第55話 冒険に出発

「助かりました、フレアさん」

「いえ、これもメイドの務めですので」


 期末テストを終えた僕たちは、旅支度を終えて、日曜日の午後に出立した。


 今いるのは王国の西にある街コルセア。実はメイドさん達に通信機を持たせて、僕たちよりも早く出立して貰っていた。そして通信機の位置情報から、一気に西の国境の街コルセアまで空間転移をしてきていた。


 今いる場所は、街の大きなレストランで、フレアさんが僕たちに配慮して個室を取っていてくれた。。


「先行している者は、既に帝国領内を抜けています」

「流石に早いね」


 僕たちが最終的に目指す場所は、大陸の最西端に有るウェルリース岬。その岬に僕たちは8月15日の満月の晩にいなければいけない。


 ウェルリース岬には、1年に1度だけ、その夜に限り妖精の橋が現れる。その橋の向こうに、妖精の国ティルナノーグが有る。


 伝説の魔法リザレクションは、リフィテル様は簡単に封印と言っていたが、その魔導書が隠されている場所が、伝説の妖精の国ティルナノーグでは、人族に見つけられる筈もない。


 しかも、ゲーム『ドキプリ冒険者編』がRPG的な要素を含んでいたため、岬にただ行っただけでは橋を渡れず、クエスト失敗となる。


 橋を渡るために必要な物は三つの石版。二つはともかく、一つは厄介な場所に隠されている。

 

 ガスバルト帝国、帝都グランオウジュの皇宮、地下の牢獄にある隠し部屋だ。


 ゲームでは帝国兵を倒しながら進んで、隠し部屋の石版を取ってくるという、強盗殺人犯も真っ青な強襲作戦アサルトミッションだ。


 無理だろッ!!!

 前世のゲーム、頭おかしいぞ!!!


♢♢♢


「エレナ様、国境を越える準備は整っております」


 フレアさんが、国境を越えるための人数分のカードを、エレナ様に渡した。フレアさん達メイドさんは公爵家に仕えているので、こういったやり取りはエレナ様が行っている。


 帝国に密入国する訳にもいかないので、正規ルートでの入国だ。アビスメティス様とリフィテル様の身分証明書は、公爵夫人が作ってくれた。


 第2王女のレミーナ様が帝国に入国するための偽装として、帝国の更に先にあるノストラント王国への使者って事になっている。王妃様直筆の書状もあるし、書状には玉璽・・も、しっかりと押されている。


今回のクエストメンバーは、僕、レミーナ様、エレナ様、カトレア様、リビアンさん、アビスメティス様、リフィテル様。


 更に遠征から帰ってきた上級騎士のノーラさんとメーテルさん、神官のソラさん、魔術師のミラさんも同行している。使者のレミーナ様に王国の護衛がいないのは不自然との公爵夫人からのアドバイスだった。


 僕らの事情を知らないソラさんとミラさん。公爵夫人の半ば強引な勧誘によって彼女たちもRED同盟に入ることになった。


 僕から諸事情を話したら、アーベルト様のことをプンプンと怒り、僕たちの計画に賛同してくれた。


 ソラさんとミラさんは王国軍の人だから、僕たちよりも年上の筈なんだけど、身長が低く可愛いらしい顔付きのためか、僕たちよりも幼く見える。


「では皆さん、行きましょう」


 エレナ様からの言葉で、僕たちは王国を抜けて、ガスバルト帝国を目指した。


♢♢♢


 僕たちはフレアさんが用意してくれた馬車に乗っている。馬車の中には僕、レミーナ様、エレナ様、カトレア様、アビスメティス様、リフィテル様の6人。


 御者台にはリビアンさんとフレアさん。


 ノーラさん、メーテルさん、ソラさんにミラさんは、馬に乗って馬車を囲む様に護衛をしていた。


 帝国領内に入ったのだけど、検問所では矢鱈と手間を取った。結局、国境の街の兵士を伴って、この地方を治めるナンタラ子爵様の元に行くこととなってしまった。


 今、御者台にはリビアンさんが1人で馬車を操っている。フレアさんは馬車の中に入り、状況確認と今後の対応の確認だ。僕たちはナンタラ子爵の人となりも知らないからね。


「皆様には大変ご迷惑をお掛けしています」

「フレアの責任ではないのだから、面を上げなさい」

「私たちは、大分警戒されているように見えましたが?」

「はい、レミーナ様。それが私の失敗でございます」

「フレアが失敗したと言うならば、それはフレアたちの主人でもある私の失敗です。何が起きているのか説明して貰えますか?」

「エレナ様…」


 エレナ様とフレアさんの主従関係は素晴らしいものだった。クッキーを紙袋から取り出し、ハムハムと食べている駄天使様ぁ~、見てましたかぁ~、聞いてましたかぁ~、………。うん、クッキー食べるのに夢中みたいですね……。


 フレアさんが僕とカトレア様に視線を合わせた。なぜ僕たちが帝国に警戒されているのか?そしてフレアさんの失敗とは?


 僕と帝国の関係はゼロだ。つまりは今回の僕たちの計画は関係していない。

 僕はみんなの顔を見回して、レミーナ様のところで止まった。そしてフレアさんを見れば、僕の目を見ながら首を横に振った。


 ああ、そう言う事か………。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る