第69話 王国の新兵器
「……と、いう事があったんですよ」
昨夜から今朝にかけて、向こう時間で約240時間の地獄の特訓の話をした。初めは何故だかプリプリと怒っていた皆さんだったけど、話の途中からは青い顔になって聞いていた。
「そしてこれが、僕の新しいパートナーのシャルルです」
「皆さま、おはようございます」
僕は右腕の手首にある、ブレスレットに形を変えたシャルルを見せる。
「本当に喋りましたわ!」
「す、凄い……。私もインテリジェンスウェポンは初めて見ます」
「これが、戦神ニヌルタ様が使われている神器……」
矢鱈とシャルルへの食い付きがいい。特に騎士である、エレナ様、リビアンさん、ノーラさん、メーテルさん辺りは目を輝かせて見ている。
「シャルル、ハルバードになってくれ」
「イエス、マスター」
ブレスレットが消えて、僕の右手に金の柄に、斧、穂先、鉤爪が銀色に輝くハルバードが現れる。柄や斧部に刻まれた精巧なデザインがシャルルのセンスの良さをうかがわせる。
「素晴らしい!」
「凄え!」
「カッコいい!」
「素敵……」
やはりエレナ様達の食い付きがいい。
「ルイン君、それって」
「はい、エレナ様。マルチウェポンリングです」
エレナ様の左右の腕に、小さなエメラルドを数個埋め込み装飾してある銀色のブレスレットがある。僕とカトレア様で作ったマルチウェポンリングだ。
ブレスレットには異空間収納と空間換装の魔方陣、そして発動に必要な術式が組み込まれている。まだ試作段階で、武器に精通しているエレナ様にモニタリングをして貰っていた。
「リフィテル様からシャルルを貸して貰えたのはラッキーでしたね。シャルルほど多彩なことは出来なくても、マルチウェポンリングの使い方が僕にも分かりました」
「それでしたら、ルイン君からご教授願おうかしら」
「いいですよ」
「「「えっ!?」」」
何故か皆さんが驚いていた?
「あれ?どうかしましたか?」
「いえ、いつものルイン君なら、謙遜というか、自嘲気味というか、その…断るのが普通だったから少し驚きました」
「うん。いつものルインと違うよ」
「あっ、でもカッコいいかと」
「カトレアさん!私が言おうと思ったのにぃ」
プンプンと怒るレミーナ様に、舌をちょびっと出して笑うカトレア様。ちょっと前までは、教室で少しつんけんとしていたカトレア様のこんな顔を見れるとは思ってもいなかった。
みんなもそんなやり取りを見て笑っていた。
「よう!みんな起きてるかぁ」
天幕を開けて入って来たのは、ガルバルト帝国の皇帝、ヴィルヘルム陛下だ。
「なんだ、楽しそうだな。おっ!なんだそのハルバード!業物の域を超えてんぞ!」
「分かるんですか?」
綺麗な装飾はされているが、儀礼用の物に比べれば派手さは少ない。
「当たり前だろうが。我が家の家宝、宝剣ネァイリングと同等か?」
「失礼な方ですね!そんなドラスレと一緒にしないでください」
「………しゃべった?喋ったぞ、オイ!」
しまった!シャルルには、無闇に喋らないように言ってなかった。とはいえ、アビスメティス様を知っている皇帝陛下だ。今さら神器ぐらいではビックリしないか。
「はい。僕の新しいパートナーのシャルルです。と言っても借り物ですが」
あれ?皇帝陛下が大きな口を開けて、固まっているよ?
「………マジか?いや、お前が言うんだからマジなんだろうな。古代アシュメルの町を雷神の雷で滅ぼした神器
なぁよ、お前一人で
「アハハ、それは流石に気のせいですよ。アビスメティス様じゃあるまいし」
あれ?何故か皆さんがジト目で僕を見ている。いやいや、流石に無理でしょ!
「ねぇ、エレナ様。無理ですよね」
「そ、そうですね……。でも1軍団ぐらいなら……」
「無理ですよ。そんな事をしたら僕が殺人犯で捕まっちゃうじゃないですか」
「いや、ルイン、俺はそういう事を言ってんじゃねえんだよ」
皇帝陛下の言葉に皆さん何故かうんうんと頷いていた。解せぬ!
◇◇◇
「元老院の爺いどもと、関係していた奴らは全員日の出前に処刑した」
テントにある大きな八人掛けのテーブルに、皇帝陛下を上座に据えて、レミーナ様、エレナ様、カトレア様に僕と三人の天使様たちが座り、他の皆さんは幕際に立ち、皇帝陛下の言葉を聞いた。
朝から僕たちのテントに自ら訪れた皇帝陛下は、サリーナ様をはじめ幾人もの女性を猟奇的に殺害した、帝国の第3皇子に纏わる事件は、元老院の老害とその関係者の処刑という形で幕を降ろす事を僕たちに話す。
「関係者と言いますと…」
「爺いどもの腰巾着、そして一族郎党全員だ」
「「「……………」」」
皇帝陛下の容赦ない決定に全員(天使様のぞく)に息を飲む。
「これは国家転覆罪、皇室反逆罪、帝都100万の市民の命を危険にさらした大量虐殺罪、あげれば切りがねえ大罪中の大罪だ。しかも俺はクソガキが死んだ時にしくじってるからな、二の轍は踏まねえ。容赦はなしだ」
サリーナ様の事を抜きにしても、皇帝陛下にも思うところが合ったのだろう。僕たちが口を挟む余地のない決断だった。
「それで、お前ら。俺が入って来た時に、何を笑っていたんだ?」
今朝方に、大量の血の粛正が行われた事を知ったテントの中は、重い空気が漂っていた。その空気を変えるために、皇帝陛下が話題を変えてくれた。
「えっと……」
話をしてもいいのかな?シャルルはともかく、マルチウェポンリングはセントレア王国の新兵器としての要素もある。
「なんだよ~、内緒事か~。俺もRED同盟の一員だぜ。同盟といやぁ家族だろ。なんならパパって呼んでもいいぞ」
「「「嫌ですッ!!!」」」
皇帝陛下をパパなんて呼んだら、ママって呼んでもいいぞって人が控えている。ここは徹底抗戦だ!
「(クスッ)話をしていいですよ、ルイン様」
クスクスと笑うレミーナ様。見れば皆さんも笑っていた。
「その前に陛下、今から見せるものはセントレア王国の新兵器です。そして、それを帝国に供与することは出来ません」
「………王国の新兵器か。それを作ったのは……」
皇帝陛下の視線がレミーナ様から僕に移る。目線が合った僕はこくりと頷いた。
「………欲しい」
「「「えっ!」」」
「いや、欲しいだろ!時空魔術師が作ったアイテムだぞ!」
「し、しかし陛下」
さっき、キッパリと言い切ったレミーナ様も、まさかの回答に慌てている。
「まあ聞け。帝国にじゃねえ、RED同盟のランスハルト個人にだ。な、パパにも一個ちょぉ~だい」
だからパパって言わないで下さい!
『オ~ホッホホホ、ママって呼びなっさぁ~い』
あれ?
また腐女子先生のガサツな笑い声が聞こえたような?
気のせいだよね?
気のせいだよねッ!!!
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