第37話 死体の街

「ただいま戻りました」


 僕はアビスメティス様を連れてミストーレの街に戻ってきた。座標指定の関係から、破壊された教会へ跳び、索敵魔法で皆さんの場所を確認してから、再度テレポートしての合流となった。


「お帰りないませルイン様」

「ルイン君お帰りなさい」

「ルインお帰り~」

「「ルイン殿お帰りなさい」」


 テレポートで跳んできた場所は、東側の高級感ある住宅街だった。しかし、この辺りもアンデッド達により建屋の多くが破壊されていた。


 合流した場所にはレミーナ様、エレナ様、リビアンさん、ノーラさんにメーテルさん、魔術師と神官の女の子が2人いた。


 魔術師と神官の女の子が頭をペコリと下げたので、僕もペコリと頭を下げた。


「エレナ様、此方はどうですか?」

「アンデッドは一匹も見当たりません。……しかし、襲撃で亡くなった人達の遺体が多く、また破壊された建物も多数有りました」


 アンデッドに襲われた街には多くの死体が残されている。他の魔物と違い食べられる事が無いからだ。食人鬼のグールでさえ、襲われた人が死ぬまでしか食さない悪食ぶりだ。


「遺体を先ずは集めています。この地方の領主へ伝令を出したので、明日には領主の軍とも合流できると思います。ルイン君はレミーナを連れて王都へ戻って下さい。後は軍の仕事ですから」


 街から逃げ切れなかった人達は全員が殺されているという酷い惨状だ。遺体の数も10や20じゃきかない。


 建物の復旧にしても、瓦礫をかたすだけで数日かかる。これからの事を考えると、今は僕たちのマジックバッグを公にする訳にはいかない。


 それに僕とレミーナ様は王都でやらなければならない事がある。


「分かりました。折を見て王都に戻ります」


「ル、ルイン様……そちらの……」

「妾の事かえ?ならば気にするでない。暫くはお兄ちゃんと共に過ごすことした。ネッ、お兄ちゃん♡」


 紙袋に入っているパンの耳のラスクをポリポリと食べながら、アビスメティス様はサラッと妹宣言を発表した。


「「「お兄ちゃん!?」」」


「は、はい。僕の妹のメティスちゃんって事でお願いします。って言うかアビスメティス様、」

「メティスじゃ」

「うぐっ、メ、メティスちゃん、そんなにポリポリとラスク食べていると、無くなっちゃいますよ」

「無くなったならば、また買えばよかろう」


「ダメです!今日はもう買いに行きませんよ!」

「なっ!ルインはそんなに妾を虐めて楽しいのかえ!」

「虐めてもいませんし、楽しくもありません。それに、そんなに甘いものばかり食べていたら太りますよ!」


「フフフ、そんな女殺しのセリフで妾が怯むとでも思うたか!そこらの

女子おなごと思うでないわ!我が深淵の胃袋を持ってすれば、多少の甘味など塵に同じ!ラスクを千本でも万本でも持ってくるがよい!全て平らげてくれようぞ!」


「い、胃袋が深淵!?そんなのに付き合っていたらお金が持ちません!」


 まさかの無限胃袋でした!魔王領でのエンゲル係数はどうなってたの?アビスメティス様には早く魔王領に帰って頂いた方がいいかも……。


「暫くは世話になるというたろう。ヨロシクね、お・兄・ちゃん♡」


 僕の血の気が頭からサーっと下がっていった。冒険者にでもなって稼がないと、食費もたないよ~。


「……と言う訳で、皆さん暫くの間よろしくお願いします」

「よろしくなのじゃ!甘味はいつでも持ってくるがよい」

「ま、また夜にでもお話します。カトレア様のことも伝えないといけないことが有りますので」


 一先ず話を打ち切り、街中の被害状況の確認作業を進める。街中はどこも似たような状況だった。街の東部から北部へと歩き、日が傾く前に西門から出て野営地へと戻った。


♢♢♢


「内戦ですか!?」


 レミーナ様が僕の報告を聞いて驚かれた。いや、レミーナ様に限らず、本陣のテントにいるエレナ様、リビアンさん、ノーラさん、メーテルさんも驚かれたいる。アビスメティス様は相変わらずパクパクとクッキーを食べていた。あれだけ買ったのに、今日1日で無くなりそうだよ(涙)。


「カトレア様から侯爵様には踏み止まるよう、説得をして貰うことになっています」

「そうですね。この時期に国が乱れては、ルイン様の計画にも支障を来しかねません」

「はい。第2王子が起こすクーデターには、最悪王都の半数近くの軍隊が加わります。今、侯爵様の兵団が他に動かれては、公爵様の負担が大きくなりかねません」


 ゲームでは王都の第2騎士団と第3騎士団が第2王子、第1騎士団と第4騎士団が第1王子につき、シミュレーションゲームが行われた。


 シミュレーションゲームはともかくとして、第1、第2王子共に兵力の最大規模は約2千。それに第3勢力として参戦する可能性がある。


 フォンチェスター公爵の兵団だけで心許ない際には、カトレア様のお父様で有り、王国内屈指の大貴族であるリッテンバーグ侯爵様の力を借りたいところなんだよね。


「それに、もし侯爵様と男爵様の間で戦争が始まれば、沢山の人が命を落とします。それは一月前に僕が死ななかった事に起因した不幸な未来です。これは僕の責任です。だから、その時は僕が過去に戻って僕を殺…」

「ルイン様!!!」

「ルイン君!!!」

「ルイン!!!」


 えっ!?あれ?なんか皆さんが、もの凄い剣幕で怒っているよ?

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