第35話 熾天使様でも知らない神秘?
学院近くの公園。日中で昼前という事もあり、人は少ない。勿論いちゃいちゃカップルも少ない。っているのかよ!朝から何やってるんですか!
学院は今は3時限目が行われている時間だ。カトレア様にはお昼休みでよいと伝えたのだけど、カトレア様から直ぐにと言われて、今の時間となった。
公園のベンチに座って待っていた僕と、紙袋からクッキーを出してはパクパクと食べているアビスメティス様。どんだけクッキーを食べているんですか?
ベンチに座るアビスメティス様の周りには小鳥たちが集まり、アビスメティス様もクッキーを砕いて、手の平にのせて小鳥たちに分け与えている。
小鳥たちはアビスメティス様を恐れていない。天使様の羽根は、邪を砕く白き鷹の羽根と言われている。小鳥たちは猛禽類の熾天使様を恐れないのだろうか、などとくだらない考えをしながらアビスメティス様をふと見れば、僕の心がドキッとした。
優しい日の光に照らされたその姿はまさに黒髪の美幼女天使!余りの心和む姿にホワ~んとなってしまう。
「ルイン君、お待たせしました」
小鳥たちが一斉に飛び立ち、アビスメティス様がギロっと睨んだ先には、授業を抜け出してきたカトレア様がいた。魔神様の眼光で睨んだらカトレア様が死んでしまうので止めてください!
「カトレア様、授業は宜しかったのですか?」
「あ、はい。えっと、その子は?」
魔神様の眼光にたじろぐカトレア様。
「妾はメティス。ルインの妹じゃ」
「ルイン君の妹さん?」
「ね!お兄ちゃん♡」
グッ!いきなり豹変するぶりっ娘っぷり。魔王の仕込みか!認めてやろう魔王!よくやってくれた!
「か、カトレア様、その後は大丈夫ですか?」
「はい、私は大丈夫ですが……」
「ですが?」
「はい。父が激昂しておりまして、男爵領と戦争になるかもしれません……」
「戦争!」
「はい。父は常に正しく生きる道を信念としています。男爵領とは過去にもあった諍いが解決せぬまま今に至っています。今回の件で領民たちも憤慨しているとのことです」
「今のタイミングで戦争は不味いです!これから王都は乱れます。地方で内戦が起きれば戦火が広がる可能性がでます!」
数日後に国王陛下が崩御する。更には王位継承権で第1王子と第2王子の間で熾烈な闘いが始まる。
そんな折に地方で内戦が始まれば、他の地方でも火種を抱えているケースは多い。
また、第1王子には帝国とのバイパスがある。第1王子が帝国軍を王国内に引き入れる可能性もあるのだ。
『ドキプリ』では第1王子軍vs第2王子軍のちょっとしたプレーヤースキルによるシミュレーションゲームが発生して、勝てば国王、負ければ国外逃亡のエンディングが待っているだけだ。
しかし今はゲームではない。戦火が広がった場合、史実を変えてしまった僕の責任もある。地方での内戦は更なる混乱を招き入れることになるので、何としても回避したい。
「分かっていますルイン君。私から父に戦争を起こさぬよう説得してみます」
「僕も公爵様にお願いしてみます」
僕とカトレア様は二人して頷いた。
「面白い話をしておるの。地方での戦争とルインの関係を思えば、ルインが未来を変えたか?」
「ええ、まあ」
「過去改竄の結果かえ?」
「いえ、今を変えた結果です」
「今を変えるという事は、未来を変えると同義じゃな。時魔法で未来は見えまい。其れとも、今いるルインが未来から来たルインかえ?」
「いえ、僕のタイムリープは数分前の過去にしか跳べません。未来は………」
未来は前世の記憶で知っていたなんて、堕天したとはいえ神の使いである熾天使のアビスメティス様に言っていい事なのだろうか?
「僕は神の啓示を受けました。それは今年起きるこの国に纏わることです」
「ふむ……」
相手は魔族の魔神にして、十二熾天使の元ナンバー2のアビスメティス様だ。僕の嘘は見破られているだろう。
「目を見せてみよ」
言うや否やアビスメティス様は小さな親指と人差し指で、僕の目をがっつりと開いた。
「ふむ、神秘眼か……、マクドゥルフ辺りの流れか……。言われて見ればマークスの面影もあるか……」
「「マークス!?」」
マークスと言えば、以前カトレア様が話をしてくれたマークス黙示録を思いだす。
「マークスも神の啓示を受けていた。しかし未来を啓示する神などはおらん。
死を司る熾天使リフィテルが時の神と言われる時もあるが、彼奴は生命の生き死ににのみ未来を知っておるだけじゃ。
では誰がマークスに啓示を与えたのか?
それは誰でもない。マークス自身が持っておったのじゃ。ここまで妾が語ったのじゃ。ルインよ、続きはお主が語る番じゃ」
「その前に一つ、マクドゥルフとは何ですか?」
「マクドゥルフか。マクドゥルフの血族には稀に我らが知らぬ知識を持つ者がいた。
それは新たなる物であったり、新たなる武器や魔法であったり、そして未来の知識であった。
そして、その者達は必ず瞳の奥に神秘眼を持っておった」
「神秘眼?」
熾天使様達を持って神秘と言わせる神秘眼って何?
「我らがそう呼んでおるだけじゃ。マクドゥルフの血族において、我らが知らぬ知識を持つ者達は、必ず瞳の奥に謎の眼相があるのじゃ。それが神秘眼じゃな。
妾が察するに、マクドゥルフの始祖は別の世界から来た者と思うておる。我らが神カナンテラスにしても、この世界の神でしかないのじゃ。更なる高次の神ならば次元の壁を越えることも出来よう。
そして別世界の魂を持つマクドゥルフの血族は、稀に別世界の魂が融合するのではないかと妾は考えておる。
どうじゃルインよ」
「お見逸れしましたアビスメティス様!僕がそのマクドゥルフの血族かは知りませんが、僕は前世の記憶……、異世界の記憶を少しだけ持っています」
「ル、ルイン君?その子はルイン君の妹なんだよね?アビスメティス?前世の記憶?マクドゥルフの血族にマークスって?」
さて、カトレア様にはなんて説明すればいいんだろうね?
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