ句に、マジックバッグを奪われちまう」
「な、なるほど……」
「だから、オレ様が正々堂々と決闘して、テメエからマジックバッグを奪うって訳だ」
「はあ?それは正々堂々っていいますかね?それに僕にはメリットが何もありませんが?」
「なに、テメエが勝てば冒険者登録テスト合格だ。何せオレ様は審判資格のあるCランク冒険者様だからな!エディ、それでいいよな!」
エディさんとは受付のおじさんらしい。「どうする、坊主?」と聞かれたので、これ以上騒ぎを大きくしたくない僕は、「それでお願いします」と、妙なことになった冒険者登録テストを受けることになった。
「坊主、名前だけ聞いとこう」
冒険者登録テストを受ける為に列から離れようとした僕を、受付のおじさんが呼び止めた。
「ルイン。ルイン・ドロンといいます」
「ルイン?どっかで聞いた名だな?」
「よく有る名前ですからね」
そして僕はモヒカンの後ろに付いて、テスト場へと向かった。
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