第21話 武術試験の種明かし
「旨いです!美味しいです!余ったら折り詰めにして下さい!」
話しが一段落したところで食事となった。めちゃくちゃ美味い!流石は公爵家の夕食だよ!こんな美味しいもの初めて食べた。料理はテーブルの上のものだけでなく、焼き立てのステーキや魚のパイ包みも出てきた。デザートにはフルーツの盛り合わせ!いやいや豪華過ぎる!
食事も終わり、メイドさんが食後に紅茶を持ってきてくれた。
「ルイン君」
「はい」
公爵様が隣に座る公爵夫人をチラチラ見ながら僕に話しかけてきた。
「君は何故エレナのために力を貸してくれるのかな?」
「……エレナ様には学校でよくして貰っています」
「えっ?私が?申し訳ないといつも思ってはいるのですが、アーベルトと近しいルイン君には余り関わらないようにしていました」
「ふむ?エレナの話しでは余りよくしていないように聞こえが?」
「エレナ様は忘れていると思いますが、学院で初めて僕に挨拶をしてくれたのはエレナ様でした。多分あの時です。僕が僕以外の人の不幸になる未来を変えたいと思ったのは。だから僕はエレナ様の力になりたいのです」
「……たった挨拶しただけで……ですか?」
「僕はあの時めちゃめちゃ感動したんですよ!僕の決意はエレナ様の挨拶から始まったんです」
「が~ん。ルイン様の初めての女性がエレナ……」
レミーナ様が何か言われているようだけどスルーしておこう!
「すみません。いつのことか記憶になくて」
「いえ、それだけエレナ様が皆に平等に接している証拠ですよ」
「アーベルトだけは違いますけどね」
クスっと笑うエレナ様。綺麗な淡い青みのかかった長い銀髪がシャンデリアの光でキラキラと瞬く。あの日も朝の日差しで輝いていたのを思い出した。相変わらずお美しい。
僕がエレナ様に見惚れていると「私もドレスを着て来るべきでした」と何やらレミーナ様の声が聞こえたがスルーしておこう!
♢♢♢
「武術試験で僕が使った魔法ですか?」
「はい!とても気になっていました。今なら教えて貰えますか?」
紅茶のおかわりを貰い、公爵夫人は追加のワインボトルを入れて貰い、談笑の中で武術試験の話題になった。
武術試験の時の魔法かあ。まあ一緒に遠征にも行くわけだし、ネタバレしてもいいだろう。
「あの時に使った魔法は『体感加速』という魔法です」
「『体感加速』?初めて聞く魔法ですが?加速の魔法みたいなものですか?」
「いえ、そこまで凄い魔法ではありませんよ。所謂『加速』の魔法は行動や思考、視力や反射などを高めて高速に動くことが可能になる魔法ですよね」
「……そ、そうなのですか?ただ早くなるだけの魔法だと思ってました」
「はあ~、だからエレナは脳筋思考なんだよ」
公爵夫人からの情け容赦ない突っ込みが入る。『加速』=『早く動く』で半分は正解なんだけどね。
「僕の使った『体感加速』は加速の逆で物事がゆっくり動いて見える魔法です」
「便利な魔法があるんですね」
『便利』で納得してくれたエレナ様だったけど、『便利』では納得できない女の子がいた。
「ルイン君、その『体感加速』の魔法もルイン君式の魔法理論が有るのですよね」
天才錬成術師のカトレア様だ。魔法と魔法理論をセットで考えるカトレア様を流石と評するべきだろう。
「カトレア様は鳩を追いかけたことはありますか?」
「鳩ですか?」
「私は有るよ!公園で妹と鳩を追いかけて遊ぶよ。アイツら捕まえられそうな近いところでもピューと飛んで逃げるんだよね」
「何故か分かりますかリビアンさん」
「ん~~~気配を感じる力が凄いから!」
「違います。カトレア様は分かりますか」
「気配ではなくてですか?……見えているから……ですか?」
「半分正解ですね。鳩には僕たち人間がゆっくり動いているように見えているんです」
「そんな事が有るんですか!?」
フフン~。流石のカトレア様も知らなかったようだ。
「人はどうやって物を見ていると思いますか?」
「は~いルイン様あ、目で見てま~す!」
「うん。そうですねレミーナ様。目で見てますね(うん。それはそうなんだけどね)。では、目はどうやって物を見ているのでしょうか?」
「……光を見ている……ですか?」
「正解ですカトレア様」
「やっと正解しました!」
「ではカトレア様、その光を、目はどれくらいの頻度で見ていると思いますか?」
「光を見る頻度なんて有るんですか?」
「目は物にあたる光源の反射を見ているのですが、この光を人は1秒間に60回見ています。鳩は1秒間に150回、蠅は1秒間に300回見ています。これらのことを総じて動物の臨界融合頻度というそうです。では鳩は何故捕まえられそうで、捕まらないのか?」
「あっ、分かりました!鳩は私たちより倍のスピードで時間を見ている。つまり私たちがゆっくり動いて見えているんですね」
「正解ですカトレア様。つまりそれが『体感加速』の魔法理論です。この魔法で、見る時間を早くしているんです」
周りを見ると僕とカトレア様と公爵夫人以外は、頭にクエスチョンが浮かび上がっていた。
「流石はルインだな!またしても博士号ものの魔法理論だよ!その知識も古代文書かい?」
「いえ、これは生物学の論文集に書いて有りましたよ」
「それを応用して魔法にしたのか。天才は考えることが違うねえ」
「なる程、魔法に対する理解力、柔軟な発想、妻がルイン君を気に入っている理由が分かったよ」
「ブッブ~!あたしがルインを気に入っているのはそこじゃあないんだよね~」
僕は僕の話しに一区切りついたので、ティーカップを取り紅茶を一口、口に含んだ。
「ルインはね、あたしのことを腐女子先生って言ってくれたんだよね~」
ブーーーッ!
口に含んだ紅茶を吹き出してしまった。公爵様の前で何言っちゃってるんですか!
「腐女子先生、いい響きじゃないか!なあオイ!」
公爵夫人の『なあオイ!』に当然誰も反応しない。
「かあ~、だからこの家は堅いんだよなあ、分かるだろルイン!」
いえ、全然分かりません!って言うか酔っぱらってます?
先ほどから手酌でグビグビとワインを飲んでいるように見える。テーブルの上には空になったボトルが4、5本転がっているが、全部先生が飲んでいるのだろうか?
「でなあ、ロインがどんだきスゲえかって言うとだぎゃなあ~」
既にろれつも回らない。ロインって誰よ?
「ラビンはなあ~、BL男子なんらお~~~」
もはや『ン』しか合っていない…。って言うか、何を言っちゃってるんだ腐女子先生!?
「18禁らって読ん「ああああああ先生!あれあれあれ!あれをエレナ様にあげないと!」あれえええ?」
何を語ると思いきや、僕の暗黒歴史かい!
「あ~、お~、あれね~!」
腐女子先生は膝に乗せてあった小さなハンドバッグから10Lぐらいのリュックを取り出した。
「「えっ?」」
公爵様とエレナ様が驚かれた。まるで手品のように小さなハンドバッグから有り得ないサイズのリュックが出てくる。
「これはラビンが~、エレナの為に愛を込めて作ったマジックバッグらあああ!」
「愛は止めて下さい!せめて心!心を込めてです!」
「愛も心も一緒にゃああああ」
にゃあじゃないでしょ!ほらエレナ様が固まってしまったじゃないですか!
「エレナさん!そのマジックバッグはルイン様が全員の分を作ってくれたのです!エレナさんだけでは有りませんからね!因みに私のマジックバッグにはハートのアップリケが付いてます♪」
それはレミーナ様がご自分で付けたんですよね?
「ルイン君?マジックバッグってあのマジックバッグですか?」
「はいエレナ様。いや、これはリュックだからマジックリュックかな?因みにリュックを開けて、奥がマジックリュック、手前が普通の物入れになっています。直ぐに取り出したい物は手前に入れた方が便利ですよ」
「あたしのはハンドバッグだからマジックバッグなのら~」
「では本当に……」
「おいおい!ちょっと待ってくれ!マジックバッグなんて国宝級アイテムだぞ!しかもルイン君が作ったとはどういう事だ!?」
席から立ち上がり公爵様が驚かれている。エレナ様にマジックバッグをあげる時点で公爵様には状況をある程度は話すつもりだった。でもその前に確認しなければいけない事がある。
「公爵様、一つだけお伺いしたいことが有ります」
「なんだね?」
「不敬な事とは承知の上でお伺いします。国王陛下のご容態が悪い事は私のような平民の耳にも届いています。もし国王陛下が崩御された場合、公爵様は次期国王として第1王子様、または第2王子様の何方にお付きになりますか?」
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