第16話 誰が為に戦う

 土日の二日間を3人で荒くれメタルナイトスライム無双をした。レベルは熟練値と経験値の掛け合わせでレベルアップする。熟練値は修練、教練、勉学で得られ、経験値は修練と実戦で得られる。


 100匹近い荒くれメタルナイトスライムをモグラ叩きして得られたのは莫大な経験値だ。如何にB級モンスターを100匹倒したとはいえ、モグラ叩きでは修練値が上がるほど現実は甘くない。それでも元が10レベルぐらいだった2人は経験値だけでもかなりのレベルアップをしている筈だ。


 そんな訳で休み明けの月曜日の放課後、僕達3人はレベルを確認するために学院の『昇級の間』に来ていた。この部屋にはレベルを確認する魔導具がある。


「オッ! BL少年じゃないか!」

「誰がBL少年ですか!」

「女子生徒達からあの続きを、お前さんに読んで欲しいとせがまれているんだわ。今度お願い出来ないか?」

「お願い出来ません!」


 魔導具の使用には先生の立会いが必要だった。今後の僕達の行動を考えると信用のおける先生を1人味方につける必要がある。レミーナ様がそれならばと連れてきた先生がこの腐女子先生だ。


「で、お前ら何でレベルを確認したいんだ?」


 レミーナ様相手でもお前ら扱いする腐女子先生。


「叔母様、私達にはこの国を守るためにやらねば成らぬ事があります!」

「オオ! 厨二ワールドか! 先生はそういうのも好きだぞ!」


 やっぱり腐ってるなこの先生は! ……ん?今レミーナ様は叔母様って言ったよね?王女様が言う叔母様って事は腐女子先生は王族の人?


「ね、ねえ?」

「何ですかリビアンさん?」


 隣のリビアンさんが僕をツンツンしてきた。


「ルインってBLなの?」


んなコトあるかい!


「ち、違いますよ! 腐女子先生が勝手に言っているだけです!」

「アハハハ! あたしは腐女子先生かい! ますます気に入ったよBL少年! うちの娘と結婚してくれ! 堅苦しい家の中が明るくなるってもんだ。是非とも澱んだ家の空気を払拭してくれ!」

「それって僕には、家の中の澄んだ空気を腐食してくれとしか聞こえないんですが……」

「アハハハ! そうとも言うな!」


 オタクネタで家庭内が明るくなるんですか?い、いやそんな事よりこの先生の正体だ!


「な、何を言っているんですか叔母様! ルイン様が困っているではないですか!」

「そうか?うちの子も武術試験で面白い子と試合が出来たと、BL少年に興味を持っていたぞ」


 ……武術試験で対戦したのは1人しかいない。……えっ!? そうなの! あの高貴を絵に描いた様なエレナ様のお母さんが腐女子先生なの!?


「れ、レミーナ様……腐女子先生って……エレナ様の?」

「……はい。フォンチェスター先生はエレナさんのお母様です」


 流石は異世界だ! 腐女子が鷹を生むとは! いや違う! ヤバいがヤバい! ヤバい!


「すみませんでした!」

「どうした?急に謝ったりして?」

「こ、公爵夫人に僕は失礼にも腐女子先生などと言ってしまいました」

「あ~、気にするな! 腐女子先生! いい響きじゃないかあ!」


 公爵夫人は全く怒っていなかった。……良かった、腐ってて。


♢♢♢


「ルイン、その話しは何所まで本当なんだ?」


 僕は公爵夫人であるフォンチェスター先生に国王崩御からアーベルト様のクーデターまでの一連の話しをした。


「これは僕に降りた神様の啓示です。僕が死ぬ運命が変わったように、未来は常に変わって行きます。ですので全てがそうなるとは言い切れませんが、それを変える要素が無いのも事実です」

「……それでお前さん達が未来を変える為に動こうって事だね」

「「「はい」」」


 僕達の返事を聞いて考え込むフォンチェスター先生。


「レミーナとリビアンが国を守るために動こうってのは分かる。しかしルイン、平民のお前さんが何故命を落とすかもしれない危険な橋を渡るんだ?」


 それに返事をしたのはレミーナ様だった。


「それはルイン様が私の未来を共に進むと誓ってくれたからです!」

「ん?それはルインと結婚するって事かい?公爵家のうちなら兎も角も、王家の王女様じゃ平民とは結婚なんて不可能だろう」

「ひっ!?」

「ルインだって分かってるよな。それでも戦う理由をあたしは知りたい」


 ……僕が戦う理由……。この事は誰にもまだ話してはいない。余りにも残酷な彼女達の未来……。僕は……。レミーナ様とリビアンさん、そして無関係ではないフォンチェスター先生の顔を覗う。


「ルイン様……私は……私の命を、私の心を救ってくれたルイン様を信じています」

「ルイン、私もルインを信じてるよ!」


 ありがとう……。僕は頷いて彼女達の悲劇の未来を語ることを決めた。


「……僕が神様の啓示で未来を変えたお話しはしましたよね」


 3人が頷く。


「……この国は腐っています。国王崩御の後の国家動乱……。そしてそれに巻き込まれ奴隷落ちする悲劇の女の子達……。その女の子達を助けるために立ち上がり命を落とす忠信の少女……」


 全員が目を見開き、固唾を飲み、握る拳を振るわせて聞いていた。


「だから! だから僕はこの腐った国の未来を変えたい! 絶対にこの国の未来は間違っている! 貴族も平民も関係ない! みんなが笑って暮らせる国! 僕はレミーナ様もリビアンさんもエレナ様だって一緒に楽しく笑って……」


 その未来を思い浮かべてしまった僕は、涙で声が詰まり、その先を語る事が出来なかった。


 そんな僕をレミーナ様が優しく抱き締めてくれた。リビアンさんが僕の手を強く握ってくれた。フォンチェスター先生が頭にそっと手を乗せ頭を優しく撫でてくれた。


 ……ありがとう。声には出なかったけど、みんなが頷いて分かってくれた。


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