第62話 帝国血族
「あの~、こ、困るんですけど……」
僕は困っていた。
腐爛の巨人を倒して、尖塔の屋根からラウレンティア様が庭に見えたので、そこへレミーナ様と空間転移したら、おじさん達が集まってきた。
何が困っているかと言うと、帝国の物凄く偉そうな人たちが、僕に片膝をついて礼をしているのだ。
「使徒様に礼を取るのは至極当然では有りませんか」
と、司祭風のおじさんは言う。
「大魔法使いジークハルト様の再来!我輩、感服致しました!」
と、魔法使い風のおじさんは言う。
「いやはや、お主の戦いには、年甲斐もなく興奮したぜよ!帝都の英雄ぜよ!」
と、騎士風のおじさんは言う。
「お前ら、帝国の重鎮なら俺を崇め、敬え、奉れ!」
「娘の生下着を戦さに使う変態に、何を敬えと?」
「陛下には天罰がお似合いですな」
「ゲスが!てめえを崇めるぐらいなら、魔神を崇めるわ!」
……大陸中央における最強国家と呼ばれるガスバルト帝国。その重鎮達と皇帝様が、何故か罵りあっている。
「たくゥ、お前らいいから立て。避難した帝都民を戻させろ。それから庭にテントを張れ。城ん中はすっちゃかめっちゃかだろうからな。
そうそう、元老院の爺いどもを捕まえておけ!この始末はアイツラに取って貰わないといけないからな」
皇帝様が重鎮のおじさん達に指示を出すと、おじさん達は恭しく頭を下げ、この場を去っていった。
「改めて礼を言わせて貰う。マジ助かったぜ」
僕に頭を下げる大帝国の皇帝様。
「あ、頭を上げてください!皇帝陛下にそのような事をされると困ります!」
「そうか。ルインと言ったな。お前は誰に空間魔法を教わったんだ?」
「え、え~と……」
何て答えるべきなんだ?たまたまダンジョンで見つけたって答えて大丈夫かな?と、少し悩んでいたら、通信機の警報が鳴った。警報は、
何が起きた!突然の音に皇帝陛下とラウレンティア様が驚いている。
「ルイン様!」
「うん!」
僕は頷き返すと、
『ルイン君!大変です!』
通信機からのエレナ様の怯える叫び声に、僕とレミーナ様が動揺した。
『アビスメティス様が!』
アビスメティス様が!?
『アビスメティス様が、お菓子屋さんに押し入ろうとしています!私たちでは止められません!!!』
魔神にして冥府の王。魔王さえも跪く魔界の神が、お菓子泥棒……。世界はある意味で平和なのではないだろうか?
「皇帝様!お願いがあります!」
僕は皇帝様に切実なお願いをして、アビスメティス様たちを迎えにいった。
◇◇◇
「ガハハハハ!面白えぇ!面白過ぎんぞ、ルイン!」
お城の庭に張られた大きなテントの中に、皇帝陛下の笑い声が響く。
それは少し前の事だった。
「ア、アビスメティス…だと……」
エレナ様やアビスメティス様たちを空間転移で、お城のお庭に連れて来たら、皇帝陛下がアビスメティス様を見て恐れ戦き真っ青な顔になった。
「して、妾の菓子はどこじゃな?」
お庭は幾つかのテントの設営中で、まだお菓子は用意されていないようだ。
「ルインよ、世界は破滅を望んでおるようじゃな」
皇帝陛下の後ろに控えているメイドのお姉さんたちは、子供の冗談だと思ってクスクスと笑っているのだけれど、皇帝陛下の顔は真っ青から、更に血の気が引いていく。
「お前らぁ、早く菓子を持ってこい!マジ帝都が消滅するぞ!」
皇帝陛下は大きな声でがなり立てると、メイドさんたちが慌ててお城の方へと走っていった。
「皇帝陛下は、アビスメティス様をご存知なのですか?」
「ああ、昔に魔王領でな。アん時は無敵と思っていた曾祖父さんが、アビスメティスにぶっちぼこぼこにされていた。ガキだった俺が死を予感したぐらいに、アビスメティスは強かったな」
「えっ!?
ラウレンティア様が物凄く驚いている。こっそりと「帝国の曾祖父様って誰ですか?」カトレア様に聞いてみた。
「大魔法使いのジークハルト様です。伝説の空間魔法使いですよ」
「ああ、あの伝説の人ですか」
ジークハルトの伝説は僕でも知っていた。竜殺しのジークハルト。子供絵物語にもよく出てくる有名な人だ。
そして古代魔法の時空魔法使いは極めて稀だ。稀な理由は僕の時のように、古代魔道書が吸収されてしまうのかもしれない。
そして不思議な事に、口伝では魔法を人には教えられない。これはカトレア様と確認している。多分、あの不思議な魔道書を作らないといけないのではと思うけど、僕の初級編では魔道書の作り方は書かれてはいなかった。
「でも、皆さん生きて帰って来たんですよね」
「まあな。アん時は結局、曾祖父さんも聖女の婆さんも満身創痍で、魔王領から逃げ帰ってきたからな」
魔神にして、熾天使のアビスメティス様相手に、ボロボロになるまで挑んだ伝説の魔法使い。遥かなる高みに挑んだ思いとは、いったい何だろか。
「そんな、曾祖父さんの今際の言葉が、『メティスちゃんの可愛い体に指一本でも触れたかった。無念じゃ』だっただからな。家族一同がっかりしたよ」
「「「…………」」」
ただの変態爺さんでした。
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