第42話 逝っちゃたのか大霊界?

「美しき天使様……余は死んだのですか?」


 いや、そんな筈はない。国王様が死んでいるなら、僕たちも死んでしまった事になる。


「アビスメティス様、ここは何処なんですか?」


 美しい熾天使姿のアビスメティス様。堕天使となっても穢れのない真っ白な十二枚の翼。ただ、純白であっただろう天使のドレスは漆黒に染まっていた。


「ここは地と天の狭間の世界。聖幽界アストラルワールドじゃな。あまり長居すれば、気持ちよく天に上がって逝ってしまうぞ。そこの虚けにさっさと話しを伝えよルイン」


 なる程、病に伏せている国王様に配慮して精神世界に僕たちをいざなってくれたんですね。


「という訳で国王様、時間があまり無いので、要件だけお伝え致します」

「お主は誰だ?」

「ルイン様です、お父様!ルイン様は、それはそれは凄いお方で、どれだけ凄いかと言いますと…」


「レ、レミーナ様、時間があまり無いので……」

「そ、そうでした。お父様、私とルイン様がお父様を必ず助けます!」

「余の病を治すと?それが無理なことは余が一番分かっておる」


「お父様……。すみません……。今は私の力では、お父様をお救いすることができません。でも、私を信じて待っていてください!ルイン様と私と……私のお友達が必ず成し遂げます!!!」


「ハハハ、知らぬ間にレミーナもそんな顔が出来る様になったのだね。

 よかろう!余は娘の言葉を信じた!これで宜しいのでしょうか、熾天使様……いえ、魔神アビスメティス様」


「うむ。初めからその様に娘の言葉を信じよ、この虚け者が。妾の手を煩わせたのだ。対価を寄越すのじゃぞ!」

「た、対価とは!?」


 流石の国王様も、十二翼位のアビスメティス様に捧げる対価に、何を言われるのかビビっているけど……。


「クッキーじゃ!いやラスクでも何でもよい!甘味をしこたま用意せい!」


 ですよね~。


「……ハハハ。スターシア、宜しく頼む」

「承りましたわ」


「さて、そろそろ時間じゃが、あと数分だけ時をくれてやるのじゃ。家族で話すこともあろうからの」


 優しいな、アビスメティス様は。魔族の神として多くの人達に忌み嫌われ、邪神とまで語られているけど、僕は……いや、僕たちはアビスメティス様を最高の天使様として敬うことを誓います。


♢♢♢


 僅かな時の家族の団欒も終わり、僕たちは薄暗い国王様の寝室へと戻ってきた。見ればアビスメティス様はいつもの黒髪美幼女に戻っていた。


 先ほどまでの美女神熾天使様も素敵だったけど、僕はやはり幼女のアビスメティス様が好きだ。いやいや、待て待て前世の記憶!僕に何を言わせるんだ!違うよ!そういう意味じゃないからね!


「どうしました、ルイン様?」

「いえ!大丈夫です!僕はノーマルです!」

「???」


「スターシア、妾への謝礼の件は忘れるでないぞ」

「心得ております、アビスメティス様。家族を代表してお礼申し上げます」


 王妃様が丁寧に頭を下げる。そして蝋燭の明かりを含んだ光の一雫が床に落ちた。レミーナ様もアビスメティス様の心遣いに感謝して頭を下げた。


「礼などよいから菓子をくれなのじゃ」


 ……台無しだよアビスメティス様。


 王妃様は、アビスメティス様のお菓子を用意するために、一端退室をした。レミーナ様は、今は穏やかな顔で寝ている国王様に付き添っている。


 僕の空間把握魔法に、この部屋に近付く人影は見えない。親子水入らずの時を僕は静かに見守った。


♢♢♢


 翌日の朝に、間借りしている別荘にフォンチェスター先生とカトレア様がやってきた。


 昨夜は遅い時間の帰宅となった。


 僕はいつも通りに起きて、フレアさん達が用意してくれた朝食を、アビスメティス様、リリアンさんと一緒に取っているけど、レミーナ様は起きてこない。間もなく訪れる父親の死を前にして寝付けなかったのだろうか。


「フォンチェスター先生、カトレア様、おはようございます」

「おはようございます、ルイン君。レミーナ様は?」

「おはようございます、カトレア様。レミーナ様はまだお部屋にいるようです」

「おはようございます、リリアンさん。レミーナ様は規則正しいお方だと伺っていましたが?」

「昨夜、計画のことで王宮に行って来たんです」


「ほう。で、国王様はどうだった?」


 流石のフォンチェスター先生も、国王様のことが心配なようだ。


「色々ありましたけど、お元気な姿も見れましたよ」

「はっ?元気な筈はないだろ?明日をも知れない命なんだから。

 おっはぁ、メティスちゃん。今日も可愛いね」


 そう言えば、フォンチェスター先生にはアビスメティス様のことを言ってなかったな。僕の厨二な妹ってことになっている。


「妾が聖幽界アストラルワールドに導いたのじゃ。

の世界では病など無縁じゃ」

「魔神様のお力を使ったのですか?」

「うむ。あの程度であれば、蝶の羽ばたきにも及ばぬ。嵐などは起きまい」


「魔神?魔神と言えば……アビスメティスか!

 おおお!

 メティスちゃんに、アビスメティスをかけるとは、カトレアも冗談が言えるようになったんだな。先生は嬉しいぞ!」


 うん!フォンチェスター先生は全く疑っていないんだね。まあ、暫く黙っていても体勢に影響はないか。


「カトレア様、今日は色々と相談したいことがあるのですが」

「はい!勿論喜んでお受けします!」


 久しぶりに見るカトレア様の笑顔。やっぱりカトレア様は美人だよな~。


 

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