第57話 帝国の皇女

 暫くして某子爵と兵士たちは無事に………!?


 敢えて言おう、貴様らはハゲであると!


 折檻部屋から帰ってきた某子爵たちに髪の毛が無かった。聖教会の神祖コーネリア様でさえ、げっそりする折檻部屋に、素人が訪れればハゲの全部もできるというものだ。


「「「我ら一同、アビスメティス様とリフィテル様の仰せのままに!」」」

「うむ。では妾へ館にある全ての甘味を献上するのじゃ」

「「「イエス、ユア・マジェスティ!」」」


 流石はハゲて帰還しただけあって、彼らの忠誠心は本物のようだ。


 うん!絶対、折檻部屋にだけは連れて行かれないようにしよう!


 そうして某子爵を先頭に全員がお菓子を取りに退出した。そして僕のお腹が、ぐぅ〜っと鳴った。夕食時を過ぎているので、お腹が空いたのだ。


「ふむ。食事も用意させるべきであったか」

「ハハハ、そうですね」

「でなければ、妾の菓子をお主らが食べてしまうからな」


 ……そっちですか。


 ガチャリ


 扉が開き、全員が其方を見ると長い銀髪の女の子が入ってきた。歳は僕たちと同じくらいだろうか。帝国の黒い立派な軍服を着ていることから、上級将校の可能性もある。


「あら、子爵の姿が見えませんね」

「奴らには、妾の菓子を取りに行かせた」

「…………貴方は?」

「妾か?妾はアビ…」

「わぁぁぁぁぁぁ、メティスちゃんは僕の妹です!」

「……妹?」

「は、はい!あ、あの、貴女様は?」

「失礼しました。私はラウレンティア・グラン・ヴィルヘルム。帝国の第6皇女です。

 此方に、セントレア王国のレミーナ王女殿下がお越しになったと伺いました」


 ラウレンティア皇女が僕らの顔を見渡す。彼女が慧眼の持ち主なのか、レミーナ様が纏う王家の気品なのか、彼女の視線は、レミーナ様を見てピタリと止まった。


「お初にお目にかかります、ラウレンティア皇女殿下。

 私が、セントレア王国の第2王女レミーナ・ルナーク・セントレアです」


 二人の美少女王女が見つめ合っている様は、ある意味で美しい光景であった。


 えっ!?


 驚いたのは僕だけではない。レミーナ様も、エレナ様も、みんなが驚いた。…いや、アビスメティス様はリフィテル様のクッキーの入っている紙袋をあさっていたけど……。


「ラウレンティア様!?」


 帝国の第6皇女のラウレンティア様が深々と頭を下げたのだ。これを驚かない筈がない。


「申し訳ごさいませんでした」


 大帝国の皇女が謝る光景を見ようとは、此処にいる誰もが考えもしなかった事だ。


「サリーナ様の件に起きましては、心より謝罪申し上げます」

「サ、サリーナ……姉…様…」


 レミーナ様は拳を堅く握りしめた。そして、再び流れ落ちる涙。


「姉は……優しい方でした……。私が幼いころから、とても……とてもよくしてくれて……」


 帝国の皇女は頭を上げる事なく、レミーナ様の言葉を聞いている。


「その優しかった姉が……、何で……、如何して……」


 そして、僕の胸に寄り添い、体を震わせて嗚咽を漏らした。


「皇女殿下、頭を上げていただけますか」

「……………」


 フレアさんのかけた言葉で、ゆっくりと頭をあげる皇女様。彼女の瞳にも、悲しみの涙の色が見える。


「殿下の謝罪は、帝国からの謝罪でしょうか」


 皇女様は首を小さく横に振った。


「殿下の個人的な謝罪と受け止めてよろしいですか」


 フレアさんの無機質な言葉に皇女はこくりと頷いた。


「そうですか。私個人として皇女殿下のご配慮に感謝申し上げます」

「ありがとうございます……。帝国はサリーナ様の件をどの様にするかを決めあぐねています。その為、未だに謝罪も出来ていないのです……」

「それは、帝国がセントレア侵攻も視野に入れていると、受け止めてよろしいでしょうか」


 そっちか!?僕は帝国がどう言い訳を言うのかで揉めているのかと思っていた。

 

「どういう事だよ、フレアさん!サリーナ様はゲス皇子に殺されたんだぞ!こっちから戦争したっていいぐらいだ!」

「落ち着けリビアン!」


 吠えるリビアンさんの肩をノーラさんが押さえて窘める。


「でもノーラさん……」

「ゲスクソ皇子の死が、帝国にとって機を得ることとなってしまったのです」

「ワケわかんないよ、フレアさん!」


 酷い話だな。


「サリーナ様がゲスクソ皇子を殺害し、自らも命をたった」

「な、なにそれ?」


「帝国に都合よく結果だけを張り合わせれば、その様なシナリオは簡単に作れます。


 帝国は忌み嫌われていた第3皇子の死に合わせて、サリーナ様を皇子殺しの大罪人とする。皇子殺しの大罪人であるサリーナ様は自害。帝国はご遺体を返す必要もなくなり、更に第3皇子の復讐の大義名分のもと、我が国へと侵攻を行う。


 今ある情報だけでも、これぐらいのシナリオは私にも作れます」


「な、なに言っているんだ、フレアさん!そ、そんなバカな話が………クソッ!」


 野心家の多い帝国に隙を見せれば、戦乱が起こる。西国においては、西国の石ころが転がって、国境線を越えただけで、宣戦布告と捉えた帝国が侵攻を開始したなんて与太話まである。


「リビアン、落ち着きなさい」

「エレナ様……」

「帝国も主戦派ばかりではないようですよ。ラウレンティア様、私はセントレア王国フォンチェスター公爵家のエレナ・ルナーク・フォンチェスターです。私もラウレンティア様のお心使いに感謝申し上げます」

「わ、私も感謝致しますわ!」


 エレナ様とレミーナ様が皇女様に頭を下げるのを見て、その場の全員が頭を下げた。いや、アビスメティス様とリフィテル様は通常営業だった。


「………」


 それを見た皇女様も再び頭を下げた。


「はあァ!?逃げただぁ!!!」


 突然大きな声をあげたのはリフィテル様だった。


「で、どこで逃げた?……そうか。えっ喰われた!?……なるほど、ファシミナんところか。なら、まっ、いっかぁ」


 独り言を喋るリフィテル様。あれは天界通信?


「『まっ、いっかぁ』、じゃなぁ~い!!!」


 JETォォォみたいな効果音と共にリフィテル様が宙を舞った。


「あんな腐った魂をボクのところに送ってこないでよ!ボクのところの天使エンジェルが3人も食べられちゃったじゃないかぁ!」


 突然現れたショートカットのボクっ美幼少。


 誰?


 いや……、もう皆まで言うまい……。


 また増えたッ!!!




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