第28話 予想外の強敵 後編

(エレナ視点)


 この門の向こうにデュラハンがいるのか……。私が戦った魔物の中で最大の敵ですね。それはこの場にいる全ての兵士達も同じでしょう。額から暑くもないのに汗が流れ落ちます。この場にルイン君がいればどんなに頼もしかった事でしょうか。


『エレナ様。この戦いで勝たなければならないのはエレナ様です。僕やレミーナ様が勝利しても意味はありません。自らの運命を切り開いて下さい!』


 ドラゴンゾンビ討伐に向かう前にルイン君が私にかけてくれた言葉。デュラハンの攻略情報も貰いました。何も知らずにこの場に来ていたら、私と共に来た多くの兵士が命を落とし、私の未来は暗黒に包まれたでしょう。


「ルイン君……」


 私が私の運命を変える……。違いますね。彼が私の運命を変えてくれた。彼がいたから……。これを運命の出会いというのでしょうか……。私の胸の奥に何か暖かいモノが生まれました。フフフ。


「エレナさん、何クスクスと笑っているのですか?」


 私の隣にレミーナが来ました。従姉妹同士で小さな頃から一緒にする時間も多くありました。だから私は最近のレミーナが見せる笑顔がとても気になっていました。


「ルイン君のことを考えていました」

「私のルイン様のことをですか?」

「私の?…………。そうです。私のルイン君のことを考えていたら笑みがこぼれました」

「わた、わた、わた…………」


 隣のレミーナが私をガルルルと睨んでいます。この子にこんな表情をさせるルイン君……。私の……ルイン君……。そう思ったら頬が紅潮したのは気のせい……ではないですね。


♢♢♢


 僕は皆と別れて1人でドラゴンゾンビのもとへとテレポートした。


「次元斬擊!」


 テレポートによる奇襲の一撃で二本の角を落とす。ドラゴンゾンビ攻略方の1、角を落として超再生能力を封じようってやつだ。前世の記憶にある攻略本情報によれば、ドラゴンゾンビの超再生能力は二本の角がその能力の源らしい。


 突然の奇襲で咆哮を上げるドラゴンゾンビ。討伐レベルがギリギリの相手だ。油断は出来ない。


しかし、このイベントは首領が討伐レベル50のデュラハンだ。上位にいるドラゴンゾンビを従えることは出来ない。ならば何故ここにドラゴンゾンビがいるのか?


 推測1。たまたまいた。道中で遭遇した地竜ならばその可能性はある。他の竜と違い、地竜は巣を変える放浪癖があるからだ。しかし流石にドラゴンゾンビは有り得ない。


 推測2。過去にこの地で死んだ火竜の死骸が、アンデッドの群れに刺激されて覚醒した。これも無理がある。何故ならばこの周辺には火竜が棲み着く火山がない。狩り場としてこの辺りに現れる可能性がない。つまり推測2もはずれ。


 推測3。ドラゴンゾンビを従えることが出来る上位の魔物がいる可能性。これが、理にかなっているけど、僕の空間把握魔法の範囲にはそれらしい反応はない。まあ襲われたらドラゴンゾンビとどっこいの僕ではやられるのが落ちだから、来たら逃げるけどね!


 元が火竜のドラゴンゾンビは地竜と比べれば小さいが、それでも体高が10Mはある。2本の角を切断した後に、もう一発『次元斬擊』を頭に喰らわして転位で移動する。


 一先ずドラゴンゾンビの正面に降り立つと、直ぐさまにドラゴンゾンビはブレスを吐いた。死んでいるドラゴンゾンビは息を吸い込む前動作がない。直前に迫ったドラゴンブレスを亜空間シールドに吸い込ませる。


「テレポート」


 ドラゴンゾンビの頭付近に再度転位して、『次元斬撃』で頭を斬り裂く。先程の攻撃とのダメージで頭の半分が地に落ちる。転位を使い、落ちた頭の半分を亜空間シールドの中にぶち込む。


 ドラゴンゾンビの攻略方法その2。肉体浄化。ドラゴンゾンビの持つ不浄なる巨体を一度の浄化魔法では浄化する事は出来ない。部位を斬り取り、個々に浄化する必要がある。僕は浄化魔法は使えないので、斬り取った部位を亜空間へと投げ入れて、この世との縁を断ち切る。


 そうして転位と空間切断を繰り返し、ドラゴンゾンビの腕、足、翼、尻尾などを斬り刻んでは、亜空間へとぶち込む作業を繰り返した。


 突然、周囲の温度が上昇しはじめた。


「爆熱か!」


 火竜の範囲スキルである『爆熱』は火竜を中心に爆発的な温度上昇させる技だ。ほっといたら辺りは灼熱地獄になってしまう。


「空間遮断!」


 ドラゴンゾンビがいるフィールドを一時的に空間毎遮断する魔法を唱えた。ドラゴンゾンビのいる辺りは目に見えない遮断壁に囲まれている。


 これで爆熱による影響を回避出来たけど、長くは持たない。


「せっかくだから一気に片付けさせて貰うよ!空間爆裂!」


『空間爆裂』は空間収斂魔法くうかんしゅうれんまほうによって圧縮された空間に、更に上乗せして空間収斂魔法を重ね掛けし空間の圧縮で大規模爆発を起こす魔法だ。


 空間収斂では物質は破壊されることなく小さくなる。しかし空間の圧縮によって内側に閉じ込められた莫大なエネルギーは魔法による圧縮に反発して広がろうとする。


 その圧縮の臨界点の直前で空間爆裂魔法がトリガーを引く。蓄えらていたエネルギーは一都市をも飲み込む広域大規模爆発を起こす。


 しかし今回は『空間遮断』によって閉鎖された空間内での爆裂によって、周囲への影響はない。しかも爆発エネルギーが密閉空間内にあるため、その威力は途轍もない事になっていた。


「うわっ……グロっ……」


 アンデッドモンスターとはいえ、肉や骨がある訳で、それらが空間遮断の不可視の壁にぶつかり、肉色に可視の壁へと変えていく。


「血が無いだけ、まだましか……」


 出来れば女の子達がいるところでは使いたくない魔法だね。余りにもスプラッター過ぎます………。


「さて、向こうはどうなっているかな?テレポート!」

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