第60話 帝国のおっさん パートツー
(帝国のおっさん パートツー)
「この
俺がガキの頃に、
カオス・ザ・リッチの魔窟に住む凶悪なアンデッド軍団は聖女の詩によって、悉くが浄化され、その魂は天へと昇っていった。
あの時と同じ清麗な詩が、天使のような麗らかな声で、不浄な都と化した帝都に静かに響く。見れば金髪の佳麗な少女が、天に向けて両手を広げ、美しい詩を奏でていた。
「……聖女の詩…だと…。あの子は」
今代にはまだ聖女はいない。ただ聖女に最も近いと言われている少女ならいた。
「セントレア王国の第2王女レミーナ様です、お父様」
「……だよな。だが聖女が覚醒したなんて話しは聞いてねえぞ!」
「はい。ファシミナ様が今だけお力添えをしてくれています」
「ファシミナぁ?誰だそりゃ?」
「はあ~。剣ばかり振ってないで、聖典の一冊でも読んでください。十二熾天使のお一人、生を司る熾天使ファシミナ様です!」
「はっ?何言っちゃってるの、ラウラちゃん?そんな伝説の神様が降りてくるわきゃねえだろ?」
「いえ、ファシミナ様は降臨し、我が帝都を守るためのお力を貸してくれています」
確かにレミーナの聖詩は、往年のクラウディーヌ婆さんに匹敵するほどの神聖力を感じる。この辺りの臭気は完全に浄化されている。しかし……。
「確かにあの嬢ちゃんの詩は常軌を逸する力だ。それでも、あの
城の尖塔に張り付いている巨大な腐爛巨人。聖詩によってちっとはダメージを受けてはいるんだろうが、ドロドロに腐っている巨体はいまなお健在だ。
「お父様、あれを倒すのはレミーナ様ではありません…」
ラウラが巨人の方を指差す。そして、その先には、ピョンピョンと空を跳ねながら、巨人の頭を目指している少年がいた。
「おいおい!あれは……」
俺は、ああやって空を駆けるヤツを知っている。まさか……。
少年が巨人の頭付近まで跳ね上がると、手を翳して不可視の魔法を放った。
「マジかよッ!!!」
そして、俺はその不可視の魔法も知っている。
「アイツ、曾祖父さんと同じ、空間魔術師か……」
かの大賢者ディールバルトをもってして、世界最強の魔術師と言わしめた曾祖父さんだ。その伝説の魔法である、空間魔法を使うあの少年はいったい……。
「決めた!ラウラ、アイツを落とせ!」
「えっ?ルイン様は帝国のために戦っているんですよ!それを落とせだなんて、正気ですか!?」
「落とすのはハートだ、ハート!アイツは曾祖父さんと同じ最強魔術師だ!帝国に無くてはならない男だ!」
「バカですか!?アホですか!?この非常時に何を言っているのですか!」
「非常時も、夜の情事も関係ねえ!これは勅命だ、ラウレンティア!」
あの
「お・と・せぇ!
お・と・せぇ!
お・と・せぇ!
お・と・ぐえぇぇぇぇぇ」
ラウラちゃんのネックハンギングツリーが俺の首を締め上げる。お、俺が…落ちる……。
「お父様、アレをご覧ください!」
「なっ!」
見れば、空間魔術師の少年が吹き飛ばした筈の頭が再生を始めた。
「化け物め……」
そして、腐爛の巨人と、セントレア王国の少年との戦いが始まった。
俺は、いや、帝都の民たちが、その少年の戦いを見て、ルイン・ドロンと言う名を、心に刻み込むこととなった。
□□□
第60話がちょっと長くなったので、2つに分けます。今回は少し短いですが、ご容赦(^^;
あと、第59話のタイトルを『帝国のおっさん』に変更しました。
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