第56話 裁きの鉄槌

「レミーナ様、お姉様の事は何処までご存知ですか?」


 言い出しにくそうなフレアさんに変わって僕が聞いてみた。


「お姉様?サリーナ姉様のことですか?」


 その一言だけで分かる。レミーナ様は嫁いだ辺りまでしか知らない感じだ。


「エレナ様は如何ですか?」

「先日のリフィテル様の話しですと、サリーナ様が嫁いだ第3皇子が亡くなられた。それと関係があるのですか?」


「ルイン様、続きは私がお話しします」


 フレアさんが僕の顔を見て頷くと、フレアさんが知る第1王女様と帝国第3皇子の情報を話し始めた。


「レミーナ様、申しにくい事で有りますが、サリーナ様は亡くなられた可能性が高いです」


 急な訃報に、レミーナ様とエレナ様は目を見開き驚かれている。


「可能性というのは、サリーナ様のご遺体が帝国でも確認出来ていないからです。しかし、第3皇子の部屋からは…………」


 フレアさんが歯を食いしばり、ギュッと拳を握り締めた。


「第3皇子の部屋からは、サリーナ様のモノと思われる体の一部が見つかったそうです……。その状況から生存は不可能との報告が有りました」

「一部とはまさか……」

「うっ……」


 帝国の第3皇子の悪癖は有名だ。サリーナ様の状況から、何が起きたかを察することは十分に出来た。


 エレナ様は腹から込み上げるモノを我慢出来たが、レミーナ様は口を押さえたものの、嘔吐してしまった。


「ふむ」


 アビスメティス様が吐瀉物を空間転移で直ぐに取り除いたが、レミーナ様の溢れる涙を止めることは出来なかった。


「更には、第3皇子の謎の死亡を確認できました。此方は帝国がひた隠しにしているようで詳細は不明ですが、その死に方は人の死にあらざるモノだったとの事です」

「「「……………」」」


 無惨な死を第3皇子に強要された第1王女様。惨たらしく死んだ第3皇子……。ならば、第3皇子を殺したのは誰だ?


「第3皇子殺害の犯人が捉えられていない今、レミーナ様が帝国に来たことが、例え他の要件であったとしても、帝国としては招かざる客人です。

 第1王女の悲報はまだ公にはなっていません。帝国としてはどのように対応するか、思案している最中のようです」


「だからレミーナを、なにがし子爵のところに連れて行くわけですね」

「某子爵も、国境守備兵も詳細は知らぬことと思われるます。某子爵の元に、位の高い方が滞留されていると思われます」


「レミーナ様に危険が及ぶのでは?」

「その時はルイン様が私を守って下さいね」

「は、はい!万が一の際は全員連れてテレポートで逃げます」

「クソ兄貴!そこは全員ぶちのめすだろ!」

「リフィテル様?そんなこと次元斬擊したら、全員死んじゃいますよ?」

「そん時は、オレが魂を拾ってやるから安心しな」


 いや、それって現世的には、なんの解決にもなってませんよね?


 某子爵の治める街にはその日の夕方に到着した。今日の宿屋を決める間もなく、僕たちは某子爵の館に案内された。


♢♢♢


 ガスバルト帝国は大陸の中央に広く領土を持つ大国である。軍事大国でもあり、常にどこかの国と戦争をしている。


 もっか勢力を西に広げている関係で、現在において、我がセントレア王国との関係は良くもなく、悪くもなくといった感じみたいだ。


 ただ隙を見せれば、直ぐにでも喉元を掻切るだけの戦力を投入できるだろうと言われている。


 某子爵の呼び出しが例え理不尽であったとしても、内戦勃発の緊張が高まっている、我が国の内情を鑑みれば、ここで事を荒立てるのは得策ではない。レミーナ様もエレナ様も、その点は弁えているので安心できる。

 

 公爵様の豪邸から見れば小さいかもしれないが、僕の実家の100倍は凄い館に到着し、馬車から全員が降りて、館の中に通された。


 僕たちは総勢12人いるので、2グループに分かれて、待合室に通されそうになったけど、フレアさんの絶妙な交渉で、分かれる事なく、大きな会議室の様な部屋へ通された。


 しばし待つ事、しばし待つ事、しば~し待つ事、2時間ぐらいだろうか、お茶の1杯、煎餅の1枚も出ぬまま待たされていた。ヤバいことに、アビスメティス様の紙袋の中のクッキーが底をついていた。


「ふむ。クッキーが底をついてしもうたな。この始末、どう付けるべきかの……。

 どう付けてぇあげるべきかのぉぉぉ」


 室内の温度が氷点下のように寒くなる。僕たちの血の気もサーッと引いていった。


 おい、某子爵!早く来いッ!世界が滅んだらお前のせいだからなァ!


 そして僕たちがやきもきしている時に、多くの兵士を引き連れて、身成の整ったおじさんが入ってきた。


「妾のクッキーが無くなるまで、待たせたのはうぬか?当然、覚悟は出来ておろうな?」


「なんだ、この小娘は!?誰に口を聞いている!我こそは…」

「うるぅッせえ!アビスメティス様を待たせたのは、テメエかって聞いてンだよ!早く答えろ、このハゲ!」


 某子爵はハゲてはいないが、平民の、いや、人族の僕がリフィテル様に突っ込みを入れるような状況じゃない。


「な、なんだ貴様は!我こそは…」

「だあぁぁぁッ!んなコト聞いてねえんだよ!」

「衛兵!そのガキを捕らえよ!我に牙向くガキに、帝国貴族の裁きの鉄槌を見せてくれるわ!」

「テんメエぇ!

 ならば本物の裁きの鉄槌トールハンマーってのを見せてやんよ!

 来いよオラァ!」


 あっ!?消えたよ?


 リフィテル様も、某子爵も、某子爵の沢山の兵士たちも消えたよ?


 『来いよオラァ』って何処に行っちゃったの?


 本物の裁きの鉄槌トールハンマーって何?


 知ってる?


 うん、それって知っちゃいけないやつだよね!?


 自分、絶対に知りたくないッス!!!


□□□□□□□□□□□□


第6章のタイトルを「帝国編」にしました。少し長くなりそうなので(^-^;


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