第63話 皇帝大敗
「たくゥ、あと3秒遅かったら、オレがてめえらの首をかっ斬ってたぞ」
皇帝陛下のテントが、急ピッチで張られ、メイドさんたちが美味しそうなお菓子を沢山運んできた。
「ルイン?こちらの真っ赤なお嬢ちゃんは?」
「……僕の妹です……」
「ほほう」
テントの中は、幾つかのランタンの明かりに照らされ、中央に置かれた大きなテーブルには、僕たち一同と皇帝陛下、ラウレンティア様に、もうお
テーブルの上には沢山のお菓子と軽い食事が置かれている。夕食を食べ損ねている僕たちには、それに早く手を出したいのだけれど、皇帝陛下の質問に答えてからじゃないと不味いよね。
「妾もルインの妹じゃ」
「ボクもだよ」
「ガハハハハ!面白えぇ!面白過ぎんぞ、ルイン!」
お城の庭に張られた大きなテントの中に、皇帝陛下の笑い声が響く。
「アビスメティスに、謎の美しいお嬢ちゃんが二人か!曾爺さんが生きてりゃ、さぞかし喜んだろうな」
僕の中の、いや、みんなの心の中の伝説の大魔法使いが瓦解していく。
「それで、そちらの二人は誰なんだ?」
「こちらの二人は…」
「待ってくださいルイン様」
僕にストップをかけたのはフレアさんだった。
「お話しの途中に申し訳ありません。ルイン様、この先のお話しはRED同盟の極秘事項に触れるモノもあります。皇帝陛下とはいえ、お話しされるのは不味いかと」
「あっ、そうでした」
話しの流れで僕の時魔法の話やリザレクションの話しもしないといけなくなる。軍事国家の帝国なんだから、僕たちの身柄が拘束されるリスクだって有るんだ。ここは用心した方がいいな。
「姉ちゃん、そのRED同盟ってのに入らないと続きは聞けねえんだな」
「はい。ルイン様への忠誠と血の盟約なくして、語ることは差し控えさせていただきます」
「それはルイン個人であって、セントレア王国とは関係無いってことだな(ニヤリ)」
「はい、皇帝陛下(ニヤリ)」
あっ、なんか悪い予感が……。
「入るぜ!」
「え、し、しかしですね、陛下。これは、僕個人の目的に共感していただいた皆さんが作った同人サークルみたいなもので……」
「だったら尚更だ。セントレアが関係していたら二の足を踏んだが、ルイン個人ってことなら、俺はお前に借りを返さないといけない。RED同盟に入っていた方が、お前に借りを返せる機会も増えるだろうからな」
その皇帝陛下の言葉に、ニヤリと笑みを溢すフレアさん。
『ガハハハハハハ!皇帝取ったりィィィ!!!』
あれ?
今、腐女子先生のがさつな高笑いが聞こえたのは、気のせいだよね?
「ハルフリーダとラウレンティアも一緒に入れ。その方が話しが早いからな」
皇妃様とラウレンティア様が頷く。
「陛下、RED同盟の件はそれでよろしいです。私からも、一つだけよろしいでしょうか」
「なんだ?手短に頼むぞ」
「はい」
そう言って、皇妃様は一同の顔をゆっくりと見回した。
「楽しい団欒中に失礼します。この後の楽しいお話しの後に、腰を折るのも気が引けますので、話しの初めに腰を折っておこうと思います」
「おいおい、既に話しの腰を折ってるじゃねえか」
「そうですね。私としましては、ぶっちバキバキに折っても良いかと思っています」
「なんじゃそりゃ!?そんなにへし折るなら、俺も手伝うぜ」
「よろしくお願いします、陛下」
とても穏やかなニコニコ笑いの皇妃様は、再度テーブルに座る僕たちの顔を見回した後に、ラウレンティア様と視線を合わせて相槌をうつ。
「先ほど私の方へ、武帝城内の不審者報告が有りました」
「オイオイ、そりゃコイツらには関係ないぞ。さっき来たばかりだからな」
皇帝陛下は僕たちを擁護してくれたけど、皇妃様のお話は続いた。
「不審者は若い女性の下着を盗んだとの事です」
「最低ですね!」
「帝国にも変態っているんだ」
「下着泥棒は、死刑ですね!」
「殺せ」
ほぼ女性しかいないテントの中は、怒りと罵声の空気が充満する。
「お、俺はちょっと用事が……」
青い顔で席を立とうとした皇帝陛下を、「どちらへ」と皇妃様が冷たい視線を向けると、ラウレンティア様が陛下の両肩をグッと抑えて席に座らせた。
「それでは、下着泥棒の弾劾裁判を始めます」
「犯人は分かっているのですか?」
「はい。もちろん分かっていますよね。へ~・い~・かぁぁぁ」
「「「………………」」」
皇妃様の
「まずは、悪さの根源である棒っきれを、ぶっちバキバキに叩き折る所から始めましょうか(ニコッ)」
「「ひっ!?」」
皇妃様の何故か穏やかな笑みを浮かべた一言に、僕と皇帝陛下の棒っきれが竦み上がったのは仕方がないよね。
そして、その後の女性陣による激しい取り調べにより、大陸最強の一角であるガルバルト帝国、常勝の皇帝ランスハルト・グラン・ヴィルヘルムは、ここに大敗を喫するのであった。
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