第22話 RED同盟
「公爵様は次期国王として第1王子様、または第2王子様の何方にお付きになりますか?」
僕の公爵様への質問に公爵様がどう答えるか、皆が固唾を飲んで見ている。いや、公爵夫人だけがテーブルに頬杖をついて、つまらない物を見るような目で公爵様を見ていた。
「確かにそれは不敬な質問だな。国王陛下の死を語ることは何人たりとも許されない」
公爵様はそう言って、チラッと公爵夫人を見た。公爵夫人は『いいから早く喋れボケ!』みたいな目で公爵様を睨んでいる。
「んっんっ。第1王子は一言で言えば野心家だ。目的の為ならば手段を選ばないきらいが有る。第1王女が帝国の皇子と婚約を結ばれたのも、第1王子が影で動いていたからだ。王位継承権を持たぬといえども実の姉だ。それを隣国……ガスバルト帝国のあの第3皇子に嫁がせたのだ。結果として第1王子は帝国に貸しが出来た」
帝国の第3皇子か。その醜態と性癖によって、帝国の力を持ってしても妻となる女性を見いだすことが出来なかったという変態皇子。そこに生贄の如く実の姉を差し出した第1王子……。
「彼が新しき王位を継ぐ際には大きな後ろ盾が出来たという事になっているが、彼の野心は帝国をも喰らう腹積もりだ。しかし、彼程度ではその大業を成すこと敵わず、そしてその結果、我が国が帝国領となる未来が私には見える。だから私が第1王子に付くことは有り得ない」
「では第2王子のアーベルト様ですか?」
「アハハハ!それはもっと無いな!あのクズ王子では国が三日として持たないよ」
アーベルト様は一言で一蹴されてしまった。『ドキプリ』の主役なのに、扱いが雑だ。
「……それでは第3王子様ですか?」
国王様には正妃様のお子様である、第1王女、第1王子、第2王子のご3人、第2妃様のご息女であるレミーナ様、第3妃様のお子様に第3王子と第3王女のお二人がいらっしゃる。
第2王子のアーベルト様が起こすクーデターにおいて、僕達がどの勢力に付くかはレミーナ様と決めていた。それが第3王子のジャック様である。
「いやいや、ジャックはまだ5歳だ。国王になるには早過ぎるな」
「しかし王位継承権を、お持ちになられてますよね?」
「形式的なものだよ」
ん?第1王子でも第2王子でも第3王子でもない?まさか『我が出る!』とか言うのだろうか?
「ルイン君、王家にとって大切な物は何だと思う?」
ん?何だろう?お金?お宝?……政治的に重要な物?
「グレートシール(国璽)…とかですか?」
「確かに国璽は大切なものだな。有れが無いと公文書は作れない。でもハズレだよ。王家にとって大切なものは血だ。第3王子は継承権を持っていてもまだ子供だ。血を残すには後10年は必要だろう」
確かに5歳の第3王子が子供を創ることは出来ないよね。
「……ではどなたを?」
「もちろん仮定の話しだが、その時はレミーナを推挙するよ。レミーナは我が国の聖女として国民からの信頼も厚い。それこそ10年後に第3王子に王位を継承するまでとすれば、第3妃も納得するだろう」
僕達は公爵様の言葉でレミーナ様を見た。
「わ、私ですか!?私は王位継承権を持っていません!それならば叔父様でも宜しいのでは!?」
公爵夫人は公爵様を見て『我が出るとか言ったら打っ飛ばす!』みたいな視線を向けている。
「アハハハ、それこそ無理な話しだ」
そう言った公爵様は公爵夫人の視線を交わしている様にも見える。
「考えてみてくれたまえ。私が王になったら妻が王妃になるんだよ」
「「「絶対無理ですね!」」」
満場一致で無理だった。腐女子先生が腐女子王妃になったらこの国の文化が滅びる……腐食されて……。
♢♢♢
「ありがとうございました、公爵様」
公爵様が第1王子も第2王子も支持しないと分かれば大丈夫だ。レミーナ様推しは意外だったけど、有りと言えば有りかもしれない。
「それではマジックバッグについてお話しします」
「ちょっと待てルイン」
話しに待ったをかけたのは公爵夫人だった。
「ルインの話しを聞いたら、後戻りは出来ないよ。それでも聞くかい?」
「………それは国王…いや、兄さんに関係する事なのか?」
「……それは言えない。ただ、ルインの話しを聞いたなら一蓮托生だ。RED同盟に入って貰う事になるんだよ」
RED同盟?何それ?
公爵様が僕達の顔を見渡す。
「レミーナ、お前も入っているのか?」
「勿論です!会員ナンバー1番は私ですよ!」
えっ!?レミーナ様も入ってるの!?会員ナンバー1番って何それ?
「君達もか?」
「「はい」」
そうなの!?カトレア様もリビアンさんも入ってるの!?
「因みにあたしのは会員ナンバー4番、エレナは5番だ」
「わ、私も入っているのですか!」
「特別にあたしが役員特権で入会させておいた~。感謝しろ」
「…………」
まさに押し売り!
「なるほどな。分かった。私も覚悟を決めよう」
公爵様もRED同盟が何か分かったの?僕には全然分からないよ!
「こ、公爵様!そんな怪しい同盟に入っていいんですか!?」
「おや?君が立ち上げた同盟ではないのかい?」
「いえ!僕も初めて聞きました!」
「ふむ。それでも構わないよ」
公爵様がチラッとこの同盟を立ち上げたであろう公爵夫人を見る。
「RED同盟か。差し詰め血の盟約を結びし仲間達といったところか。それ程に結束と覚悟を持つ必要がある事を君達はしようとしている。ならば私も覚悟を決めねばなるまい」
血の盟約とは結束を高める為に、ワインなどを入れたグラスに血を混ぜて飲む儀式だったかな?あれ?先日、先生に採血されたな?
……………。
僕の頭からサーっと血の気が引いた。
「それにだなルイン君。妻と娘が入っているその同盟に私が入らない場合、私が家の中で肩身が狭くなるのだよ。君にならば分かるだろ」
「………はい」
♢♢♢
公爵様がRED同盟なる怪しい同盟に入ることが決まり、僕は神の啓示と称した前世の記憶によるこの国の未来を語った。
「何ィ!エレナの身にそんな未来があるだとォ!」
話しの途中でブチ切れる公爵様だったが、僕は何とか一通りの話しを終えた。
「国王……兄さんが……死ぬのか……」
僕の話しを聞き終えた公爵様は国王陛下の死、そして訪れる国の動乱に肩を落とす。
「しょぼくれんなよ旦那ア!」
バチインと公爵夫人が公爵様の背中を叩いた。
「お母様!その神の啓示が本当で有れば、私達はどうすれば!?」
「はあ~。旦那もエレナも、もっと頭ん中を柔らかくしろ~。あたしが何でルインを連れて来たか、ちったあ考えてみィ」
公爵様とエレナ様が僕の顔を見た。
「叔父様!私のルイン様は神の啓示を撥ねのける力を持たれた凄いお方です!私達RED同盟でこの国の未来を救いましょう!」
レミーナ様の言葉にゴクリと唾を飲み込み公爵様は頷いた。
「そのRED同盟はともかくとして…」
「コラッ、ルイン!RED同盟はあたし達の結束の証だぞ!」
「そ、そのRED同盟なんですが、いったい何なんですか?」
公爵様は血の盟約同盟的な事を言っていたが……。
「RED同盟とはな!」
「RED同盟とは?」
「ルイン(R)と、永遠に(E)、何処までも(D)を誓う、同じ志しを持った者達が集う崇高なる同盟だあ!!!」
腐女子先生が考えた同盟だろうから、どうせくだらないネタだろうと思っていたが、やっぱりくだらなかった。ほら、公爵様が顎を外して大きな口を開けているよ。しかしレミーナ様は瞳を輝かせてウンウン頷いていた……。
「はあ~。それでは当面のお話しをします。先ずは悪い未来を変える一手としてデュラハン討伐は完勝と行きましょう」
僕の言葉に全員が頷いた。
「そして7月、国王陛下を誘拐します」
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