第26話 白馬の騎士
(カトレア視点)
私は教室の隣に座る男の子が嫌いでした。いえ、大嫌いでした。田舎の町から来た平民の子。それは別に珍しくもなく、他にも平民の子はクラスにいます。
でも彼は第2王子の腰巾着のように彼に媚び諂っていました。私の大嫌いな第2王子と一緒にいる彼が、いえ他にも第2王子に媚び諂っている人達も大嫌いでした。
第2王子は授業中も休憩時間も騒がしく、その行動と言動は野蛮でがさつ。学院内、学院外での暴力事件。王子という身分が無ければ退学になっていてもおかしくありません。
そして、その王子の権力を笠に着て暴れる取り巻きの人達。大嫌い!
隣に座る彼は、暴れたり暴言を言ったりはしていませんでしたが、王子のグループで有れば同罪です。
そして初めて行われたテストの結果発表の時に、隣の男の子が許せない事件を起こしました。
『ザコてめえ!何で俺様より高い点数取ってんだ!舐めてんのか!』
『アーベルト様、こいつカンニングしたんですよ!』
『カンニング~?あ~、ザコの隣はカトレアか~。そりゃあいい点数取れんよなあ』
私はショックを受けました。学生にとってカンニングは犯罪です。そんな犯罪者が隣にいる。吐き気を催すほどに、穢らわしい毎日が続きました。その後も彼の悪い話しばかりを耳にしました。
しかし、次の中間テストで彼はクラス6位にまで順位を上げました。
『先生!アイツはカンニングしてますよ!」
男子生徒が彼のカンニングを指摘しました。私は隣の男の子を睨みました。
バン!っと斜め後方から机を叩く音が聞こえます。
『皆さん!ルイン様に失礼ですよ!ルイン様はカンニングをするような方ではありません!』
そう声を上げたのは第2王女のレミーナ様でした。
『落ち着け王女様』
『ですが先生……』
『俺もルインはカンニングしていないと思うぞ。ただお前達がどう考えるかはお前達で考えろ。人を疑うことは時として必要だが、このクラスには貴族も多い。将来は貴族の矜持を背負う立場の者達だ。何が正しくて何が間違いなのかを養うことも大切だぞ』
私は隣の彼を少しだけ見ました。机の上には返された算術の答案用紙。その点数は100点でした。私は最後の難問が解けずに90点です。
『……貴族の矜持……』
2年前、私の街で他領の貴族の子息が女性に暴行を加えて殺害する事件が有りました。抵抗した女性が子息の顔に爪を立て、激情した子息が女性の手を切り落とし、乱暴を加えた後に首を斬り落とすという猟奇的で残酷な事件でした。
侯爵である父が納める街は、貴族が民を信じ、民が貴族を信じる街です。お互いの信頼が街に富と活気を生み、他領にはない笑顔に溢れる街です。そこに他領の貴族とはいえ、貴族による横暴的な殺人事件が起きたのです。
父は激怒してその貴族の子息を直ぐに取り押さえました。その子息は最後に「崇高なる貴族の血を流させた平民など、死して当たり前だ。我が罪に問われる謂れなどない!貴様にも貴族の矜持が有るならば、我を直ぐに解放しろ!」と言うと、父は「私には私の矜持が有る!貴様の腐った矜持と一緒にするでない!」といい、子息の首を斬り落としたのです。
父は民を信じ、貴族であろうと父の矜持に触れるものには罰を与えました。私はそんな父を尊敬しています。しかし、私は自ら調べることもなく、権力を持つ貴族の言葉を信じ、彼を信じませんでした。
そして私はまた過ちを繰り返してしまいました。それは放課後の図書室でのことです。
『馬鹿にしないで下さい!これは古代の恋愛小説です!』
私は私を侮辱した彼の頬を手の平で叩きました。
『オイ、お前ら~、図書室では静かにしろ~。て、何を騒いでいたんだ?』
『こ、この人が私を侮辱したんです!』
『そうなのか?』
『すみません。趣味嗜好に口を出した僕が悪いのです』
彼はフォンチェスター先生が紹介してくれた古代書を、事も在ろうにBL本と言ったのです。
『しゅ……趣味嗜好って!だから私はBLなんて読んでません!』
『え、でもその本は………』
『だからこれは古代の恋愛小説です!ですよね先生!』
『いや、カトレア、お前が読んでいるのはBL本だぞ』
『……………え?でも先生がこれを………』
『だってお前が古代の恋愛小説を読んで古代語を勉強したいって言ってたろ?女の子が読む恋愛小説つったらBL本が鉄板だろ?』
フォンチェスター先生を信じた私が馬鹿でした。彼は正しいことを言っていたのです。そして彼は破廉恥な内容の朗読を始めてしまいました。……私が読んでいた本は未成年が読んではいけない内容でした。私は余りの恥ずかしさに卒倒してしまいました。
そして先生さえも解読出来ない古代文書を読み上げる彼の姿を見て私は悔いあらためました。我が家の家訓は、貴族であれ誤りが有れば謝罪をする事と、小さな時分から父に言い聞かされてきました。
そして私は彼に謝罪をしたのです。彼は笑って許してくれました。そして私は彼の3番目のお友達になれました。
それからは楽しい日々が続きました。彼が教えてくれる古代語は分かりやすくて、今まで読めなかった古代書も読めるようになりました。
魔導具を作る上での彼の魔法理論はとても分かりやすくて、それでいてその魔法理論の完成度には舌を巻きます。天才とは正に彼のことです。彼と一緒に魔導具を作る時間は今までになかった至福のような時間です。
彼から聞かされた私の未来…。でも私は彼を信じていました。彼を信じることが私の矜持でもあるかのように。
だから彼が遠く離れた地から、光のようなスピードで、助けに来てくれた時は涙が溢れ出しました。暴漢3人をあっと言う間に倒した勇姿、私に笑顔で手を差し伸べてくれた優しさ。
「カトレア様、立てますか?」
彼の言葉に首を振ると、彼は私を抱き上げてくれました。
夢?
私は夢を見ているような、心のときめきで、ドキドキと波打つ心臓が飛び出しそうです。さっきまでの怖い思いは消え、今は素敵な彼の顔に見とれています。
ルイン君……。
小さな時から沢山の恋愛小説を読んできました。颯爽と現れる素敵な白馬の騎士。私にも現れると信じていた幼かった頃の夢。それが今、叶いました。
ルイン君は私の白馬の騎士様です!私のルイン君!このドキドキは本物です!私は恋する乙女になれました。
♢♢♢
カトレア様を襲った暴漢は衛兵隊には通報せず、公爵夫人預かりとなった。
カトレア様を襲った暴漢の1人が、ビスコール男爵家の者だと分かり、僕はゲームのエピソードを1つを思い出した。ビスコール男爵家の長女はあのニーチェ様だ。『王子様暴走編』でアーベルト様の気持ちが男爵令嬢のニーチェ様に傾くと、伯爵令嬢のメリッサ様が、ニーチェ様を落とし入れる為の行動にでる。
ビスコール男爵のご子息様は、カトレア様の侯爵領で犯罪を犯して死刑にされている設定があった。
メリッサ様は、ビスコール男爵家の者にカトレア様の誘拐を仄めかす。カトレア様の誘拐が成功しても、失敗してもニーチェ様の評判が下がる。そしてその隙にアーベルト様に言い寄るって話しだった。
それらの事を公爵夫人には告げてある。後をどうするかは公爵夫人に任せて、僕はエレナ様の遠征軍に戻る為に空間転位の魔法を唱えた。
「ルイン君!」
えっ!?
カトレア様が僕のほっぺにチュッとキスをしたよ!?何!何なの!?行ってらっしゃいのチュー?僕は頬にカトレア様の柔らかい唇の感触を残しテレポートをした。
♢♢♢
空間転移でエレナ様たちの元に僕は戻った。
「お帰りなさいルイン様」
「カトレアさんは大丈夫でしたか?」
僕は頬に残った感触に手を当てながら、カトレア様の無事を伝えた。
「ルイン様?頬に怪我でもされたのですか?」
僕が頬を指すっていたので、レミーナ様が心配してくれた。
「いえ、違います。此方に跳ぶ前にカトレア様が行ってらっしゃいのキスを頬にしてくれたので、田舎を出たときに母が同じようにしてくれたのを思いだしていました」
「「「……頬に……キス……」」」
ヒィッ!?
見ればレミーナ様、エレナ様、リビアンさんの背後に鬼が見えた!?
……み、見間違いだよね!
「「「カァトォレェアァァァ!!!」」」
ヒィィィィィィィィィ!!!
何故かレミーナ様、エレナ様、リビアンさんが鬼になっていた!何!?何なの!!!
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