第47話 国王誘拐

「公爵様、いま王妃様から連絡が来ました」


 試作型の通信機は公爵様にも渡してある。ワンバイワンだから、レミーナ様用、エレナ様用、カトレア様用、公爵様用、王妃様用の計5台を僕が持っている。試作型の通信機もカトレア様が改良を加え、位置座標も特定できるようになった。あの事件の時の改善でもある。つまり、僕が場所を知らなくても、テレポートが容易になったって事だ。


『では今から行くのかね』

「はい。計画は作戦フェイズに移行します。例の物の場所に変更はありますか?」

『いや、報告は受けていないから、司法局にある筈だ』

「それでしたら、座標は特定して有りますので、一発で跳べますね」

『ルイン、兄さんを頼んだよ』

「はい、公爵様!」


 別荘のリビングにはレミーナ様、カトレア様、リビアンさん、アビスメティス様(クッキー咀嚼中)、公爵夫人に、フレアさん達メイドさんがいる。


「では皆さん、ぱぱっと行って来ますね」


 黒ずくめの衣装に着替えた僕は、準備が整ったことを皆さんに伝えた。


「ルイン様、お気をつけて」

「はい。向こうには王妃様もいますし、大丈夫ですよ」


 今回の作戦ミッションは、やる事は至って簡単。難しいのはタイミングだけだ。しかも司法局の方には警備兵がいることを、公爵様から聞いている。バレずにってのは不可能だろう。


「先ずは国王様を誘拐して来ますね」

「「「いってらっしゃいませ、ルイン様」」」


 メイドさん達の声を合図に僕は空間転移魔法で宮殿の王妃様のお部屋へと跳んだ。


♢♢♢


「失礼します、王妃様」

「あら、意外と早かったですね」

「支度する時間は十分に有りましたので」

「ふふふ、その黒装束も素敵ですよ」


 僕の黒装束は、前世の記憶を元に、忍者風に仕立てて貰った。頭巾の額部に少し金属の装飾をしているが、これくらいはご愛敬だろう。


「ありがとうございます。それで国王様の件ですが、本当に宜しいですか?宮殿の皆さんに、かなりのご迷惑をお掛けすることになりますが?」

「ルイン!」

「は、はい!」


「貴方が迷って如何するのですか!」

「はい!」

「これは亡き国王もご存知のこと…、いえ、ルイン!これは国王の遺言にして勅命です!必ず全てを成し遂げなさい!」

「わ、分かりました!!!」


 僕は片膝をつき臣下の礼をとる。


「今なら誰もいない筈です」


 僕も索敵魔法を使い、国王様のご遺体が安置されている、宮殿内の礼拝堂を確認するが、確かに誰もいなかった。


「私が陛下にご面会するために、人払いをして有ります。私がこの部屋を出てから、礼拝堂に着くまでに終わらせるのですよ」

「承知致しました」


 臣下の礼のまま僕は頷く。この後は王妃様が従者と共に礼拝堂に向かう。その僅かな時間が作戦時間となる。


 王妃様が従者を呼ぶ鈴を鳴らした。作戦開始ミッションスタートだ!


♢♢♢

 

 宮殿内にある豪華な礼拝堂。柱や会衆席ベンチの背に幾つかの灯明があるだけで、国王様の眠りを妨げないように配慮されている。


 亡くなった魂は幾日かの後に、二翼位の天使様がお迎えにきて、天へと導いてくれる。但し、この世に未練や恨み、怒りなどがあると天使様がその魂に近付くことが出来ない。


 その為、7日7晩の鎮魂の儀が行われる。王侯貴族なら教会で、平民であれば毎日毎晩のお墓参りで魂を弔う。


 しかし、僕たちの作戦は国王様の復活だ。魂を天に持っていかれては困る。それに、今はレミーナ様がリザレクションの魔法を使うことが出来ない。


 伝説級の魔法であるリザレクションの魔法は、ゲームのドキプリ『王子様冒険者編』で、ゲーム後半にレミーナ様が習得するのだが、此れには幾つかの条件があり、ゲームの舞台が学院って事もあり、長期クエストイベントが夏休みに組まれている。つまり、夏休みにならないと覚えられないのだ。


 リザレクションの復活魔法は100%の復活率ではない。ゲーム解説的には、失敗する事に肉体は腐り、魂は薄れていくとなっていた。逆を言えば、腐った肉体と薄れた魂では復活できないって事になる。


 だから・・・、僕たちは国王様のご遺体を誘拐するという大罪を行うことにした。死体遺棄罪で国王様ともなれば一族郎党死罪もあり得る。それでも皆はその覚悟で僕の計画に乗ってくれている。


 僕は誰もいない礼拝堂の身廊(中央の通路)を、ゆっくりと歩き、祭壇前に亡くなられた王族用のベッドの上で、静かに眠る国王様と対面をした。


「国王様、レミーナ様を信じて、しっかり着いてきて下さいね」


 僕はご遺体を両手で抱き上げる。


「異空間収納」


 僕の両手から国王様のご遺体が消える。マジックバッグにも使われている亜空間は時間の流れがない。そして『魂有るものは入れない』の制限に遺体は含まれない。国王様のご遺体はフレッシュなまま保管できる。


 これで、後は司法局に跳んで、国璽グレートシールを盗めば作戦完了ミッションコンプリートだ。


 僕の空間把握魔法で、王妃様たちが近付いてきたのが分かった。


「テレポート!」


 僕は次の大罪である、国璽グレートシールの奪取のため、司法局の建物へと空間転移をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る