第4章 アンデッド討伐編

第23話 街道を塞ぐ魔物

 翌日、僕とエレナ様は学院を休んでレベル1ゴブリンが待つチュートリアルダンジョンに行った。エレナ様は遠征準備を理由に学院は特別休業を貰っている。僕は暫くの間は風邪ってことで学院を休む。


 ダンジョンに入って直ぐにレベル1ゴブリンを瞬殺して奥の隠し部屋に入る。そしてエレナ様の荒くれメタルナイトスライムのモグラ叩きが始まった。


 不正な行為を許せないエレナ様には苦行だったようで、昼前には真っ白になって、昼過ぎにはアハハハアハハハとご乱心されながら剣をブンブンと振っていました。とさ。


♢♢♢


「エレナさん、大丈夫?顔色が悪いですよ」

「大丈夫ですよレミーナ……肉体的には…」


 一昨日、真っ白になっても一心不乱に荒くれメタルナイトスライムを斬りまくったエレナ様。アンデッド討伐の出発当日になっても心のお疲れは取れなかったようだ。


 しかし、試練を乗り越えたエレナ様のレベルは54まで上がっていた。戦歴と実績を加味すれば王国最強の将軍に慣れる資格を持っていると言っていいだろう。


 そんなエレナ様が今回の討伐で率いる軍は、上級騎士のエレナ様を軍団長とし、ヘッドクォーターとしてのエレナ様直属部隊、騎士5人を隊長とした5中隊と衛生看護隊1部隊、輜重隊が1部隊からなる100人規模の軍団だ。騎士や上級衛士の従士や小僧を加えれば更に多い頭数になる。


 僕とレミーナ様、リビアンさんはエレナ様の直属部隊に入っている。直属部隊は中隊長の騎士とは別に若い女性上級騎士が2人と中位神官1人、中位魔術師が1人、上級衛士が3人、そして6人の衛士で構成されており、雑用の従士も10人ぐらいいる。


 王都からアンデッドの群れに襲われている街までは5日の行程になっている。出発から10日後に国王陛下崩御によってエレナ様が戦線を退くシナリオになっている。


 ゲームではエレナ様は傷付き、半身をデュラハンによって呪われて帰路につく。そして大将不在の軍団も大敗して退くことになるんだよね。


 つまり到着して5日以内でアンデッドの群れとデュラハンを討伐しなければいけない。だからこそレミーナ様のハイエストターンアンデッドはめちゃくちゃ頼もしい魔法だ。


♢♢♢


「少しいいかしら」

「はい?」


 王都を出発して2日目、従軍の馬車の中で女性上級騎士のお姉さんから声をかけられた。


「エレナ様の言葉を疑いたくは無いのですが、共に戦う者として君の実力を知りたいの」

「僕のですか?しかし僕は魔術師ですので剣を合わせる訳にもいきませんが?」

「これ!ノーラ!ルイン様に失礼ですよ!」

「しかしレミーナ王女、彼の実力を知らなければ戦闘に集中出来ません」


 確かにそうだよな。フォローが必要なのか不要なのか、また戦闘中にそんな事を考えるのも危険を招く。僕が実力を隠したことで、お姉さん達を危険に晒す訳にはいかない。しかも一緒に戦うのだから結局は僕の魔法を見せることになる。


「いいですよ。手合わせしましょう」

「ルイン様!それではルイン様の魔法が!」

「レミーナ様、お姉さん達もいずれ僕の魔法を見る訳ですから」


 戸惑うレミーナ様にリビアンさんが何やら耳元でヒソヒソと話しをしている。そしてレミーナ様がニャン子顔でニヤリと笑った。


「ノーラ、それにメーテル。お二人でルイン様と手合わせをなさい。そしてルイン様が勝った暁には、貴女達2人はRED同盟に入って貰います」

「「RED同盟?」」

「れ、レミーナ様、流石にそれは」

「そうですレミーナ王女。私とメーテルの2人掛かりでは彼も可哀想です」


 あれ?僕の心配?僕が心配しているのはお姉さん達の行く末なんだけど……。


「上級騎士の貴女方が束になっても、ルイン様であれば負けることはありません」

「分かりました。そこまで言われては私達も全力で手合わせをさせて頂きます!」


 そんなこんなで夜の野営地で手合わせをする事が決まった。…のだけど、僕の魔法は思いも寄らない相手でお披露目する事になった。


♢♢♢


「地竜です!地竜が街道を塞いでいます!」


 先を行く部隊からその報告があったのは、野営地として予定していた水場の少し手前だった。間もなく日も沈むし、こんな所で負傷者を出しては行軍速度にも影響が出る。


「僕が行くよ」

「ルイン様が!?」

「うん。ノーラさんの言葉で僕も思うところが出来たからね」


 僕は馬車の座席の正面に座るノーラさんに微笑みかけた。


「学生が遠足気分で従軍していると思っている人がいると思うんだ。それはエレナ様の指揮にも影響しかねない」

「では私達もお供します」

「いや、レミーナ様やリビアンさんなら、衛士の皆さんも知っているから問題ないよ。だから僕が1人の方がいいと思うんだ」

「分かりました。ルイン様の勇姿、最前列にて拝見いたしますわ!」


♢♢♢


 行軍の先頭に行くと街道の向こうに身丈20Mはありそうな地竜がいた。地竜は空を飛べない竜種で、その分、火竜や雷竜に比べて体格が大きい。災害レベルはS級だから討伐レベルは60。


 僕のレベルはエレナ様の荒くれメタルナイトスライム無双にお付き合いしたのでレベル69に上がっている。まあ1人でも何とかなるだろう。


「ル、ルイン君!」


 声を掛けてきたのはノーラさんだった。隣には同じく上級騎士のメーテルさんもいる。


「何でしょうか?」

「私達が君を嗾けたのなら謝るから!地竜に1人で挑むなどと馬鹿げた事は止めてくれ!」

「いえいえ、ご心配なく。地竜の討伐レベルはレベル60です。堅いだけの鈍臭い地竜なんか瞬殺ですよ!ちょっと行って来ます!」


 地竜に向かって駆け出した僕だけど、流石に瞬殺は言い過ぎたかな?さてどうしたものか。……やっぱりアレ、試してみるかな?


♢♢♢

(ノーラ視点)


 行ってしまった……。


 私が嗾けたから……。学生が隊に加わると聞いて、私は彼の実力をこの遠征前に調べていた。学院での評価は最低レベル。成績はまあまあだが、武術試験ではエレナ様と対戦し一撃も振るえぬまま敗退していた。


 公爵夫人の鶴の一声で今回の遠征に加わったと聞く。光属性の魔法を使うレミーナ王女なら分かるし、従者にして騎士見習いのリビアンが同行するのも納得がいった。


 しかし彼は才能も実力も無い。ならば何故?その疑問を確かめる為に手合わせを申し込み、今夜にも某かの手応えでも有れば、私も納得出来たかもしれない。


 しかし、彼は街道に現れた山の様な巨体を持つ地竜に向かい走り出してしまった……。


 颯爽と、笑顔で、臆すること無く……。


 ……………?


 臆すること無く?

 笑顔で?

 颯爽と?


 有り得るのか?赤子が見ても地竜の強大な力は分かる。どんな愚か者でも、あの脅威が分からぬ者などいない筈だ。


 何故?


 何故、彼は笑顔で向かって走れるのだ?


『堅いだけの鈍臭い地竜なんか瞬殺ですよ!』


 彼は確かに瞬殺と言った。無理だ!地竜の外皮は鉄より硬い。しかもあの巨体だ。皮膚の弱い目や耳にしても届く距離では無い。


 いやいや、そもそも地竜を相手にするならば、我が軍団が総出でかかり、半数以上の被害を出して勝てるかどうか。最悪、全滅すら有り得る災害レベルS級の魔物だ。


 しかし、彼は未だに地竜に向かって走っている………。


 !!!


 不味い!地竜が大きく息を吸っている!ドラゴンブレスが来る!


「全員盾を持て!ブレスが来るぞ!」


 私の声に前衛の衛士達が盾を構えた。地竜の口が光、巨悪なブレスが噴き出された!


 ………………。


 ……………………?


 …………ブレスが…来ない?


 前を見れば、地竜に向かって走る彼の全面に青白い光の壁が見える。


 ………防いでいる!?………ドラゴンブレスを!?


 そして青白い光の壁が無くなり、彼はまた走り出した。いや、消えた?


 私が彼の姿を見失った瞬間に、巨大な地竜の姿も消えた?そして突風が吹き荒れた。


 クッ!


 巨大な地竜が一瞬にして消えた!?何だ?私は何を見ている!?何が起きているのだ?


 消えた地竜が、元の大きさで姿を現した。……いや……首が…無い…?


 ドスーーーンッ!


 地響きと共に地竜が倒れた。そしてそこには大きく手を振っている彼の姿が見えた。


『堅いだけの鈍臭い地竜なんか瞬殺ですよ!』


 彼は瞬きの間に災害レベルS級の地竜を倒したのだった。



□□□

2月27日

お陰様で30PV達成出来ました。ありがとうございます(*^^*)

もう少しで☆が600です(^-^)

もしよろしければ、レビュー☆お願いします(*^^*)



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