第24話 手抜きをしたら喜ばれたよ?
「何処のテントもルイン殿の噂で持ち切りですね!」
「士気も上がっていますよ!」
2日目の野営地。本陣のテントの周囲は白い垂れ幕で囲まれていて、いま僕達はその敷地内に設置された、大きなテーブルに付いている。
そして辺りのキャンプを見回りしていたノーラさんや中隊長の騎士さん達が集まってきた。
因みに垂れ幕の敷地中央に設営されている本陣のテントは、僕が寝泊まりしている部屋の3倍はありそうな大きなテントだ。
テントの中は中心に広間が有り、その周りに2人泊まれる個室が4部屋ある。僕みたいな平民はテントの外で野宿で良いのだけど、何故か1部屋支給された。
「ルイン君でも多少は手子摺るかと思った地竜があっと言う間でしたからね」
「エレナ様でも瞬殺出来ますよ」
「地竜は狩れたとしてもブレスは防げませんよ。避けることは出来ますが、本隊への被害を考えると、単身で掛かろうとは思いませんね」
「ねえねえ、ブレスはどうやって防いだの?」
リビアンさんの質問に対して、他の騎士さんもいるので亜空間シールドで防いだとは回答しにくい。亜空間シールドは魂がある者以外は何でも入るからドラゴンブレスも吸収出来た。
「特殊なシールド魔法だよ。光属性魔法のプロテクションフィールドに近い感じかな」
光属性魔法のプロテクションフィールドは外部からのエネルギーを弾く防御魔法だ。但し半円球のフィールド内にいると攻撃をする事が出来ないので、通常戦闘での使い何処は難しい魔法でもある。
「あ、そ、そうだよね」
状況を察したリビアンさんが簡単な説明で納得してくれた。しかし、中隊長の騎士さんからは、巨大な地竜をどうやって倒したかの質問がきた。
地竜を倒した魔法は
空間収斂魔法は指定したエリアの空間を歪めて収斂させる魔法で、そのエリア内の物は空間的に収縮されてしまう。物理的な圧縮ではないため壊れたり、死んだりはしない。
しかし空間収斂は、その指定した空間を圧縮する事により大きな空間の歪みが発生する。そして前世のSF的記憶によれば空間の歪みは重力を発生させると言われていた。その収縮エネルギーが暴走すれば、空間爆裂や、ブラックホール化などの大災害を起こすリスクがある。
空間爆裂は空間収斂による莫大な圧縮エネルギーが臨界状態になると、元に戻ろうとする空間拡大の力により、広域大規模爆発が発生する。
更に臨界状態を超えて圧縮が進んだ場合は、ブラックホール化が発生する。始めは小さな黒穴でも、手近なものを吸い込んでは大きくなっていき、最後に星さえも飲み込んでしまう。
勿論、そんな事が起きては軍団にも被害が及ぶため空間収斂の過程で空間切断魔法を放つ。
収縮された空間と共に小さくなった地竜の首に、不可視の刃である空間切断魔法の刃を斬り付ける。有効距離は1M程度しか切れない『次元斬撃』だけど、小さくなった地竜の首を落とすには十分だった。空間解放時に発生した次元風が予想以上に吹いたのは少し焦ったけど。
さて、こんな説明を騎士さん達にする訳にもいかないよね。
「あれは風属性魔法の風刃に似た魔法です」
「風刃ですか?しかし風刃程度では地竜の外皮を切ることは出来ないと思いますが……」
風刃は風属性の初級魔法だ。風を飛ばして物を切るという物理的には有り得ない魔法。竜巻に巻き込まれても斬り刻まれることは無いし、真空を発生させて空気との圧力差で切るとかの説があるけど、前世の記憶ではそれは有り得ない。
ならば何故風の力で物が切れるのか?これこそ魔法だからって事になる。属性魔法はその属性世界の力を行使する。その際に属性世界の門を開くと言われてもいる。
僕の仮説であるが、風刃はその門を飛ばしているのではないだろうか?属性世界の門とはつまり次元の切れ目だ。
僕の空間切断魔法も次元に切れ目を作る魔法。次元の切れ目は物を切る力がある。魔力が少ない初級魔法の風刃は、その魔力に応じた僅かな次元の切れ目を飛ばして対象物を斬り裂く魔法って事になる。
「これは僕の持論ですが、魔法は魔法理論によって威力が向上すると思っています。初級魔術師が使う風刃は、魔法理論が足りていない為だと思います」
「上級魔術師の風刃は見たことありますが、地竜を斬り裂くレベルには見えませんでしたが?」
「それも魔法理論がまだ足りていないのだと思います。風属性魔法の切断系魔法は真空切断理論を耳にしますが、その真空切断理論が間違っているのではないでしょうか」
「はあ?」
「貴方達、ルイン君の魔法理論を聞いても混乱するだけですよ」
エレナ様も『体感加速』の魔法理論を話した時には混乱していたな。
「つまりは私のルイン様が凄いということです!」
エッヘンと何故か胸を張るレミーナ様。しかし気になるな……。
「ねえ、リビアンさん」
「な、何!?」
隣に座るリビアンさんに小声で話しかけた。
「最近のレミーナ様なんだけど、『私のルイン様』ってよく言うけど、僕を従者にしたいのかな?」
「えっ?従者?ルインを?た、多分違うと思うよ」
「じゃあ何だろうね?」
違うのか。僕はリビアンさんのような従者にしたいものだと思ってしまったが、赤い顔をしたリビアンさんに否定されてしまった。はて?
♢♢♢
「あ、あの~、本当にやるのですか?」
「わ、私達、ルイン殿の実力は十分分かりましたから……」
中隊長の騎士さん達が自分達のキャンプに戻り、白い垂れ幕の中には本部の面々だけが残っている。そして昼に約束したノーラさん達との手合わせの時間となったのだが、何故かノーラさん達の腰が引けていた。
「はい。確か全力でってお話しでしたよね」
「ち、ち、違います!私達は全力でも、ルイン殿は手抜きでお願いします!」
「そうなんですか?」
「「はい!絶対手抜きでお願いします!!!」」
流石に『次元斬擊』で真っ二つとかにはしないよ?
♢♢♢
(メーテル視点)
「ハアッ!」
ノーラがルイン殿に斬り掛かるが、ルイン殿の青白い盾によって攻撃は届かない。
「セイッ!」
その横合いから私が斬り掛かるが、直前で躱された。
ルイン殿からの攻撃は今のところ一つも無い。いや、攻撃されては私達の命が無い…。
ノーラが無駄だと分かりながらも、上段から打ち込むが、やはりあの青白い盾に当たるだけだ。いや、当たるという表現は違う。吸い込まれているというべきだろうか?
私もそうだったが青白い盾に当たる手応えは無く、空を切る。そんな感じだ。それでいてショルダーチャージなどはその盾にぶつかり弾かれる。これが地竜のドラゴンブレスを防いだ盾。
そしてルイン殿の戦況把握能力の高さは異常だ。常に私達の位置取りを把握している。だから奇襲も出来ない。
更に目の良さ、反応の速さには舌を巻く。私達の必中の攻撃も紙一重で躱され続けている。私達2人を相手してこんな芸当は騎士団長にだって無理だ。
『私にしてもルイン君には瞬殺されますから、負けることは気にせず彼の技を見てきなさい』
手合わせ前にエレナ様が言っていた言葉。流石に瞬殺は冗談だろうと思っていたが、冗談ではなかった。私達の攻撃がまったく当たる気がしない。
「では今度は僕から攻撃しますね」
ニコッと微笑むルイン殿。
「「無理無理無理無理無理無理無理!!!」」
私達の正面に相対していたルイン殿が突然消えた!?
「あっ」
隣のノーラの声が聞こえ、見ればノーラの肩にチョコンと一太刀当てているルイン殿。えっ!また消えた!?
「………………」
振り向けばルイン殿は私の背面に立ち、チョコンと私の肩に剣を当てていた。私とノーラは絶句するしかなかった。
「今日はこれぐらいにしておきましょう」
ニコッと笑う顔立ちの良い少年に私の心がキュンとときめいた。
手合わせの後にルイン殿のレベルを聞いてみたら、「まだ69ですよ」とか笑って言われて、私の腰が砕けそうになった。何が『まだ』なのか全く意味不明だが、間違いなく王国最強のレベルだった。
そして私とノーラがルイン殿を盟主とするRED同盟に入ったのは当然の流れだった。
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