第18話 校舎裏が聖地だった件

「あの~私に2人だけでお話しがあるのですよね?」

「はい」


 人気のない放課後の校舎裏。僕の前には何故か顔が紅潮しているカトレア様がいる。


「そ、それで……何故レミーナ様がいらっしゃるのですか?」


 僕の隣には何故か仁王立ちしているレミーナ様がいる。


「私がいては不味いお話しでもあるのかしら?」


 そして何故かレミーナ様はガルルルとカトレア様を威嚇している?何やってるんですかレミーナ様?


 まあ、何故レミーナ様がいるかというと、図書室を出たところで偶然レミーナ様と会ってしまい、校舎裏に行くと言ったら「絶対ご一緒します!」と言ってついてきたのだ。


「それでルイン様とカトレアさんは、どう言ったご用件で放課後の校舎裏という聖地に来たのですか?」


 はて?校舎裏が聖地?う〜む、確かにお昼ご飯の時はボッチ達の聖地かもしれない。レミーナ様、上手いことを言うな!


「僕はカトレア様に言わなければいけない事があります!」

「「えっ!?」」

「ぼ、僕はカトレア様が……す」

「「す!?」」

「す……」

「「…………」」

「凄く心配なんです!」


 言ってしまった!……あれ?何でカトレア様は肩を落とし、レミーナ様は胸を撫で下ろしているんだろうか?


「ル、ルイン君!!!」

「はい!」

「そう言う事は放課後の校舎裏で言わなくてもいいと思います!!!」


 あれ?何でカトレア様は怒っているんだ?


「確かにルイン様が悪いですよ。放課後の校舎裏は神聖な場所なんですから」


 えっ!?校舎裏って神聖な場所だったの?毎日お昼ご飯を食べていたけど、もしかして駄目だった!?


「すみません。誰にも聞かれたくない話しがあったので、特に校舎裏じゃなくてもよかったのですが、他に場所を知らなくて」


 何故か2人は「はあ~」」と溜め息を吐いているよ?


「それでルイン君、話しというのは何ですか?」

「その前に、カトレア様は神の啓示を信じますか?」

「ルイン様!!!」


 神の啓示と聞いてレミーナ様が慌てたが、僕は目線で大丈夫と伝えた。


 カトレア様は僕とハラハラ顔のレミーナ様を見て考えている。レミーナ様がこの場にいた事は結果的に良かったのかもしれない。


「質問にお答えする前にレミーナ様にお伺いしたい事があるのですが、宜しいですか?」

「私にですか?何でしょうか?」

「レミーナ様はルイン君の事をルイン様とお呼びになるのはどうしてですか?レミーナ様のお立場ならルインでもルイン君でもよいと思うのですが?」


 うん!僕もそれは不思議に思っていた。


「それはルイン様が尊きお方だからです!!!」


 ピキッと何かがヒビ割れる音がしたのは気のせいかな?あれ?カトレア様が真っ白に固まっているのも気のせいだよね!


「レ、レミーナ様もル、ル、ルイン君のBィ「ああああああ!それは違いますカトレア様ああああ!」」


 カトレア様の大いなる勘違いが暴走する前に僕が割って入った。


「レミーナ様も僕の事を尊いとか言わないで下さい。僕は平民なんですからあ」

「何を仰いますか。ルイン様は私の命の恩人であり、心の支えであり、この国の英雄と成られるお方です。私は心からルイン様をお慕いしております!例えルイン様が平民であっても私は……私は……」


 そう言ってレミーナ様は僕の胸に縋り付き泣いてしまった。


「僕のことを信じてくれていてありがとうございます、レミーナ様」


 そんなレミーナ様の柔らかい絹のような髪の上にそっと手を置き、頭を撫でた。


「ルイン君にとってもレミーナ様は大切なお方なのですね」

「はい!僕の大切なお友達ですから!」


 ピキッ


 ピキッ?何の音?あれあれ?何でレミーナ様から殺気を感じるのだろう?気のせい?うん!きっと気のせいだよね!アハハ。


「レミーナ様、分かりました。ルイン君はレミーナ様の騎士様なのですね」


 僕の胸に縋り付いていたレミーナ様の肩がピクッと動いた。


「……騎士様……。ルイン様は私の……騎士………」


 何やら呟いたレミーナ様がガバっと僕の肩を持ち、顔を上げ、強い意志を灯した瞳で僕を見つめた。


「そうですルイン様!!!」


 何が?


「ルイン様が武功を立てて騎士に成れば良いのです!そうです!そうなるべきです!そうでなくてはなりません!素晴らしいアイディアですカトレアさん!」


 レミーナ様は1人で納得して、1人で自己完結した。何はともあれレミーナ様が元気に成られて良かった。


「ルイン君、私もルイン君を信じています。だからルイン君が神の啓示を信じているなら、私も信じます」

「ありがとうございますカトレア様。でも神の啓示は……良いものではありません。それでも聞いて貰えますか?」


「……ルイン君はマークスの黙示録を読みましたか?」

「マークスの黙示録?いえ、読んでませんが?」


「マークスの黙示録も神の啓示と言われています。古代魔法時代の事です。マークスはある日突然自分の知らない記憶に目覚めました。


 その記憶の中では海を埋め尽くす海獣達が岩石の咆哮を放ち、巨大な海獣から竜達が飛び立ちます。


 空を飛ぶ竜の群れが沢山の卵を生み落とし、落ちた卵が爆発して街中に炎と爆風が吹き荒れます。


 街から逃げ延びた人々の先には、地を這う亀の群れがいて、口から巨大な炎の岩を噴き出して、逃げ延びた人々に襲い掛かります。


 そして最後は魔王の放つ暗黒の光と神々が放つ光がぶつかり世界は滅びました。


 その記憶に恐怖したマークスは、それは神の啓示であり、未来に起きる魔王大戦、そして神の捌きと世界の破滅として書に書き留めたものが、マークスの黙示録です。


 神の啓示は、得てして不幸な未来への啓示として幾つかの記録があります。ルイン君が賜った神の啓示も不幸な未来の啓示なのですね」


 才女にして図書室の主、様々な知識を有する天才錬成術師のカトレア様は僕の前世の記憶、いや神の啓示が不幸な未来を示唆しているといい当てた。


「カトレア様にとっても良い話しではありません」

「……私に話しを持ちかけるのですから、そうなりますよね。それでもルイン君が私に語らなければならない未来があるのでしたら、私は閉ざす耳を持ち合わせていませんよ」


 そうして僕は空間把握魔法で周囲を警戒しつつ、カトレア様に起こる事件や国王陛下の崩御から始まる一連の話しをした。


「………腐ってますね。とても許せない程に……この国の未来は……」


 清廉潔白のカトレア様だ。国家動乱など看過できよう筈がない。


「それでカトレア様が研究中の『遠くの人と話しをする魔導具』、略して通信機の作成ピッチを上げていきたいと思います」

「確かにその通信機があれば色々と役に立つのは分かりますが、まだまだ資料不足で進捗は亀の歩みの如しです」


「カトレア様、先ほど僕がテレポートのお話しをしましたよね」

「ええ。でもテレポートのスクロールなんて直ぐには手に入りません」


 そこで僕は右手を前に出した。僕の意を察したレミーナ様が僕の手にレミーナ様の手を重ねる。


「カトレアさん、ルイン様の手に手を重ねて下さい」


 状況がよく分からないカトレア様だが、そっと僕達の手に手を重ねてくれた。


「テレポート」


♢♢♢


「えっ?えっ?えっ?ええええええっ!!!」


 夕陽によって赤く染まる遠くの山々を見渡せる学院の屋上。この時間は鍵が掛かっていて学院生は立ち入ることが出来ない。誰もいない屋上に僕達はテレポートした。


「ルイン君ルイン君ルイン君ルイン君ルイン君」


 ゆっさゆっさゆっさゆっさと僕の肩を揺するカトレア様。


「何何何何何何何?何で何で何で何で何で!?」

「お、おお、落ち着いて下さいい、カトレア様あ~」


 カトレア様が揺さぶるのを止めてくれた。


「テレポートの魔法です」

「カトレアさん、私のルイン様はロストマジックの使い手なのです!」


 エッヘンと胸を張るレミーナ様。「私の」ってどういうことですか?


「テレポート……、ロストマジック……、ルイン君が?」

「はい!だから通信機の開発は僕もお手伝いします!」

「……ルイン君って何となく感じていたけど、やっぱり凄い人だったんですね」

「当然です!私のルイン様ですから!」


「ルイン君と2人で共同作業になりますね!楽しみです!」

「ル、ルイン様と……きょ、共同作業……」

「カトレア様、宜しくお願いします」

「ルイン君、宜しくお願いします」

「わ、私もルイン様と共同作業したいですううううううう!」

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