第54話 優しい仲間
その日の夕食で皆さんとの情報を共有した。
僕からはリフィテル様以外の事では特に変わったことは無かった。
エレナ様からはミストーレの街が領主様の主導で復興が行われる事が報告された。
カトレア様からは侯爵領と男爵領の内戦は、今のところ勃発しそうにはないとの報告で、皆さん胸を撫で下ろした。しかし……。
レミーナ様からの報告は、概ねゲームと同じで、国葬式の後に行われた夕食会、錚々たる貴族達が集まる中で、第1王子と第2王子は国葬式の舌の根も乾かぬうちに、王位継承権についての口論となった。
亡くなられた国王様が、第1王子を王太子に叙さなかったために、第2王子にもワンチャンが有る。第2王子が王位継承戦を主張するのがゲームの流れであり、現実もそうなった。
数日後に、第2王子は第2騎士団を引き連れて、東の要であるガルーン砦に向かう筈だ。
ガルーン砦は東の国、ナスタリア王国の楔で有るが、現状で我がセントレア王国とナスタリア王国の関係は悪くない。宣戦布告も無しにドンパチが始まるとは思えない。
そしてガルーン砦には第4騎士団が駐留している。ゲームでは第1王子の第1騎士団と第3騎士団対、第2王子の第2騎士団と第4騎士団でのシミュレーションゲームで事は終わるのだけど、現実は違った。
これが、侯爵家と男爵家が内戦にならなかった理由だ。中立派の侯爵家もアーベルト様のクーデターが起これば、自領を戦火から守らなければならない。クーデターに群がる貴族達は領土拡大を狙って、戦火を広げるであろう事は素人の僕でも分かる。
「と言う訳で、アーベルト様のクーデターが起こる前に、僕たちは国を出立した方がいいと思うんですよ」
「確かに、国境の封鎖も視野に入れた方がいいですね」
「じゃあルイン、三日後辺りには出るか!?」
僕の意見にエレナ様、リビアンさんは賛成のようだ。
「ルイン君の言っていることは理解しますが、流石に期末テストを受けないのは、不味いと思いますよ」
「「「あっ」」」
期末テストのことをすっかりと忘れていた。カトレア様の言うことはごもっともなので、僕たちは期末テスト開けの日曜日に出立することになった。何故だかリビアンさんが、残念そうな顔をしていたのは、気のせいだろう。
「話は変わりますが、アビスメティス様から魔法を教わりたいのですが」
ソファーに座り、リフィテル様と一緒にお茶菓子のクッキーを、ハムハムと食べているアビスメティス様にお願いしてみた。
「妾に魔法を教わりたいと?」
「はい。アビスメティス様が使っていた『空間換装』を教えてください」
「『空間換装』?あんな魔法が必要かえ?」
「はい!もうパンゼロは懲り懲りですから!」
あの時は無人の湖畔だったからよかったけど、街中に飛び出していたらヤバいし、お巡りさんに出くわせば、即刻逮捕だ。
何故か皆さんもウンウンと頷いていた。
「他にも目的が有るのじゃろ?」
「はい。装備換装が出来る魔導具をカトレア様と検討したいと思います」
「なるほどな。瞬時に武具を取り出せれば、戦闘においても有利に立ち回れるか」
「ルイン君、また二人で共同作業が出来ますね!」(チャンスよカトレア!)
カトレア様も乗り気になってくれた。僕が『空間換装』の魔法を覚えられれば、錬成術の天才であるカトレア様ならば、きっと作ってくれるだろう。
「二人っきりなんてダメですぅ」
「か、カトレアさん、私も何か手伝います」
「カトレア様、力仕事とか有ればあたしにお任せください!」
皆さんも換装魔導具には興味が有るようだ!
「皆さん、ありがとうございます。カトレア様、良かったですね」
「そ、そうですね……」(チッ)
うふふふ、ふふふ、うふふふ
あれ?何で皆さん引き攣った笑みを浮かべているの?
♢♢♢
期末テストも僕たちは無事に終わった。しかし、戦雲垂れ込める王国内とあって、貴族の子息女の何人かは早くも里帰りを始めていたために、空席の目立つ試験となった。
もちろんアーベルト様は不在。取り巻きの貴族の子達もいないし、伯爵令嬢のメリッサ様、転校生のクリスツェンさんまでも不在だった。
「期末テスト、お疲れさまでした、ルイン君」
「お疲れさまでした、カトレア様」
あれから1週間、僕はアビスメティス様の指導で『空間換装』の魔法を覚えられた。
魔法理論的には、体の周りの空間座標を指定して、亜空間収納内の洋服を体全体を使って取り出すイメージだ。
換装魔導具はブレスレットタイプの試作品が完成した。皆さんが手伝う事はなかったけど、テスト勉強をしつつも、僕とカトレア様を見守っていてくれた。
僕とカトレア様が近付いて作業をしていると、勉強が苦手なリビアンさんや、遠征で勉強が遅れがちなエレナ様から、カトレア様が呼ばれて勉強を教えていた。
たまに『うふふふ』という小さな笑い声が聞こえ、ふと見れば皆さん穏やかな笑みを浮かべていた。
皆さん優しいですね!
♢♢♢
【カトレア】
「せっかくルイン君と二人っきりに成れるチャンスでしたのに~」
【他】
「「「抜け駆けはさせませんよ、カトレアさん。うふふふふふふ」」」
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