第29話 決着デュラハン討伐

(エレナ視点)


 私達が、破壊された教会の門であった場所を通り抜け、中庭に差し掛かると、首の無い4頭の馬が引く馬車に、首の無い黒騎士が長い槍を持って搭乗している。あれがデュラハン!


「聖域結界!」


 レミーナが直ぐさまに聖的な結界を張った。聖域結界は不浄なる者に対して能力を低下させるデバフ効果があるとの事だった。


 私も出し惜しみはしない!


「フィジカルブースト!

ライトニングエンチャント!

ミネルヴァプロテクション!

ヴァルキリアエンゲージメント!」


 ノーラ、メーテル、リビアンもフィジカルブーストを唱えている。


 そして私は愛刀であるレギンブレイブを抜き跳躍してデュラハンに斬り掛かる。


 デュラハンは長槍を構え私を迎え撃つ構えを見せる。


「アンカーヘイト!」


 絶妙なタイミングで、ノーラがヘイトコントロールのスキルを使った。デュラハンの意識が否応無しにノーラにいく。


 雷光を帯びた愛刀レギンブレイブがデュラハンを真っ二つにする。しかしアンデッドモンスターのデュラハンはこれぐらいの攻撃で死んだりはしない。災害クラス特Aクラスは伊達ではない。そんな事は百も承知だ!着地と同時に左側面の頭の無いアンデッドホース2頭の脚を切断しながら皆の元に合流した。


「先手は取りましたが、戦いはこれからです!」

「「「はい!」」」


 見れば真っ二つにしたデュラハンが元の姿へと戻りつつある。


「ノーラはそのままヘイトコントロールを!メーテルは右、リビアンは左からアンデッドホースを牽制して下さい!」

「「「はい」」」


 私が正面左のアンデッドホースに斬り掛かる。アンデッドホースは先ほど脚を切断されて動きが鈍い。頭の無い首に剣を振り下ろした。


 メーテルが更に追い打ちをかけるが、4頭立てのチャリオットが動き出し、ヘイトを集めているノーラ目掛けて走り出す。


 私は左に跳びそれを躱す。


「レミーナ!」

「プロテクションフィールド!」


 レミーナの周囲にいたノーラ、神官のソラ、魔術師のミラを囲む様に半円球の光のドームができる。勢いよく走ったチャリオットは、絶対防御を誇る魔法の壁に弾かれ転倒した。


 デュラハンはチャリオットから跳び降りたが体制が悪い。私とメーテルの二人で背後から斬り付ける。


 上半身が分断されたデュラハンだが、黒い霞となって直ぐに甦る。


 更に転倒したアンデッドホースも立ち上がろうとしていた。 


「ホーリーライト!」


 暖かい聖なる光が灯る。中位神官のソラが援護魔法を唱えてくれた。アンデッドは聖なる光を嫌う。災害クラスC級のアンデッドホースにダメージはいかないものの行動制限はかけられているようだ。


 デュラハンが腰の剣を抜き私に斬り掛かってきた。流石は特Aクラス!剣筋も見事だ。私とデュラハンの剣と剣とぶつかり合い火花を散らす。


 それでも押しているのは私の方だ。ルイン君の言っていた通り、チャリオットに乗っていないデュラハンは討伐レベル50の魔物。レベルが54の今の私なら打ち負けたりはしない!


 そして数合渡りあい私は違和感を感じた。これだけデュラハンにダメージを与えているのに、デュラハンの剣勢が一向に衰えない。アンデッドだとしてもおかしすぎる!?


 そしてデュラハンが黒い霞となって消えた。


 どこだ?


 ヒヒーンと頭の無いアンデッドホースの嘶きが聞こえた。中庭の奥に4頭立ての馬が引くチャリオットに乗ったデュラハンがいる。手には長槍を持ち、その槍を天高く突き立てた。


「マックスチャージが来ます!全員レミーナの元へ集まって下さい!」


 ルイン君からデュラハンの必殺技マックスチャージのことを聞いていた。その攻撃力は鉄の塊をも貫くらしく、私でも一槍で致命傷を負い、更には強力な呪素が体に流れ、死に至らしめる呪いがかかる。


 そう、この一撃こそが私の運命を分ける一撃。ルイン君と出会わなければ、必ず受けていた凶撃だ。


『エレナ様。この戦いで勝たなければならないのはエレナ様です。僕やレミーナ様が勝利しても意味はありません。自らの運命を切り開いて下さい!』


 ルイン君の言葉を思い出す。私が切り開く、自らの運命を!


「エレナ様!早く此方へ!」


 レミーナの元へ集まったノーラが私を呼ぶが私は首を振った。


「レミーナ!私に構わずにプロテクションフィールドを使って下さい!私は、私は運命を切り開く!!!」


 愛刀レギンブレイブを正眼に構えてデュラハンを睨みつける。剣に付与した雷光がバチバチと火花を散らす。


「お前にも騎士の誇りが残っているのならば、大将である私にかかって来い!」


 私の言葉が聞こえたのか、黒いオーラを纏ったデュラハンは私に向かって突進して来た。


 今までにない速いスピードでのマックスチャージ。狙いは馬による突撃ではなく、構えている長槍での一撃だ。高速の一撃を躱して見せる。



『武術試験で僕が使った魔法ですか?』

『はい!とても気になっていました。今なら教えて貰えますか?』


『あの時に使った魔法は『体感加速』という魔法です』


『『体感加速』?初めて聞く魔法ですが?加速の魔法みたいなものですか?』


『目は物にあたる光源の反射を見ているのですが、この光を人は1秒間に60回見ています。鳩は1秒間に150回、蠅は1秒間に300回見ています。これらのことを総じて動物の臨界融合頻度というそうです。では鳩は何故捕まえられそうで、捕まらないのか?』


 ふとルイン君が我が家に来た時の事を思い出す。……あの時の答えは……。


「答えは!鳩は倍のスピードで時間を見ている!つまり世界がゆっくり動いて見えているから!

フィジカルブースト!『体感加速!』」


 私は目の瞬きにのみ身体強化をかけた。世界がゆっくりと動き始める。気を付けろ!『加速』の様に早く動ける訳ではない。タイミングを見切れ!


 黒いオーラを纏ったデュラハンを乗せた頭無しの馬が、私の横をゆっくりと走り抜ける。私は重く感じる体を動かす。


 デュラハンの長槍が私の体を貫く寸前に、私は体を捻りながら跳躍した。空中で回転し、逆さの状態でデュラハンの腕を切り落とす。


 腕と長槍を無くしたデュラハンが走り去る。私は黒い霞へと霧散していく長槍を眺めた。……ルイン君、私は運命に勝ったのか……。


「お見事です!エレナ様!」


「えっ!?」


 声は私の隣から聞こえた。


「遅れてしまってスミマセン」


 ルイン君?


 災害クラスSSのドラゴンゾンビをもう倒してきたの!?いや、ルイン君のやる事は悩まない方がいい。


「エレナ様、今の動きはもしかして?」

「はい!ルイン君の『体感加速』を真似てみました!」

「時空魔法も無しにやるなんて、凄いです、エレナ様!」

「ルイン君に褒められると凄く嬉しいですね……」


 不思議と頬に涙が溢れた。まだデュラハンを倒していない、戦闘中の最中なのに、私は涙を止めることが出来なかった。


「……私は……、私は……、私は運命を切り開けましたか?」

「はい!見事に運命を切り開きましたね!」


 ……そこにはルイン君の笑顔があった……。学院では冴えない男の子、王国では最強の男の子、今、その笑顔は私だけのモノだ……。今は……、今は私だけのルイン君だ!


□□□


 エレナ様はデュラハンの放った運命の一撃を見事に躱した。後はアイツを倒すだけだ。


 マックスチャージを躱されたデュラハンの乗るチャリオットは教会の庭を壁際まで走り、大きく旋回しながら更に突進をする体制をとる。


「僕がチャリオットの脚を止めます!その隙にデュラハンを総攻撃してください!」

「「「了解!」」」


 デュラハンが槍を高く振り翳した。マックスチャージの予備動作だ。長槍を脇に構えて直線に突撃してくるデュラハン。


「空間歪曲!」


 チャリオットの高速で回る左車両が、空間歪曲魔法による空間の歪みにより、地面と混ざり合い固着する。左車両の急制動によってチャリオットは大転倒、デュラハンはチャリオットから投げ出されて、アンデットホースはチャリオットから離れる事が出来ないようでグシャグシャに倒れている。


「今だッ!」


 僕の号令で倒れているデュラハンに対して一斉攻撃が始まった。


「エネルギーボルト!」

「ホーリーアロー!」

「セイクリッドペイン!」


 魔術師、神官の攻撃魔法に続いて、レミーナ様の光属性の上位魔法が放たれデュラハンは魔法の炎に包まれた。


「バーニングエッジ!」

「アイシクルスラッシュ!」

「アクアブレイド!」


 ノーラさんの炎属性の剣戟、メーテルさん、リビアンさんの水属性の剣戟がデュラハンの体を斬り裂く。


「やはりおかしいです!?」


 必殺の一撃を放つべく構えをとっていたエレナ様が動きを止めた。そしてデュラハンは何事も無かったの如く、霧散した闇が集まり黒衣の体を取り戻す。


「ルイン君、私達は何度も奴を斬り刻んでいます。しかし、奴の力が一向に衰える気配がありません」


 アンデット系は見た目のダメージが分かりにくい。しかし実戦経験の多いエレナ様が違和感を感じているならば、それは正しい解だ。


 災害クラス特A級とはいえ、これだけのダメージを無効化出来る筈はない。現に首の無いアンデットホースは未だに立ち上がることも出来ずに横たわっている。


 ……………横たわっている?


 デュラハンとアンデットホースはセットモンスターだけど、お互いは独立している。そのアンデットホースが4頭も起き上がらないのはおかしい!


「そうか!レミーナ様!センスマジックで1番大きな魔力を持つモンスターを特定して下さい!」

「はい!センスマジック!」


 レミーナ様の光属性のセンスマジックはアンデット系モンスターに対して明確な魔力調査を行うことが出来る。


「えっ!?ル、ルイン様!1番大きな魔力はチャリオットです!」

「エレナ様!」

「はい!」


 エレナ様は返事と同時にチャリオットに向かって走りだした。それに気付いたデュラハンもエレナ様とチャリオットの間に割って入ろうと走りだす。


「亜空間シールド!」


 デュラハンの走る正面に亜空間シールドを出した。亜空間は魂有るものは入れなく、魂有るものは弾かれる。亜空間シールドに突進したデュラハンも、呪われた魂を持つ者として亜空間シールドによって弾かれた。


「ヴァルキリアブレイカーッ!!!」


 戦女神の加護を纏った必殺の一撃がチャリオットを粉々に破壊した。黒い霧の様な魔素が大気中に溢れ出す。


「ハイエストターンアンデット!」


 止めとばかりにレミーナ様の浄化魔法の光が辺りを照らし、黒い霧と化したチャリオット、本体を失ったデュラハン、横たわる4頭の頭の無いアンデットホースを消滅させる。


「や、やりましたルイン君!」


 エレナ様が走ってきて僕に抱き付いてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る