第20話 公爵家にご招待されました

 通信機の開発にはフォンチェスター先生の研究室を借りることになった。魔導具の作成には理論付けされた設計図が必要になり、それには魔法発動に必要な術式や魔法陣も含まれる。


 その設計図の作成は、カトレア様が僕が提供した呪文を元に、汎用性を持たせた術式の作成、そして魔法陣へと書き換えて設計図に加えていくという作業を行う。一朝一夕で出来る物では無いが、錬成術の天才であるカトレア様なら実現してくれるだろう。


 そして2週間の時が立ち、エレナ様にアンデッドの群れに襲われた北の街へ、アンデッド討伐の指令が下された。エレナ様は王国衛兵隊と共に北の街へと出立する事になる。


♢♢♢


「カトレア様、僕らが留守の間は1人での行動はしないようお願いします」

「分かっています。それでも万が一の時はこの通信機で助けを呼びますね」

「はい!その時は速攻跳んできます!」


 カトレア様はこの2週間の短い期間で、試作機とはいえ通信機を作り上げていた。まだ改善が必要な個所はあるが、一対一での相互間通信を可能としたのだ。流石は錬成術の天才である。


 僕とレミーナ様、そしてリビアンさんはフォンチェスター先生、いや公爵夫人の口利きでエレナ様に同行する許可を貰えた。


 そして出立を三日先に控えた今日、公爵夫人のお誘いで公爵家の夕食会にご招待された。


♢♢♢


「ほへ~~~、大きいお屋敷だ~」


 公爵家はデカかった!館を囲む塀もデカければ、庭もデカい。お屋敷に至っては僕が泊まっている宿の5倍、いや10倍はありそうだ。いったいこの館に何人の人が住んでいるのだろうか?


「私のお家も大きいですよ」


 いや、レミーナ様、あなたのお家は王宮ですよね!大きいとか小さいとかそういうお話しじゃ無いですよね!


「今度ぜひ遊びに来てくださいね」


 いやいや、無闇矢鱈に行く場所じゃ無いですよね!


 公爵家の夕食会にご招待されたのは僕、レミーナ様、カトレア様、リビアンさんの4人だ。先生が公爵家の豪華絢爛な馬車を学院前に寄越してくれたので、僕達はその馬車で公爵家に訪れた。先生からは堅苦しい服は着なくて良いと言ってくれたので全員が学院の制服だ。


 豪華な玄関前で馬車を降りた僕達。そして黒光りする立派な玄関の扉が開いた。


「おう来たな!入れ入れ!」


 玄関では公爵夫人自らが出迎えてくれた。いつも着ている白衣姿で……。


 初めて訪れた貴族様の家。外も凄かったけど、中はもっと凄かった!豪華絢爛、壁も天井も装飾やらなんやらでピカピカと輝いている!


「せ、先生!ぼ、僕なんかがお屋敷に上がったりしてよかったのですか!?」

「あ~、気にするな。今日は美味いもの沢山食って帰れよ」


 そして通された食堂。これまた煌びやかで、宝石を散りばめた様なシャンデリアがドーンと目に入る。食堂も広くて僕が寝泊まりしている部屋の5倍はある。


「皆さん、こんばんは」


 見れば女神様……いや、グリーンライムの華やかなドレスを着たエレナ様がいた。


「エレナさん!ずるいです!1人だけドレスなんて!私もドレスを着てくるべきでした」

「お客様をお迎えするのですから、礼節をかかない身嗜みは必要かと思いまして……」


 流石は公爵家のご息女だ。ふと白衣姿の公爵夫人を見ればテーブルの上のから揚げをつまみ食いしていたりもする……。


「久しぶりだなレミーナ」


 重厚な声の方を見れば威厳に満ちた佇まいのダンディーなおじ様がいた。ご当主の公爵様はテーブルの1番奥の上座に座られていた。


「ご無沙汰しています叔父様。本日はお招き頂きありがとうございます」


 レミーナ様が公爵様に頭を下げるのを見て僕達も頭を下げた。


「そう畏まるな。今日は娘の友達同士の会食の席だ。君たちもリラックスしてくれ」

「そうよそうよ!エレナがドレスなんか着るから皆が鯱張っちゃうのよ」

「し、しかしお母様、お客様に失礼があれば当家の恥となります」

「そんな恥は私にドンと任せなさい!」


 ……流石は白衣姿の公爵夫人だ。有言実行とはまさにこの事だろう。


「さあ座って座って、料理が冷めちゃうよ」


 テーブルの上には丸々一匹のローストチキンに美味しそうなハムやソーセージ、野菜の煮物や色取り取りの野菜が使われているサラダなど、普段の僕には有り付けない食事のオンパレードだ。


 正面に公爵様、向かって右側に公爵夫人とエレナ様、左側の奥からレミーナ様、カトレア様、リビアンさん、そして末席に僕が座った。レミーナ様からは隣に来るよう言われたが、そこはそれ、身分の序列に従っていた方が無難でだよね。


「君がルイン君だね」

「は、はい」

「妻から君の事は聞いているよ。中々に優秀みたいだね」

「いえ、クラスでは落ち零れグループです」


「おや?エレナも君の事を評価していたようだが?」

「いえいえ、武術試験ではエレナ様には分殺されました」

「エレナと数合交わせるだけでも大したものだよ」


 公爵様のエレナ様への評価は高いようだ。このままエレナ様を上げた話しで進めれば失敗もしないだろう。


「あ~、ルインが手抜きした試合だろ。ルインが本気でやったらエレナなんか秒殺、いやコンマでやられちゃうよ」

「お、お母様、流石にそこまでの差は……」

「ほお、ルイン君はよほどの実力を隠していると?レベルは今どの程度なんだい?」

「僕のレベルですか?たかだか68です」

「そうかそうか、たかだか68か。これからも頑張るんだよ」

「はい!公爵様!」

「……ロクジュウハチ?」


 公爵様はバッと公爵夫人を見ると、公爵夫人は何故かサムズアップしていた。


「お、お母様!ルイン君のレベルは68なのですか!」

「そうさ!レベルだけなら王国最強って事になるね」

「いえいえ、僕なんかまだまだ魔王の足元にも及びません」


 僕の隣に座っているレミーナ様達が何故かジト目で僕を見ている。


「ルイン様、伝説の魔王と比較してどう為さるつもりですか?」

「ルイン君……間違いなく王国最強ですよ」

「ルインは何で自分を下げるかな~」

「えっ?でも魔王とやるならレベル80はないと厳しいのが世の常識ですよね?」

「「「何処の世の常識ですか!?」」」

「あれ?」


 おやおや?この世界には対魔王戦には備えていないのかな?あっ!?そっか!『王子様暴走編』には魔王は出て来ないんだった。うっかりうっかり。テへ。


「ルイン君、君は本当にレベル68なのですか?」

「はい。因みにレミーナ様が42、リビアンさんが38です」

「えっ!?」


「エレナ様にお話しがあって今日は赴きました。謹厳実直であられるエレナ様はズルがお嫌いかもしれませんが、一度だけで構いません。ズルをして欲しいのです」

「私がズルを?」

「あたしからもお願いするよ。娘の無残になる姿は見たく無いからね」

「お母様……」


 やはりズルという言葉を聞いてエレナ様は戸惑っているようだ。


「ルイン君、何か事情が有るのかい?」

「はい公爵様!次の遠征で討伐するラスボスはデュラハンです」

「デュラハンだと!!!遠征は中止だ!国軍を!聖国にも応援を求めよ!」


 デュラハンと聞いてかなりの焦りを見せる公爵様。不死に近いアンデットモンスターのデュラハンは、災害レベル特A級モンスターで、討伐レベルは50近くないと討伐は難しい。


「公爵様、エレナ様がある試練を乗り越えれば討伐レベルの50は超えられると思います」

「討伐レベル?何のことだ?そもそもルイン君は何故デュラハンが出ると分かっている?君はこの遠征に何か関係しているのか!?」


 スパーン


「「「えっ!?」」」


 幻?錯覚?公爵夫人が公爵様の頭をスリッパで叩いたよ?叩いたよね?


「ルインは天才なんだから有り有りなんだよ!公爵だろうが国王だろうが、ルインの言うことに耳をしっかり傾ける!分かった?」

「はい……」


「「「……………」」」


 叱られた子犬のように小さくなる公爵様……。


「で、エレナはどうするんだい」


 ビクッと肩が持ち上がったエレナ様。公爵家で1番強いのは腐女子先生なのか!?


「ル、ルイン君」

「はい」

「君がいう討伐レベルとはデュラハンを討伐する為に必要なレベルという事ですか?」

「一つの目安です。B級モンスターならレベル30、A級ならレベル40、特A級でレベル50です。デュラハンは特A級ですからレベル50は欲しいです。残念ながら今のままのエレナ様ではデュラハンに一太刀も浴びせる事が出来ないと思います」

「……私がその試練を受ければデュラハンに勝てますか?」

「はい!しかも今回は光魔法レベル40のレミーナ様が同行しますので鉄板ですね!」


「……それで急遽レミーナが同行することに」

「はい!公爵夫人にお願いして割り込ませて貰いました」

「お母様が?」

「フフン~。可愛い娘の為だからね。こんな時ぐらいは権力を使うさ

「……分かりました。その試練受けさせて貰います」

 こうしてエレナ様も荒くれメタルナイトスライム無双をやる事が決まった。


 因みに『王子様暴走編』ではアンデッド討伐は裏ストーリーになる。本編ではアーベルト様は第1王子が放った暗殺部隊と死闘を繰り広げている筈だ。レベル上げを怠っているアーベルト様は暗殺部隊にボコボコにされているだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る