第53話 封印された魔法

 少しげっそりした顔でレミーナ様は帰ってきた。


「レミーナ様、大丈夫ですか!?」

「はい……。私は大丈夫だったのですが……、神祖コーネリア様が……」


 聖教会の神祖コーネリアは千年以上も昔のお方だ。まさか今代に主天使様の折檻タイムに合うとは思いもよらなかっただろう。


「ところで、リフィテル様は何でここにいるのですか?」


 カトレア様の至極当然な質問。アビスメティス様だけでも、奇跡的な出会いなのに、更に主天使のリフィテル様だ。そう言えば、リフィテル様が来た理由って!?


「オレが来た理由か?そりゃお姉様に会いに……、あれ、違うな?そ、そうだァ!」


 リフィテル様はソファーから急に立ち上がり、ビシッと僕に指を差した。


「クソ兄貴ィ!さっさとエルラン王の魂を返しやがれ!」


 そうだった。色々あって忘れていたけど、リフィテル様は国王様の魂を探しに地上に降りて来たのだ。


「ぼ、僕は持っていないよ!持っているのは……」


 僕が視線を動かすと、リフィテル様も同じ方を見る。


「うむ。妾が預かっておるが、渡さぬぞ」

「そ、そんな、お姉様ぁ。王家の魂が貴重なのは、お姉様もご存知ですよね」

「うむ。しかし渡さん!」


「可愛ゆい妹のために、そこを何とかお願いしますぅ。もう予約済みなんですぅ。ドタキャン出来ないんですぅ」

「無理じゃな。それに何故お主が妾の妹なのじゃ」

「あたくしがクッソ兄貴の妹になったのなら、お姉様はあたくしのお姉様ではありませんか」

「うぐ……。それでも渡せんのじゃ」

「では妹と認めて頂けるのですね!」

「し、仕方あるまい」


 リフィテル様はアビスメティス様の妹認定で国王様の魂は諦めてくれたみたいだ。


「リフィテル様……ありがとうございます」

「だいじょび、だいじょび!面倒を背負い込むのはファシミナだ。魂を送っちまえば、こっちの仕事は終わりだからな」


 僕はリフィテル様に頭を下げた。ここでリフィテル様に国王様の魂を持って行かれては、計画が水泡に帰す。

 後は力天使デュナメイスのファシミナ様に恨まれないことを祈ろう………。


「まあ、依頼内容は高貴な魂だったからな。使いたくは無かったが、ガスバルト帝国のゲス皇子の魂で代用するさ」


「「「帝国のゲス皇子!?」」」


 僕とカトレア様、フォンチェスター先生の声がハモった。先日、先生から帝国の第3皇子に嫁いだ第1王女様が、第3皇子によって殺された話を聞いたばかりだ。


「最近、飛び込んできた魂だ。自殺か殺されでもしたんだろうさ。オレらの予定表には入っていなかったからな。

 ド黒く腐った色の魂だったが、依頼は高貴な血筋の魂だから大丈夫だろう」


 僕はフォンチェスター先生の方を振り向く。


「先生?」

「あたしも初耳だよ。フレア!」

「承りました。至急調査させます」


 僕たちの計画には関係ないけど、第1王女の悲報を聞いたばかりだけに、気になる案件だった。


「ルイン君、暫く離れていたから状況が分からないのですが、熾天使セラフィムのアビスメティス様が妹君として振る舞うことは知っていましたが、主天使キュリオスのリフィテル様が妹君とはどういう事ですか?」

「そうですルイン様!」

「ルイン君!」

「ルイン!」


 鬼気迫る皆さんに、僕はリフィテル様が妹認定されるまでの話をしたんだけど、パンゼロのあたりから更に雲行きが妖しくなってきた……。最後にお風呂に飛び込んだくだりは内緒にしておこうね。安全第一だ!


♢♢♢


「確かに暇つぶしには、面白いお話ですね、お姉様ぁ」

「じゃろォ!魔王領で魔神なんぞやっているより、よっぽど楽しいわ!」

「しっかし、リザレクションが復活すんのは面倒くせえな~」


「リザレクションをご存じなんですか?」


 伝説の魔法であるリザレクション。それを探し出して、国王様の復活を誓ったレミーナ様がリフィテル様に問う。


「ありゃぁ、ファシミナが創った魔法なんだが、オレらの予定表が狂いまくって面倒くさかったから、オレが封印した」


 リザレクションを伝説魔法にした張本人がこんな所にいたよ!?


「まあ、お前らの邪魔はしねえよ。つっても、やっぱ面倒くせえか……」


 小さく可愛いらしい手を顎に当てて考えるリフィテル様。


「本当に使えるようになったら制限を付ける。1年に1回、それも魂が天に昇る前までに限定する」

「た、たった1回ですか……?」

「欲を出してんじゃねえよ。苦労すんのはおめえだぞ」


 諫めるリフィテル様に続いてカトレア様もレミーナ様を説得した。


「そうですよ、レミーナ様。人が生き返ることを、多くの人が知ったらどうなりますか?誰しもが愛する人を生き返らせたいと願うでしょうね。

 でも聖典において、死は何と書かれていますか?」


 カトレア様、聖典も読破はしているのか!流石は図書館の主、本の虫だ!


「……死とは恐怖、死とは闇、死とは悲しみ、死とは救済、死とは平等、死とは慈愛、死とは生の輝き、死とは生きる糧、死とは明日への希望、死とは世界、死とは未来……死ぬことは悲しむべき事であるが、人は死ぬから生きていける……」


「はい。聖教会の教えにおいて、死は平等で有るべきと謳っています。

 もしレミーナ様が誰かを救い、誰かを救わない選択に差し迫った時に、死は平等で無くなります。

 私ならば、国王様が生還された後、リザレクションの魔法は封印します。

 それ程に強大で危険な魔法なのです」


「……ありがとうございます、カトレアさん。リフィテル様、私が愚かでした。リザレクションの魔法もまた、時空魔法と同じくことわりを侵す禁忌の魔法。リフィテル様のお申し出、謹んでお受け致します」

「まあ、そうしとけ。あれは人が持つべく力ではない事を覚えておくんだな」

「はい。リフィテル様」


「てな訳でオレも付いて行くから宜しきな、クソ兄貴」

「えっ!?天界でのお仕事はいいんですか?」

「ああ、天使たちが24時間年中無給で働いているから、だいじょび、だいじょび」


 天界ブラァァック!!!


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