第49話 彷徨える青き魂

「ただいま戻りました」


 僕が別荘を出てから30分も立っていなかった。段取り八分とはまさにこの事。準備には沢山の時間と、沢山の人の協力が必要だった。この下準備があったから、僕は作戦を完了する事ができた。


作戦完了ミッションコンプリートです!」


 別荘のリビングには、出発した時の面々がいて、アビスメティス様もマイペースにクッキーをハムハムと食べている。


「お疲れ様でした、ルイン様。お父様は……」

「はい、僕の異空間収納に入って貰っています。後は魂さえ召天しなければ、大丈夫な筈です」

「はい。お父様には私とお母様がよく言い聞かせたので大丈夫だと思います」


 アビスメティス様のお力添えで、僕たちが聖幽界アストラルワールドに行った際に、レミーナ様と王妃様が、かなりしつこく説明していたけど、国王様は「お、おう!?」みたいな不安な返事だった。


「駄目じゃな」


 クッキーを食べていた手を止める事なく、アビスメティス様が駄目出しをした。


「あの虚けの魂は、レミーナを探して街道をフラフラと彷徨っておるわ」


 人は死ぬと、召天するまでの間に、旅立ちの挨拶をする為に、親しい人達に会いに行くと言われている。


 国王様の知る限りでは、レミーナ様は遠征から帰路にあるってことなんだろうけど、……でも国王様、そちらにはレミーナ様はいませんよ。


「仕方のない大虚けじゃな。こっちに来んか!馬鹿たれが!」


 アビスメティス様がパン、パンと拍手かしわてを二度打ちする。するとアビスメティス様の周りを青白い光る玉がふわふわと漂っている。


「この大虚けは妾が預かっておくから安心せい」


「えっ、お、お父様?」


 その声に反応したのか、青白い光の玉は、ふわふわとレミーナ様へと近付いていった。


「だからフラフラするでないわ!」


 アビスメティス様が手をくいっと引っ張る仕草をして、青白い光の玉はアビスメティス様の元へと、強制的に戻された。


「「「…………可哀想……」」」


「まあ、妾の手元にあれば、天使エンジェルごときであれば、追い返せるじゃろう」

「それは逆に、以前言われたリフィテル様だと不味いという事ですか?」


 死を司る熾天使のリフィテル様は、天使エンジェルたちの総元締めらしい。


「そうじゃな、リフィテルは熾天使の中でも武に長けとるからの。じゃが、リフィテルが出てくる事はまずなかろう。来るとしたら配下の脳筋能天使のフレイアあたりかのう。それとて、ちと厄介じゃがな」


 能天使エクシアは魔族と戦う武神とされていて、多くの戦神が属していると伝えられている。


「まあ、その話はよい」


 そう言ってアビスメティス様は、パンと拍手かしわてを一度打つと、青白い光の玉がすーっと消えた。


「お主らには虚け者の些事につきおうとる暇などなかろう」


「そ、そうでした!公爵様に無事に終わったことを報告しないと」

「あたしが報告するから通信機を貸しな」


 フォンチェスター先生の好意に甘えて、公爵様用の通信機を手渡した。


「あ、あと王妃様は大丈夫でしょうか……」


 いま現在、王妃様からの連絡は来ていない。国王様のご遺体が消えた第一発見者が王妃様になる。王妃様が疑われる事になるとは思えないけど。


「あ~、それなら大丈夫だ。あの腹黒、顔で泣いて、心で笑えるから。今頃は状況を楽しんでいると思うぞ」


 フォンチェスター先生から酷い扱いを受ける王妃様。しかしそれが本当なら、2人の過去を聞くのは絶対に止めようと、心に誓います!


「お母様との通信機を私に貸して下さい。ルイン様のお手を煩わせてはいけませんので」


 母親を腹黒扱いされて、少し引き攣り顔のレミーナ様に、王妃様用の通信機を手渡した。


「よろしくお願いします」


「それからルイン。帰ってきてそうそうで悪いんだが、レミーナとリビアンを、街道の宿場町に連れていきな。王都から国王崩御を伝える早馬が出ている筈だ。きっちりと飛脚と会っておけば、レミーナたちのアリバイは成立だからね」


「分かりました。宜しいですか、レミーナ様」

「そうですね。では旅装束に着替えてきます。行きましょうリビアン」

「はい、姫様」


 レミーナ様とリビアンさんは、あたかも旅をしてきた感をだすための準備で二階の部屋へと上がっていった。


「さて、僕たちも明日は学院に行きましょう」

「ルイン君は疲れてないのですか?」


 僕の体調をカトレア様が心配してくれるが、公爵様や王妃様の手配のおかげで、怪我もなく無事に終われている。明日、学院に行くことで僕たちが疑われるリスクが減る。


「大丈夫ですよ。ただカトレア様は明日の朝に学院寮に送っていきますね」

「はい。ルイン君も無理しないでね」


 しばらくしてレミーナ様とリビアンさんが、二階から降りてきた。リビアンさんの指示で、僕は2人を飛脚と会えるであろう宿場町に送り届けた。


 帰ってくるとリビングにはカトレア様とフォンチェスター先生の姿はなく、アビスメティス様だけが、ソファで横になってスヤスヤと寝ていた。


 以前にアビスメティス様は『妾は1年や2年は別に寝ずとも平気じゃからな』と言ってけど、毎晩きっちり寝ているよね?しかも起きるの僕より遅いよね?


 ソファで眠るアビスメティス様を抱き上げて、二階の寝室へと運ぶ。


「……ムニャムニャ……お兄ちゃ~ん……妾をぉ食べるのじゃぁ……ムニャムニャ」


 アウチッ!?


 アビスメティス様?その寝言はなんですか?

 何を食べるのですか?

 もっかい言って!!

 お兄ちゃんめっちゃ気になるよ!!!



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