第19話 テレポートとは?
「それで、何でお前らは私の研究室にいるんだ?」
「こんにちは叔母様」
「お邪魔していますフォンチェスター先生」
あの後、カトレア様が僕のアイディアをどうしても聞きたいとの事で、レミーナ様の発案で腐女子先生の研究室に来た。フォンチェスター先生は不在だったが部屋の鍵が掛かっていなかったため、レミーナ様が勝手に部屋に入ってしまって今に至る。
「ふう~ん」
僕達の顔を見渡すフォンチェスター先生。
「察するに例の話しにカトレアが加わったってところか」
「はい!カトレア様も無関係ではありませんし、カトレア様が研究中の通信機は必ず役に立ちます」
「ふ~ん。でもまだ手探り状態何だろう?」
「そこで僕が協力して開発ピッチを早めます」
「確かにルインのレベルは常軌を逸しているが、どうすんだ?」
「カトレア様には空間魔法の理論を覚えて貰います!」
「オイオイ、空間魔法なんてロストマジックを今から研究していたら婆さんになっちまうぞ!」
「そこは僕が実演交えて教えていきます」
「……耳が遠くなったかな?実演って聞こえたが……」
「はい!僕が実演をしながら空間魔法の理論を覚えて貰います。魔法が使える使えない関係なく、魔導具作成には理論に基づく設計図が必要ですからね!」
「……ルイン?使えるのか?空間魔法だぞ?」
「はい!初級の簡単な魔法だけですが」
「初級も何も……、ロストマジックだぞ……」
「エッヘン!私のルイン様は凄いんですよ叔母様!」
フォンチェスター先生は僕の顔を見て溜め息をついた。
「打っ魂消たよ。私のかどうかはともかく、ルインのあのレベルだ。何かあるとは思っていたが、まさか空間魔法の使い手だとはな」
フォンチェスター先生はそう言って机の上にあるカップをとり、冷めているだろうコーヒーを飲んだ。
「正確には時空魔法が使えるんですけどね」
ブーーーーーーーッ!
フォンチェスター先生が口に含んでいたコーヒーを思いっ切り噴き出した。
「時魔法だとおおお!有りえんだろ!因果はどうなる!時の理に触れるなんぞ神の所業だぞ!」
「あ、僕の使える魔法はごく短い時間に限られます」
「いや、しかしだな……。まあいいや。王家を相手にしようってんだ。それぐらい打っ飛んでいる方が頼もしいってもんだな」
公爵夫人とは思えないぼさぼさの金髪を、手でくしゃくしゃにしながらニヤリと笑った。
♢♢♢
「では空間とは何でしょうかレミーナ様?」
「……?この辺りに漂っているものですか?」
「カトレア様はどう思います」
「…そうですね。それは点であり、線であり、面であるもの…」
「そうですね。そんなに難しく考えないで、横と縦と奥行きが無限に存在する場所って事で、ここでは定義しておきましょう」
そんな僕達の話しをフォンチェスター先生はニヤニヤしながら聞いていた。
「フォンチェスター先生?何か気になることでも?」
「いやいや、生徒達が魔法理論について語り合う姿に感動していただけだ。気にしないで続けてくれ」
「はあ?それではレミーナ様、ここと、ここと、ここ」
僕は適当な何も無い場所を指差した。
「この場所の事を何て言いますか?」
「え、え、な、何も無い場所ですよね」
「あ、それはざ…「カトレアさんは答えないで下さい!私が答えます!」」
カトレア様は分かったようだが、レミーナ様は頭を悩めている。
「レミーナ様、横、縦、奥行きですよ」
レミーナ様はぶつぶつと横縦奥行き横縦奥行きと呟いている。そのうちにxyzxyzと呟き始めた。うん!もう少しです!
「(ぶつぶつ…xyzが齎す解は点?その点は何?)……分かりましたわ!座標です!」
「「正解!」」
僕とカトレア様の声がハモった。僕達3人は目が合って笑いあった。それをフォンチェスター先生が優しい笑みで見つめていた。
♢♢♢
空間についての座学が終わり、続いて亜空間ついての話しをする。
「皆さんはマジックバックをご存知ですよね」
「超レアアイテムですよね」
「王宮にも1つしかありませんし、私は見たこともありません」
「フォンチェスター先生、そこの僕の鞄を取って貰っていいですか?」
「あいよ」と言って先生が僕の鞄を手に取る。
「随分と軽いな。ちゃんと教材は入れとけよ」
そう言った先生から鞄を受け取る。そして鞄を開けて皆に中身を見せる。
「先生がおっしゃる様に、僕の鞄には何も入っていません。それではお立ちあい」
僕は何も入っていない筈の鞄から教科書を取り出す。
「「「えっ!?」」」
「はい、国語、算術、理科、社会、お昼寝用の枕まで出てきちゃう」
「「「ま、まさか!?」」」
「はい!これは僕が作ったマジックバックです」
「初めて見ました!」
「噂通りに物が沢山入るんですね!」
「オイ!お前ら!驚くのはそこじゃない!ルインは僕が作ったって言ったんだぞ!」
「「………えっ!ええええええええ!?」」
「マジックバックは空間操作魔法で作成出来ます。今回はそれは大して重要ではないので一先ず置いといて…」
「ちょっと待てルイン!それは大した事だぞ!」
「いえ、今回は亜空間の説明をしたくて、サンプルとして見て頂いただけですからね。実際の亜空間を身近で見た方が説明しやすいので。百聞は一見にしかずです!」
「「「……(事の重大性に全く気づいてないな(ですね)(です))」」」
何故か3人が溜め息をついているが、僕は話しを続ける。
「先ずは亜空間というものが存在する事はこのマジックバックが証明してくれました」
「「はあ」」
なんだ?気のない返事だなあ。
♢♢♢
「それではもう1つ魔法をお見せします。あのリンゴを見ていて下さい。空間歪曲!」
先生の机の上にあったリンゴに魔法をかけた。
「リンゴが歪んで見える?」
「何の魔法ですか?」
「先生、そのリンゴを動かして貰っていいですか」
「お、おう……。あ?動かないぞ!?」
先生が机の上のリンゴを握って動かそうとするが、リンゴはピクリとも動かない。
「そのリンゴは空間の歪みによって、空間のひずみに嵌まってしまっている状態のため、動かすことが出来ません。空間は歪むものだと覚えておいて下さい」
「「「……………」」」
♢♢♢
「では話しの本題に入ります。テレポートの魔法は、先に説明したこの空間の2つの座標を、亜空間を通じて0距離にする魔法です。ここから先は僕の仮説になりますが、仮説も理論の1つです。魔法だからの一言で片付けては魔導具作成の為の設計図は作れませんからね」
そして僕は学院服の上着を脱いだ。
「では僕の上着の右袖をレミーナ様が、左袖をカトレア様が持って、ピンと一直線に張って下さい」
2人は僕の指示で左右の袖口を持って上着を引っ張る。
「今お二人の距離は約2M離れています。この右袖から左袖の距離が現実空間の距離、袖口が2人の空間座標になります」
2人はコクリと頷いた。
「では僕が服を下に引っ張っていきます。この力が亜空間の歪みの力だと思って下さい。お2人は引っ張られる力に合わせて歩いていって下さい」
「「分かりました」」
そして僕は上着の襟元を下に引っ張る。それによって歩き出した2人の距離が近くなっていく。僕が床まで襟元を下げた時に2人の距離は手と手が重なるほど近づいた。
「どうですか?学院服の右袖から左袖の距離は変わらないけれど、襟元に力、つまり亜空間を歪曲させる力を加えることで、2人の袖口、つまり現実空間の座標は重なりました。これが僕の距離を一瞬で0距離にするテレポート理論の仮説です」
パチパチパチパチパチパチ
「見事だ!お前が見せた古代魔術の数々、そしてそれを元にしたお前のテレポート理論!完璧じゃないか!今までテレポートの魔法は古代魔術だから、ロストマジックだからと、碌に研究もされてこなかった。それをお前は完璧な理論で証明して見せた!私が学院長なら博士号を与えているぞ!」
「素晴らしいです!素晴らし過ぎます!流石は私のルイン様です!!!」
「天才よ!貴方こそ天才よルイン君!絶対にこんなことルイン君以外に思いつきません!」
前世の記憶にあるSF知識の応用なんだけれど、褒められたことが無い僕はめちゃくちゃ嬉しい!
「で、ではこの理論を応用して通信機を考えていきます」
「はいルイン君!2人の共同作業、絶対成功させましょう!」
「オッ!なんだ2人の共同作業って!愛の共同作業ってか」
「な、何を馬鹿な……」
「そ、そうですよ……。変な風に言わないで下さい先生」
アハハハと笑う腐女子先生。
「わ、私もルイン様と愛の共同作業したいですううううう!」
レミーナ様……変なことを大きな声で言わないようお願いします!
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