第65話 新たなる力
サリーナ様の件で、第3皇子の背後に帝国元老院のお爺さんたちが関与しているとの話を、皇帝陛下から聞いた。そのお爺さんたちは、皇帝陛下直属の部隊が、確保に向かっているとの事だった。
帝都は避難していた人達が街に戻っている最中で、半ばパニック状態らしい。宿屋はまず取れないだろうとの事で、僕たちはお城の庭に張られたテントを一張り借りる事になった。
テントと言っても、夜営会で使った小さな三角テントではなくて、アンデッド討伐の時に使ったような大きなテントだ。あてがわれた個室には、僕と天使様の三人。皆さんも三人いれば大丈夫と言っていた。しかし、それが不幸の始まりだったんだ。
布の垂れ幕で仕切られた部屋には、少し大きなベッドが2台置かれている。……どうしろと?
「妾がお兄ちゃん♡と寝るから安心せい」
「全然安心出来ないんですけど」
「なら、オレと寝るか?」
「ボクも別に構わないよ」
「そういう問題じゃないんです!」
結局、異空間収納から自前のベッドを取り出し、狭いながらに3台のベッドを並べた。
1台は僕、2台目にアビスメティス様、3台目がリフィテル様とファシミナ様が使う事でなんとか落ち着いた。
「しかしルインよ、あの程度の小物は一撃で倒さんかい」
「えっ?かなり大きかったですよね?」
「アホか!デカイだけの薄のろなんぞ、小指一本で叩きのめさんかい」
天使を三人も食べた化け物ですよね?小指一本で倒せるのはアビスメティス様だけですよ?
「クソ兄貴も武器持てよ!オレだったらあんなクソ、一撃で吹き飛ばすぞ!」
うん、そんなん出来るのはリフィテル様だけですね!
「お兄さんは信仰心が足りないんだよ。あんなの3秒も祈れば浄化出来ちゃうよ」
無理です!3秒短かすぎ!レミーナ様の渾身の祈りで、浄化出来たんですよ!
「仕方のないお兄ちゃん♡じゃ。妾が少々指南してやるかの」
「武器だよ、武器!オレがクソ兄貴に武器の使い方ってのを叩き込んでやるぜ!」
「はぁ、何を言っているんだよ。世の中は信仰心があれば何でも出来るんだよ。ボクはお兄さんに八大地獄ツアーをお勧めするね。もう神様にすがり付きたくなること、間違い無しだね」
何を言っているの、この美幼女たちは?全力で遠慮させて頂きます!
「妾に任せるのじゃ」
「オレだよ、オレ!」
「絶対ボクだよ!」
天使様たちが、「妾じゃ!」「オレ!」「ボクだよ!」と揉め始めてしまった。
「ここは穏便にじゃんけんでどうですか?」
あれ?僕は何を言っちゃってるんだ?誰か一人は勝つって事だよね?
「ムム、仕方なかろう。ここは運を天に任せてじゃんけん勝負じゃ!」
「「オォォォォォッ!」」
上級天使様たちが、任せる天とはカナンテラス様の事か?
頼みますカナンテラス様!ファシミナ様にだけは勝たせないでください!何だよ八大地獄ツアーって!それ、生きている人間が行っちゃいけない場所だよねッ!!!
「ッシャァァァ!オレの勝ちだぁ!」
勝ったのはリフィテル様。何はともあれファシミナ様でなくてよかった!
なんて思っていた事もありました……。
◇◇◇
「リフィテル様?ここは何処ですか?」
僕は広い荒野に、リフィテル様の神力で跳ばされてきた。アビスメティス様とファシミナ様も、暇だからとついてきた。
「ここはオレのグランドみたいなもんだ。時間も十分の一に調整したから、朝までみっちり鍛えてやんよ」
この荒野は
「そ、そんなにやったら疲れちゃいますよ?」
「お兄さ~ん!ボクが怪我や疲労は回復してあげるよ~」
うぐッ、聖教会が崇める聖神ファシミナ様の心優しい声援に心が折れそうになる。
「リ、リフィテル様?僕は剣術は不得意なんですけど?」
剣術に限らず槍術も、弓術も苦手だよ。レベル頼みの力業で大概は大丈夫だろうけど、技術としてはからっきしの所詮はモブキャラだ。
「ンな事は分かってる。そもそもナヨナヨした性格のクソ兄貴に剣術は向いてない」
うぐッ、神様にダメ出しされてしまっては、剣術は諦めるしかないね。
「それじゃあ、僕にはどんな武器が向いているんですか?」
「無いな」
はい、終わりぃ!帰ろう!
「そんなクソ兄貴にはぁ~、コレだァ!」
リフィテル様が何処からともなく出した武器は……。
「棍棒?」
「棍棒違いますからぁ!」
リフィテル様の握っている武器は、棍棒に7本の釘が刺さっている、頭が少し残念なヤンキー兄ちゃんが持っていそうな武器だった。
「ちょっとリフィテル様ぁ、この人ってば失礼ですよ!アホですよ!わたしを事もあろうか、棍棒風情と、同じに見えるなんて!」
「いや、オレも棍棒にしか見えないぞ」
「ひ、酷い、わたし実家に帰らせて貰います」
棍棒が喋ってる。所謂インテリジェンスウェポンってやつだ。初めて見た!棍棒だけど。
「まあ、待てシャルル。帰っても暇だろ。ちょっとオレ達に付き合いな。ほれ、クソ兄貴、そいつが兄貴のパートナーだ」
リフィテル様が棍棒をポイと僕に放り投げる。クルクルと回る棍棒を、スパイク側でキャッチしないように気を付けて受け取る。
「よ、よろしく……シャルル…さん?」
「はぁ、よろしくお願いします。リフィテル様の命令だし~、ニヌルタ様は過労で倒れて入院中だし~、暇だからお付き合いしますよ、暇だから!」
ニヌルタとは、戦神ニヌルタ様の事だろう。恐るべしは、戦神のニヌルタ様でさえ過労で倒れる天界ブラックワーク!
そのニヌルタ様が持つ神武装が
「さて、シャルル。クソ兄貴にも使えそうな武器は分かるか?」
「え~と、では
あ〜、何コレ!?魂に解析不能な不純物が混ざってますよ!?
まっ、いっか。
え~と、女の子の趣味はそっち系、こっちも行けて、あっちも行けると。変態ですね!
ほうほう、凄い!時空魔法!マスター、あなたは神ですか!時魔法なんてニヌルタ様だって使えないですよ!面白い!分かりました。マスターにはこの武器がよさそうです」
何やら僕のプライベート情報が、だだ漏れしている中で、シャルルは僕の手の中で光りだした。
「うわっと」
棍棒…いやメイスだったシャルルが形を変えたせいで、バランスを崩して落としそうになった。
「これは!」
「へ~、クソ兄貴にお似合いの武器はそれか~」
シャルルは僕の手の中で、槍の穂先、斧頭、反対側には長い突起刃が付いた長柄武器、ハルバードに姿を変えていた。
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