第41話 また増えた……

「レミーナ様、王妃様からの合図がありました」

「はい、ルイン様」


 薄暗いレミーナ様の部屋で、僕たちは王妃様の合図を待っていた。王妃様は今、国王陛下の部屋に行かれている。そして僕たちがテレポートしても大丈夫なように人払いをお願いしていた。


 しかし、あの時はどうなる事かと思ったよ。


♢♢♢


「お母様!お母様もRED同盟に入って下さい!」

「な、なんですか急に?RED同盟……ですか?」

「はい!この国を守る為にルイン様が立ち上げた崇高なる同盟ですわ」


 レミーナ様?それ、僕は立ち上げていませんよね?って、まさか!みんなも僕が作ったと思っているのか!


 『二ヒヒヒ』と笑う腐女子先生のにんまり顔が頭にちらついた。あのクソ教師イィッ!


「レミーナは入っているのですね。他には何方が?」


 レミーナ様はRED同盟メンバーをノーラさんやメーテルさん、アビスメティス様含むて全員の名を告げた。


「そう……公爵家が。

 レミーナ、気になることが一つ有ります」


 えっ!?一つしか無いんですか!?怪しさ満載だと思うんですけど!


「エレナさんは、ルイン君のことをどう思っているのかしら」


 そこォ!?気になることって、そこですか!?もっと他にありませんか!?


「エ、エレナさんも……ルイン様のことをお慕い申しています……」

「そうですか。それならば私も入らないといけませんね」


「お、王妃様?よろしいのですか?」


 思わず確認してしまう僕。そんな驚く僕の姿を見て王妃様は仰った。


「ルイン君、パトリシアの人格と趣味と趣向は置いといて、人を見る目は確かよ。

 アルベルトも一枚噛んでいて、そして貴方達が今ここにいること…その全てがRED同盟の正当性を語っています。

 それに、RED同盟にはパトリシアの影が見えます。あの子の好きにやらせてなるものですか!フフフフ」


 パトリシア?腐女子先生のことか!なんか王妃様が怖いんですけど!


 後でレミーナ様にアルベルトさんのことを聞いたら、公爵様の名前だった。


 僕たちは王妃様に少しだけ事情を話した。勿論、レミーナ様が他の人に見られること無く、国王様に会うための算段だ。王妃様は快く請け負ってくれた。


♢♢♢


「レミーナ様、王妃様からの合図がありました。国王様のお部屋に跳びますよ」

「はい、ルイン様」


 僕の手を握るレミーナ様の手が震えている。今際の時を迎えている父親に会うのが怖くない筈がない。


「レミーナ様……大丈夫ですか?」

「は……はい。よろしくお願いしますルイン様」

「アビスメティス様も」

「うむ」


 先ほどまでクッキーをパクパクと食べていたアビスメティス様も、クッキーの入っている紙袋を、僕があげたポシェットタイプのマジックバッグにしまっていた。


♢♢♢


 さっきまでいた明かりのないレミーナ様の部屋に比べたら明るいけれど、僅かな灯火しかないこの部屋も十分暗い。


 国王様がお休みになる部屋だけあって、豪華な造りの部屋だけど、死期の陰鬱な空気に満たされている。


 奥のベッドに横たわる国王様。その傍らに王妃様がいて、後は僕たち以外には誰もいない。


「お父様!」


 空間転移し終わった直後に、レミーナ様が国王様の元へと駆け寄る。もう僕がレミーナ様にしてあげられる事は何もない。


 ここから見える国王様のお顔には暗い陰りが見える。公爵様に似た顔立ちでも、公爵様の様な精悍さは無く、王国のおさとしての威光も輝くことはない。


「あなた、レミーナが来てくれましたわよ」

「…………」

「お父様!レミーナです!お父様!」

「……レ……ィ……ァ……」


 国王様の乾いた唇が僅かに動いた。


「お父様!レミーナが!レミーナが必ずお助けします!私を信じて待っていてください!」

「…ぁ…りぃ…が…ぉ…ぅ…」

「お父様あ!」


「駄目じゃな」

「「「!?」」」


 そう言ったのは、今まで沈黙をしていたアビスメティス様だった。


「そこのうつけは、レミーナの言葉を励ましの言葉、まあ娘の愛情の言葉としてしか受け取っておらん」


 そこのうつけ者って国王様のことだよね!?僕が言っちゃたら確実に死刑だよ!


「其奴が死んで、リフィテルにでも見つかれば、あっという間に成仏じゃ」


 リフィテル?前にアビスメティス様が死を司る熾天使のリフィテルって言ってたな。そんな簡単に熾天使様に会うとは思えないんだけど。因みに、死んだ魂を天に運ぶ天使は、二翼位のエンジェルと言われている。


「魂を天に持っていかれては、其方たちの計画は失敗じゃ」

「そ、そんな……」


 アビスメティス様の言葉にレミーナ様が青ざめた。


「妾もREDのメンバーゆえ、少しぐらいは力を貸してやるかの。

 ηζ∂ℵ∮∂συЖψёж!!!」


 古代語とも異なる呪文を唱えたアビスメティス様。もしかして神語?


 目の前が真っ白になる。いや、違う!世界が真っ白になった。そして、その真っ白な世界には、僕とレミーナ様、王妃様に……!?精悍な姿の国王様!?


 えっ!?


 そして、そこには黒く長い髪の美女……いや、女神様?いや、頭に1対の翼、背中に3対の翼、腕と脚にも1対の翼は……。


「アビスメティス様……!?」

「無論じゃ。此方の世界にくると熾天使の姿に戻ってしまうのじゃ。困ったものじゃ」

 

 十二翼位の熾天使、アビスメティス様の美女神びじょかみバージョンだった。そして、何が困ったものなのかは意味不明だけれど、言えることは一つ。


「「「美しい……」」」

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