第66話 神器シャルル

「シャルル、なんでハルバードを選んだんだ?メイスのままでも、お前なら十分に威力が有るだろ?」

「メイスフォームはニヌルタ様の脳筋仕様ですから。

 ルイン様は優柔不断で、甲斐性なしで、朴念仁で、鈍感で、さらには幼女趣味の変態野郎です」


 なんか思いっきりディスられているんですが。


「それでいて、知略や奇警などアホのニヌルタ様とは対極にいます」


 ニ、ニヌルタ様さえもディスられているのか!


「ならば多彩な攻撃バリエーションがあるハルバードが適していると思いました」

「成る程な。なら槍術、斧術、鎌術に剣術も少しは覚えた方がいいか。時間を30分の1に最セットしてと」


 今、サラッと30分の1とか言いますしたね。8時間の30倍だから240時間だよ?


「そんな長い時間、寝食はどうするんですか?」

「無いよ?」


 あれ?聞き間違いかな?


「あの寝食は?」

「だから無いって。240時間ぐらい寝なくたって平気、平気ぃ」

「平気じゃ無いですよ!人間そんなに無理効きませんて!」

「あっ、そっかぁ」


 あっ、そっかぁじゃないですよ!全くぅ!


「ファシミナ、アレやってくれ」

「はいよぉ。デザイアキャンセラー発動ぉ!」

「あれ?何だか心が軽くなりました」

「だろ!コイツは精神疲労に悩む天使たちの為に使う神力なんだ。これで特訓に集中出来るな」

「…………」


 欲求無効化デザイアキャンセラーの神力。天使エンジェル様たちを年中無給で働かせ、戦神ニヌルタ様をもってしても、疲労困憊で倒れるまで働かせる為の神の御業。鬼じゃぁ!天界には鬼が棲んどるぅぅぅ!!!


「ホンじゃ行くよ」

「ほへ?」


 死神の鎌デスサイズを顕現させたリフィテル様は、一瞬で距離を詰めると、大鎌を一振して、僕の体を一刀両断した。僕の上半身が、下半身を残して宙に舞う。


「ζЖδφйЯаξτψ」


 ファシミナ様が神語で呪文を唱えると、僕の下半身が、あら不思議、上半身にくっついていた。死ぬほどの激痛も、消えている。


「リ、リフィテル様ぁ!僕、死んじゃうかと思いましたよ!」

「はぁ?オレを誰だと思ってんだよ。オレが魂を刈らなければ死にゃあしないって。だから大丈び、大丈び」

「回復はボクに任せてね、お兄さん」


 う~、なんて出来た妹たちなんだ!誰かぁぁぁ!助けてぇぇぇ!


「マスター。マスターはわたしと同調シンクロしている事をお忘れ無く。マスターの時空視や体感加速を使えば、リフィテル様の攻撃を躱すぐらいはできます。

 わたしが体捌きから槍術、斧術、鎌術をマスターに伝えますから、マスターはわたしをしっかりと感じ取ってください」

「う、うん。よろしく頼むよ、シャルル」


 こうして僕の地獄の特訓が始まった。誰だよ!リフィテル様がじゃんけんで勝って喜んだバカは!



◇◇◇


 あれから多分100時間ぐらいは、ぶっ通しでリフィテル様との特訓が続いている。腕が飛ぼうが、足が飛ぼうが、筋肉痛さえファシミナ様が治してくれる。赤い嬉し涙が止まりません。


 湖畔の時とは違い、油断をしていないリフィテル様には、時空視を使っても僕のハルバードが掠ることは一度も無かった。


 それでも、シャルルの教えのもと、僕は槍術、斧術、鎌術を学び、結構なお手前レベルまでいけてる気がする。


 何せシャルルとは20%とはいえ同調しているのだ。シャルルの考えはノータイムで、僕に伝わり、さらには体を動かす時にも、サポートしてくれるので、理論と実際の動きに迷いが発生しない。そしてシンクロ率も32%まで上がってきている。


「時間も無えから、次からは懐にも入っていくぞ。

 クソ兄貴、シャルルは全武装型戦術神器オールラウンドタクティカルウェポンだ。ハルバードに固執しない戦い方も叩き込む!」


「マスター、わたしが何に変わるかはお楽しみですね!」

「うわぁ、ビックリウェポンかぁ。ついて行けるかな?」


「マスターが失敗したら、マスターの首が飛ぶだけですから大丈夫です!」

「それ、全然大丈夫じゃないからね!物凄く痛いんだからね!」

「はい!わたしに痛覚が無くてよかったです!だからガンガン行きますね!」


 うわぁ~、このは僕を殺す気だぁ。痛いのは嫌だから必死に食らい付いていくしかないな。


 そして、それからの訓練は今までの100時間がお遊びタイムと思える程に苛烈を極めた。


◇◇◇


「うわっ!ここでトンファー!?」


 僕が付き出したハルバードを軽く躱して、大鎌デスサイズで薙ぎにきたリフィテル様に、一歩踏み込むと同時にハルバードは消えて、両手にトンファーが握られている。


 大鎌の柄に右のトンファーを当てて受け止めると同時に、左のトンファーを突き出して、リフィテル様のボディを狙うが、大きく後方に跳躍して躱される。


 しかしニヌルタ様の知恵袋と呼ばれる戦闘頭脳コンバットブレインを持つシャルルは、それを予測していた。トンファーが消えて、クロスボウへと変わる。


「適当に撃ってください」


 孥術はカリキュラムに入っていないが、素人でもボルトだけは発射できるのが、クロスボウの利点だ。


 後方ジャンプで宙に舞っているリフィテル様に向けて、照準はシャルルが行い、僕はトリガーを引くだけだ。とはいえ、見え見えの遠距離攻撃が、リフィテル様に当たる筈がない。


 サクッと空中で身を躱して矢を避けるリフィテル様に、何処からか飛んできた矢に左肩を射ぬかれた!?


「てっめえぇ、シャルル!やりやがったな!」

「オホホホ、わたしが自立型遊撃武装セルフスタンディングタクティカルウェポンでもある事を失念していましたね」


 『ニヌルタのいかづちが落ちるぞ』と呼ばれる諺がある。悪いことをすると雷神ニヌルタのいかづちが落ちるぞってことなんだけど、この雷を落としにくるのが、神器シャルルと言われている。神器シャルルは自由に空を飛び、悪者にいかづちを落とす、裁きの化身でもあった。


「先ほどのトンファーの片割れを化身にして、背後を取らせて頂きました」

「いや、タイマン勝負でソイツは使わないだろ、普通」


主天使キュリオスであるリフィテルリ様に、出し惜しみなど出来ません。

 例え優柔不断で、女心も分からない朴念仁で、金策も出来ない唐変木の主であっても、主に勝ち星をあげさせる事がわたしの使命ですので」

「シャ、シャルルちゃん、いいやぁ~」


 僕が、この少し口の悪い武器っに愛着と愛情を抱いた瞬間だった。ニヌルタ様が職場復帰するまでの期間かもしれないけど、僕はこのの忠義の為にも、強くなろうと改めて思う。


「オ~ケ~、オ~ケ~、そんじゃオレもギヤを、もう二つ三つ上げるとすっかぁぁぁ」


 首をコキコキ鳴らし、肩をぐるぐる回すリフィテル様の目には、何故だか熱い炎がうかんでいたよ?


「そんじゃ、全開で行くぜぇぇぇぇ!」

「「ひェェェェェェェェェ!!!」」


 その後は、それが特訓だったのか、何だったのかは分からないぐらいに、僕たちはブッチぼこぼこに叩きのめされましたとさ。とさッ!!!


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