第64話 RED同盟の明日はどっちだ

「お前ら凄えわ……」


 テーブルの上の軽食をツマミながら、僕は僕たちの諸事情を話した。

 流石の皇帝様も主天使キュリオスのリフィテル様、力天使デュナメイスのファシミナ様を紹介したら目玉が飛び出ていた。普通なら可愛い幼女を『天使様』です、なんて紹介したら僕の頭を疑われる所だけど、アビスメティス様を知っていた皇帝様は、一切の疑いもなく信じてくれた。


 よかった!ホントによかった!最近は変態が多いからね!気を付けないとね!


「本当にセントレア国王は甦るのか?」

「僕たちのこの旅が無事に終われば、可能性は高いと思います」

「……還魂の術リザレクションか。聖国にはどう説明するんだ?」


 聖国は神祖コーネリア様が生まれ、その魂が眠る地であり、聖教ファシミリアの総本山を首都とする国だ。


「ほんぐらいやったら、ホレがなしつけてもいひぞ(モグモグ)」

「キミが出たらややこしくなるよ。ボクがミカエラに伝えておくよ」


 聖教が崇める神様は大神カナンテラス様、聖神ファシミナ様、大天使ミカエラ様だ。そのミカエラ様の力添えがあれば、リザレクションが復活しても、揉め事は少ないだろう。


「ありがとうございます、ファシミナ様」


 レミーナ様がファシミナ様にお礼を言いながら安堵の息を吐く。聖教の教皇様はゲームの設定では美人のお姉さんでいい人だったけど、取り巻きのシスターズおばちゃんたちは少しめんどい筈だ。


「はあ~。神様を味方につけてるお前ら、マジでヤベエぞ」


 アビスメティス様たちを見れば、美味しそうにお菓子をパクパクと食べている。深淵の胃袋へと落ちていくお菓子。しかも主食で、一人増えた。


「そうですね、マジでヤバいです」


 金貨がポロポロと深い闇に消えていく気がしてならない。


「まあ、ルインには大きな借りがあるから、困ったことがあればすぐに言ってくれ。それからレミーナ王女、サリーナの件だが…」


 帝国の第3皇子に嫁ぎ、殺されたサリーナ様。帝国は未だに公の公表をしていない。


「サリーナの件はすまなかった。まだ公に出来ていない事には事情があったんだが、それも今夜には方が付く。そうしたら正式にセントレア王国には詫びを入れにいく」

「…………」


 レミーナ様の顔に哀しみの色が浮かんだが、やがて不安気な色を浮かべている。第3皇子の亡霊を討ち果たした事で、少しは気が晴れてくれていればいいのだけど。


「陛下からのお言葉、ありがとうございます。また、帝国から我が国に陳謝を頂ければ、姉を慕っていた者達も、幾ばくかの気持ちの整理が付くことでしょう。

 しかし、我が国は政情が不安定であり、仮に第1王子が新政権を建てた場合、陳謝の件は暫く待って頂きたく、お願い申し上げます」


 第1王子様に、陳謝の手紙を送ったらどうなるか?セリーナ様を第3皇子に宛がったのは第1王子様だ。この陳謝を認めれば、自らの過ちを認めたことになる。


 第1王子様が、陳謝を受け入れ、帝国への貸しが一つと思えばいいが、その場合はセリーナ様の惨事が知れ渡る事となり、セリーナ様に近しい人や、セリーナ様を思う国民の怒りや悲しみは、第1王子様にも向けられる事になる。


 ならばどうするか。陳謝を受け取り、改竄して、全てを帝国の責任にすれば簡単だ。この場合、レミーナ様の気持ちも、皇帝陛下のお心遣いも、欺瞞の闇へ埋もれてしまう。

 

「………そんなに第1王子も、第2王子も信用出来ないか?」

「はい!」


 皇帝陛下の疑問に、レミーナ様ははっきりとした声で、兄達を否定した。


 そして、毅然とした立ち振舞いを見せたレミーナ様を、皇帝陛下は威厳に満ち溢れた、重厚で気高く、鋭い視線で見つめている。


 そのプレッシャーに一同(天使様除く)が、息を飲んで見つめている。


「RED同盟は居心地いいか?」


 意表をつく陛下の言葉に、レミーナ様も僕たちも狼狽えてしまう。


「は、はい!勿論です!会員ナンバー1番は、伊達じゃありません!」

「なる程な。それで俺は何番なんだ?」

「陛下は21番ですね」

「そんなかには、セントレアの重鎮もいるのか?」

「はい!フォンチェスター公爵家に、私の父と母もメンバーに名を連ねております」

「ほう」


 あれ?


 今、父って言ってた?言ってたよね!?

 父は、乳でもパパでもないよね!?

 レミーナ様が他にパパを作るなどあり得ない。

 えっ?パパ喫茶?

 前世の記憶、何言っちゃってるんだよ!

 メイド喫茶もあるよ。デヘヘって!

 デヘヘじゃねえよ!

 何だよそれ!頭おかしいぞ前世の世界!


「セントレア国王もRED同盟のメンバーなんだな」

「はい!父もルイン様に忠誠を誓うと今際の言葉を遺しました」


 はい!国王様確定!


 って何を遺言しちゃてるんですか国王様ぁ!


「ならば、国家転覆を企む秘密結社RED同盟として、帝国の陳謝は遅らせたい。そういう事だな」

「そう捉えていただいて構いません」


 RED同盟って悪の秘密結社?

 創始者が腐っていたのが原因か!?


 僕は肩を落としながら皆さんの顔を伺うと、苦笑いのエレナ様、サムズアップしているリビアンさん、目頭を抑えているカトレア様、あたふたしているミラさんとソラさん、ノーラさんとメーテルさんはため息ついて、フレアさんはニヤリと微笑んだ。


「大変じゃあ!」


 おとなしくお菓子を食べていたアビスメティス様が、突然立ち上がった。


「妾の菓子が、妾の菓子が無うなってしもうた!」


 気が付けば、山のようにあったお菓子は一つも残っていない。


「お兄ちゃん♡、すぐに持ってくるのじゃ!」

「クソ兄貴、オレのもな」

「お兄さん、ボクもおかわり」


 はぁ、国王様に、皇帝陛下、そして熾天使様たち……。RED同盟、僕らは何処に向かって進んでいくのだろうか……。




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