第30話 戦女神の祝福
「や、やりましたルイン君!」
エレナ様が走ってきて僕に抱き付いてきた。
「え、エレナ様!?」
「私!運命に勝ちました!ルイン君のお陰です!」
「エレナ様の実力ですよ。僕たちは少しお手伝いしただけです」
「違うのです!私は……私は怖かった……。いつも……いつでも……。戦うことが……、負けることが……、そして勝つことが……」
吟遊詩人達に美しき戦姫として詩われる公爵令嬢のエリサ様。王家の中でただ1人戦地に赴き、王家の責任を果たしていた女の子……。
「無傷で帰れる戦場など無い……。私の采配で死ぬ人もいる……。ノーラもメーテルもいつも傷ついていた……。それでも……それでも戦うしかなかった……。」
1人で重圧と戦っていた女の子……。その影で1人泣いていた女の子……。
「嬉しかった……。ルイン君が一緒に戦ってくれて……。嬉しかった……。ルイン君が一緒に私の運命に向き合ってくれて……」
エレナ様の綺麗なコバルトブルーの瞳には大きな涙の雫が溜まっていた。
「………1人じゃないって……こんなに嬉しいことなんですね……」
えっ!?
エレナ様の柔らかい唇が僕の頬に当たった?あれ?
「え、エレナ様!?」
「フフフ、戦女神の祝福……のお裾分けです」
そう言ってニコっと微笑むエレナ様が、まさしく戦女神そのものに見えた。
「ちょ、ちょっとエレナさん!な、何をしているのですか!」
僕とエレナ様の間に、何やら慌てているレミーナ様が割り込み、僕とエレナ様を引き離した。
「エレナさんずるいです!私だって……私だってぇぇぇ……」
ウワ~~~~~~~~ンと泣き出してしまったレミーナ様!?
「な、な、なんで!?どうしたんですかレミーナ様!?」
「す、すみませんレミーナ」
エレナ様が何やらレミーナ様に謝っているけど、僕も謝った方がいいのかな……。
ひっぐ、えっぐとレミーナ様が泣き止む気配がない。
「ちょっとルイン」
リビアンさんが僕の傍らに来ていた。そして小声で僕の耳元で話しかける。えっ!?
「えええええええええええ!?」
「もうそれしか無いの!わ、私だって…本当は……」
「えっ、リビアンさんも!?」
「私のことはいいから!早くしなさいルイン!」
「で、でも……」
「それしか無いの!大丈夫だから!」
キッと僕を睨むリビアンさん。大丈夫かな?捕まったりしないかな?悩んでいる僕の背中をリビアンさんが押して、僕はレミーナ様の傍まで追いやられた。
「れ、レミーナ様?」
話しかけるも、レミーナ様はひっぐ、えっぐと泣いたままだ。……仕方ない……のか!?見ればリビアンさんは頷いている。し、仕方ない……。
僕は泣いているレミーナ様の頬に顔を寄せて、レミーナ様の頬に軽く唇を当てた。
………………………あれ?
なんでレミーナ様の目と僕の目が見つめあっているのかな?
……………………………!?
あれ?……頬……じゃない……?柔らかい………唇…………。
「す!す!スミマセンした!」
まさかあのタイミングでレミーナ様が振り向くとは思わなかった!リビアンさんが頬に軽くキスをすればレミーナ様が泣き止むって…………。
でもでもでもでもでもでもでも!
頬じゃなくて、唇にキスしてしまった!王女様の唇にキスしてしまった!死刑だ!死刑確定だ!僕の死亡フラグはまだ消えていない!!!
僕は額に土が付くほど深く土下座した。こんなんで赦されるとは全然思えないけど!
「る、ルイン様?」
余りのショックで目をパチクリさせて、泣き止んだレミーナ様が僕に声をかけてくる。次の言葉は『死刑!』か!?前世の記憶がまたしても『死刑』って尻をふる子供刑事の映像を思い出していた。
「し、仕方…ないですね…」
ゴクリ……。やはり死刑か……。
「私……初めて……なんです……」
ファーストキスやったああああ!
「ルイン様……責任……とってくれますか……」
「な、何でもします!何でもしますので命だけは~」
「何でも……ですか……ンフ、ンフ、ンフフフフ」
未だに面を上げられない僕だけど、どうやらレミーナ様は泣き止んで、何やら笑っているみたいだ。
「ほら、ルイン!さっさと起き上がりなさい!」
リビアンさんが僕の首根っこをつかんで起こしてくれた。
「ではルイン様にお願いがあります」
ビクビクしながら僕はレミーナ様のお言葉を待った。周りの皆さん達も何やら固唾を飲んで見守っている。
「ルイン様……」
「…………(ゴクリ)」
「ルイン様は騎士になって下さい。私の騎士にです」
「レミーナ様の騎士に……。僕が………」
「はい!ルイン様ならば武功を立てて騎士になることは容易い筈です。約束…約束しましたよ」
騎士。それも姫様の騎士ともなればロイヤルナイト級だ。平民の僕がそんなに徳の高い騎士になることは可能なのだろうか?
「ぜ、善処します……」
今の僕にはそれが精一杯の回答だった。そして他の皆さんもホッと胸をなで下ろしていた。
「皆さんにもご心配おかけしました。死刑にならなくてよかったです」
「し、死刑?いや、姫様ならお付き合いしなさいとか、そっち系かと思ったよ」
「私は結婚しなさいまで、レミーナが言うかと思いました」
「はい?一国のお姫様が僕とお付き合いしても、何の得もないですよね?しかし近衛騎士ですか、大変な約束をしてしまいました!」
「「「近衛騎士!?」」」
あれ?この場合は親衛隊って言うのかな?
「「アハハハハハ」」
「こ、近衛騎士……。……お付き合い……。……結婚………。し、失敗しました………(涙)」
見ればエレナ様とリビアンさんが愉快そうに笑い、レミーナ様が何故か涙を流して肩を落としていたよ?
はて?
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