第32話 空腹で世界が破滅する?

 朝チュンとはこういう事を言うのかな?


 野営地に張られた本陣の大きなテントの中に、僕用に一部屋が支給されている。亜空間収納が使えるのでベッド持参だ。


 そしてベッドの中には黒髪の美しい女性(幼女)が、僕の頭に齧りつきながらフガフガと寝ていた。


 いやはや僕はもう少しで、黒髪美幼女姿の魔神様に食べられてしまう所だったのだろうか?


 テントの外では小鳥達がチュンチュン鳴いている。だから朝チュン?


 どうしてこうなった!?


って、言ってみたかっただけです。


 昨夜、アンデッドがいなくなった街から僕とアビスメティス様は、転移魔法でテントの個室に跳んできた。


 アビスメティス様を床に寝かす訳にもいかないので、僕が床に寝たはずなんだけど?


「おはようございます、ルイン様!」


 個室を区切る垂れ幕を除けて現れたのはレミーナ様だった。


「「…………………」」

「妾は腹が減ったぞ」


「イヤアアアアアアアッ!」

「ひえええええええええ」


 どうしてこうなった?


♢♢♢


「ルイン様!」

「ルイン君!」

「ルイン!」

「「ルイン殿!」」

「「「その子はいったい誰ですかッ!」」」


 僕がレミーナ様に言い訳する間もなく、僕はレミーナ様に引きずられ、テント中心の広間に連れてこられた。そこにはエレナ様、リビアンさん、ノーラさんにメーテルさんがいたんだけど、何やら勘違い事故が勃発してしまったようだよ。


「此方は冥府の王にして、魔族の神である魔神アビスメティス様です」


 僕はアビスメティス様を皆さんに紹介した。


「そんな事を聞いているのではありません!」

「ルイン!その子とベッドで何をしていたんだ!?」

「ルイン君!今は遠征中ですよ!」


 えっ?あれ?此方は魔神様だよ?そんな事なの?


「ルインよ、ここは妾に任せるがよいぞ。伊達に数千年生きておるわけではないからの」


 オオ!このアゲインストの中で、本来は敵の筈のアビスメティス様が僕を擁護してくれるとは!


「よろしくお願いします!アビスメティス様!」

「うむ」


 皆さんもアビスメティス様に注目する。何故か上目遣いで僕を見るアビスメティス様?


「お兄ちゃん…今度は優しくしてね…」


「がああああああああああ!何言っちゃってるんですか!」

「おや?間違えたかの?昨夜は激しかったネ、お兄ちゃん♡であったか」


「それもダメでしょ!何処でそんな言葉を覚えてきたんですか!」

「人族の薄い本に書いてあったぞ?」

「そんな本は読んじゃダメです!」

「おや?魔王が妾に是非覚えて欲しいと持ってきた本なのじゃがな?」


 魔王!テメえ!アビスメティス様に何やらせるつもりだ!!!


「アビスメティス様!魔王のクソ野郎の言うことは聞いちゃダメですよ!」


 とアビスメティス様に言い聞かせていたんだけど……。


「ルイン様不潔です!」

「ルイン殿が幼女趣味……」

「ルイン!幼女はダメだよ!幼女は!」


 未だに誤解は解けていなかったよ……。


「違うんです皆さん!アビスメティス様はこう見えて幼女ではないんですよ!立派な大人なんです!」


「………合法ロリ」


 メーテルさん!何処でそんな言葉を覚えてきたんですか!?


「皆さん!皆さんは大いなる勘違いをしています!僕はやましい事はしていませんし、アビスメティス様は本当に魔神様なんです!その証拠にミストーレの街にいたアンデッドを昨夜全て退治してしまったんですよ!」


「ルイン様?何を言っているのですか?」

「ルイン、流石にそれは嘘でしょ?」

「ルイン君は夢でも見たのではありませんか?」


 皆さんが疑惑の目で僕を見ていると中隊長の騎士さんが慌ててテントの中に入ってきた。


「エレナ様!大変です!街に一匹のアンデッドの姿さえも見当たりません!」


「「「えっ!?」」」


♢♢♢


 中隊長さんからの報告はこうだった。朝日が上がり、街に偵察に出た部隊が西門から入り大通りを幾つか歩いたが一匹もアンデッドを見かけなかったとのこと。


 それを聞いたエレナ様は朝食も取らずに全部隊を率いて街へと向かった。


「アビスメティス様?」

「なんじゃ?」

「僕の頭を囓るの止めて貰えませんか?」

「妾は腹が空いておるのじゃ。こうでもしておらんと、空腹で世界を破滅させてしまいそうなのじゃ」

「それ、絶対ダメなやつですから!」


 僕たちもエレナ様に付き添い街に来ていた。朝食抜きでアビスメティス様が暴走しそうで怖いです。


「センスマジック!」


 レミーナ様が光属性の感知魔法を唱えた。光属性の場合、特にアンデッド系モンスターを的確に探査できる。


「いません!辺りにはアンデッドが一匹もいません!」

「という訳ですよ。昨夜、アビスメティス様が柏手一つ打って、全て消してしまったんです」

「消した訳ではないぞ。ちゃんと天に送っておる」


「あ、あの~」

「なんじゃ?」


 流石にレミーナ様も神妙な面持ちでアビスメティス様に質問をした。


「アビスメティス様は魔族の神様なのに、アンデッドを浄化できるのですか?」

「妾は元々十二熾天使の翼位じゃったからな。雑魚アンデッドを浄化するなど爪を切るより簡単な事じゃ」

「熾天使様!?」


 この世界の天使は翼の有る位という意味で翼位と数える。アビスメティス様の天使バージョンは12枚の翼を持ち、堕天する前は2番目の翼位を持つ天使だった筈だ。ちなみにこの世界では、熾天使は6枚以上の翼を持つ天使達です。


「昔の話じゃ。これでもうよかろう。ルイン、妾は腹ペコペコじゃあ!クッキーを買いに参るぞ!」

「今ですか!?」

「あたり前田のクッキーじゃ!」


 はい?どこの親父ギャグ?


「もちのロンじゃったか?む、む、む!むろんオムロン?ロロロ?ロンドンロンドン愉快なロンドン!?ドンドロロンろろ〜ん!ハラホレヒレハレ~~~」


 ヤバい!空腹でアビスメティス様の目がぐるぐると回り始めている!暴走したら本当に世界を壊しかねないぞ!


「という訳ですので、僕はアビスメティス様とクッキーを買いに一度王都に戻ります!テレポート!」


 僕は壊れ始めたアビスメティス様を連れて、一度王都に帰還をした。


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